若い世代の意識や行動の変化が、各国の選挙や政策動向にも巨大な影響を与えているのだ。アメリカで民主党の大統領候補指名を目指したバーニー・サンダースが巻き起こした旋風は記憶に新しい。

 「民主社会主義者」を自称し、大学の授業料無償化、学費ローンの免除といった政策を掲げるサンダースを支えたのは、大学生を中心とする若者世代であった。「99%対1%」のスローガンを掲げ、富裕層と対決し、富を配分することを主張するサンダースの姿勢が若者たちに圧倒的に支持されたのだ。こうした若い世代の声は、現在のバイデン政権の政策にも影響を与えている。

 イギリスでは、反緊縮や格差是正を訴えたジェレミー・コービンが、生活苦に直面する若年層の支持を集め、2015年に労働党の党首に選出され、スペインのボデモス、ギリシャのシリザのような、社会運動と結びついた新しいタイプの政党の台頭も見られた。ここでも、若者たちが運動における中心的な役割を果たしていた。

 さらに、格差を是正させる政治運動に加え、未来のための金曜日、ブラック・ライブズ・マター、#MeToo運動をはじめ、世界では、Z世代が主役となり、様々な新しい社会運動が台頭している。

 このように、世界の若者の間で「左傾化」が進んでいる。彼らは一つ上のミレニアル世代と合わせて、「ジェネレーション・レフト」(左翼世代)と呼ばれている。

 こうした変化はなぜ生まれたのだろうか? 本稿では、2019年にイギリスで刊行されたキア・ミルバーン『ジェネレーション・レフト』(2021年、堀之内出版)をもとに、若い世代の変化について考察していきたい。

変化の要因1 世界経済の長期停滞

 ミルバーンによれば、今日の世界では「年齢」が政治における「分断の決定的な要素」になっているという。そして、政治家たちは、若者の動きに極めて敏感にならざるをえなくなっている。それは、これまで考えられなかったような事態が、近年起こっているからだ。

それは年齢が政治における分断の決定的な要素として現れてきたということだ。若者たちは左派に投票し、左翼的な考えを持つ傾向がますます強くなる一方で、年配の世代は右派に投票し、保守的な社会観を持ち、政治的にもますます保守的になる傾向が強くなっている。(中略)ここまでの分断は前例がなく、世間の注目を集めつつあるが、その政治的重要性は見過ごされたままだ。〔22頁〕

 アメリカで行われた2018年の調査では、18歳から29歳のアメリカ人のうち、51パーセントは社会主義を肯定的にとらえており資本主義に対する賛同(45パーセント)よりもその支持は高かった。2010年には同じ年齢層の68パーセントが資本主義を肯定的に捉えていたことを踏まえると、若者を襲う格差や貧困といった現実の矛盾の原因を資本主義に求めていることがわかる。

参考:Democrats More Positive About Socialism Than Capitalism

 イギリスでも、2019年の総選挙では、18歳から24歳の62パーセントが、25歳から34歳の51パーセントが労働党に投票しており、2015年にはそれぞれ40パーセント強から30パーセント半ばだったことを踏まえると、ますます若者は左派に投票する傾向が強まっている。

 このように、「世代が政治的に分裂したのは、人々の物質的利害が分裂したからである」とミルバーンは説明する。年金を金融資産として保有し、持ち家を所有している年配の世代と、持ち家を持たず、賃金に依存して生活せざるを得ない若者との間で経済上の利害が対立しているのだ。

 確かに、経済危機の影響は各世代に偏りなく及んでいるわけではない。リーマン・ショックから10年以上経過した今でも、世界経済は長期停滞から抜け出せずにいる。新自由主義政策が進んだ結果、先進国では、中間層が没落し、経済格差が深刻化している。その負の影響を最も被っているのが若い世代だ。

 長期にわたり経済が低迷するなかで、社会には閉塞感が漂い、若者たちは豊かになる展望を描けずにいる。高騰する教育費の負担を求められ、巨額の学生ローンを抱えて大学を卒業しても、安定した仕事を見つけられるとは限らない。家賃の高騰も相まってぎりぎりの生活を強いられ、住宅を購入することも結婚をすることも困難になってきている。

「第三の道」の失敗

 2000年代には、イギリスのブレア首相を中心に、行き過ぎた新自由主義の弊害を是正し、市場経済における政府の役割を再構築するとした「第三の道」が登場し、左派(労働党)政権が与党に返り咲いた。

 硬直した福祉国家路線が否定される一方で、新自由主義のサッチャー政権が生まれた経緯を踏まえ、資本主義の活性化と行き過ぎた新自由主義の抑制を合わせ、新たな道を提示しようとしたのが「第三の道」だ。

 「第三の道」においては、自由市場経済をベースにしながらも、これを洗練させ、環境対策や女性やマイノリティーの権利擁護など、多くの人々の社会的包摂が図られていった。世界的にも「第三の道」は、自由主義と福祉国家の対立を乗り越える、資本主義の希望の光のように見えていた。

参考:アンソニー・ギデンズ『第三の道―効率と公正の新たな同盟』

参考:田端博邦『グローバリゼーションと労働世界の変容 労使関係の国際比較』

 ところが、ミルバーンによれば、この「第三の道」は危機を根本的に解決するものでないことが近年明白になっているという。

 イギリスのミレニアル世代(1980年から1985年生まれ)が歴史上初めて、自身の二つ上の世代よりも生涯年収が低くなり、2007年以降、16歳から34歳の保有する富は10パーセントも減少した。

 大学の学費を負担するためには借金漬けになるしかなく、卒業してもまともな仕事を見つけられない。彼らが30歳になるまでに得られる平均収入は、ひとつ上の世代の人が30歳になるまでに得られる平均収入よりも8000ポンド(約120万円)も少ない。

 さらに、グローバル資本主義がもたらす気候変動や環境危機の深刻さが知れ渡るようになり、資本主義に代わるオルタナティブをつくろうという動きが若い世代を中心に広がったのだ。

変化の要因2 二つの世代的な「出来事」

 若い世代が左傾化した要因はそれだけではない。ある歴史的な「出来事」がジェネレーション・レフトの台頭をもたらした。

 ミルバーンによれば、「出来事」とは「社会のコモン・センス(常識)を打ち破るような変化が突如として起こる瞬間」のことである。いくつかの「出来事」が、世界で「世代」による分断を急激に形成していったという。

出来事が世代を作り出す。より正確に言えば、出来事はこれまでとは区別される、新たな政治的世代が誕生する可能性の諸条件を作り出すのである。 〔58頁〕

 この点について、『人新世の「資本論」』の著者で『ジェネレーション・レフト』の監訳者でもる斎藤幸平氏は、「日本語版への解説」のなかで、「ジェネレーション・レフト」の台頭には二つの「出来事」が決定的だったと説明している。

参考:『POSSE vol.48 特集 ジェネレーション・レフトの衝撃』

 一つ目は、2008年のリーマン・ショックである。金融危機によって多くの人々が貧困に陥り、新自由主義によって削減された社会保障制度のもとで苦しい生活を迫られるようになった。この「経済的」出来事が「世代が生まれる素地」を生み出した。

 もう一つの「政治的」出来事が、2011年のウォール街占拠運動やスペインの15M運動といった世界的な抗議運動である。「アラブの春」からはじまり、エジブト、チュニジア、欧州、アメリカ、トルコなどに国境を越えて広がった国際的な抵抗運動の波は、相互に増幅し合う関係となり、世代的な「出来事」となった。

 2008年の出来事が世代状態を生み出す「受動的に捉えられた」ものだとすれば、2011年の出来事は国際的なジェネレーション・レフトを誕生させる能動的な契機となった。

 リーマン・ショックは「世代が生まれる素地」を生み出したものの、それは「受動的出来事」にすぎないというのは、私たちの実感にも合致するだろう。この時点では日本も含め、若者たちは「犠牲者」というニュアンスが強かったように思う。

 今日のジェネレーション・レフトが誕生するためには、「既存の社会的および政治的可能性を超越するような集団的行動の瞬間によって生み出される亀裂」が必要だったということだ。実際に、このころから、私たちも、海外の行動する若者たちを、ニュースを通じて目にするようになった。

 斎藤氏は次のように述べる。

この運動に参加した若者たちは、この第二の「出来事」を能動的・積極的なものとして経験したという事実が重要である。(中略)この共通経験を通じて、これまでとは異なる集団的主体が形成され、自分たちの力で新たな社会を生み出せるという確信が得られたといってもよい。

 このように、国際的な抗議運動への参加という共通経験を能動的に築き上げたことによって、ジェネレーション・レフトが形成されたのだ。

日本社会にジェネレーション・レフトは誕生するのか

 翻って、日本の状況はどうだろうか。

 日本でも、かつての日本型雇用システムは縮小し、非正規雇用が増加するとともに、新自由主義政策が進められた結果、社会保障は削減され、貧困が拡大している。

 しかしながら、現状、日本では、欧米のような若い世代の社会運動が台頭し、政治に影響を与えているとはいえない状況にあるように思う。むしろ、日本の現状に適応し、そのなかで上昇を図ろうとする流れの方が強いのではないだろうか。

 典型的なのが、転職によるキャリアアップを促す言説の浸透だ。インターネットやSNSを含め、若者の生活空間には、自己投資を通じてスキルを磨き、流動化した労働市場に適応せよというメッセージが氾濫している。

 「就活」でも、海外とは違い、「やる気」や「コミュニケーション力」など、海外では見られない「人格評価」の採用基準のもと、「自己分析」を通じて自分の内面を否定し続けることを要求され、企業にどうしたら受け入れてもらえるのかを考え続けなければならない。

 採用後も、日本の企業では、ような配置転換(あらゆる業務への転換)や、全国転勤命令に応じなければならない。これほど柔軟な「適応」は、海外では求められることはない。

 このように、日本の若者の生活や価値観は、非常に強く企業に支配されている。それが海外とは違うところだろう。

増加する若者の異議申し立て

 しかしながら、こうした適応が困難であることを理解し、それに抗おうとする動きもないわけではない。2010年代に広がった「ブラック企業」に対する告発はその現れであった。

 また、朝日新聞の「論壇時評」で取り上げられた、POSSE事務局長の渡辺寛人の論考によれば、特に、若い女性たちが、社会問題を解決するための活動に積極的に参加している。

 コロナ禍で若者は就職活動などから相対的に自由な時間を獲得することができたことに加えて、苛烈なセクシズムによって社会的マイノリティに置かれた女性が自己責任論を相対化し、外国人や難民の困窮状態を「おかしい」と考えて、マイノリティー支援のボランティアとして関わる女性が増えているのだ。

参考:渡辺寛人「日本における「ジェネレーション・レフト」の可能性を探る 新自由主義に対抗するための変革ビジョンとオーガナイズを」『POSSE vol.48』2021年、堀之内出版)

 最近では、日本でも気候変動や環境危機に関心を持ち、行動を始める若者も多くなってきた。外国人差別に対しても声を上げているのは若者たちだ。また、今年3月、送還を拒否する難民に刑事罰を課す入管法改正案が国会に提出された際には、多くの若者が「難民を犯罪者にするな」と声をあげ署名活動などを始めた。

POSSEと総合サポートユニオンのデモ行進の様子。参加者の多くがZ世代だった。
POSSEと総合サポートユニオンのデモ行進の様子。参加者の多くがZ世代だった。

 さらに、コロナ・パンデミックのなかで、学費の減免を求める学生の声が広がったことも、この流れを強めている。感染症の影響によって生じた労働・貧困問題が報道によって可視化されるなか、社会問題を「自分事」としてとらえ、社会運動に関心を寄せる若い世代も増えているようだ。

 今後もZ世代の社会運動が広がるカギは何だろうか。それはおそらく、ミルバーンが欧米の若者を観察して注目した「能動的出来事」、すなわち、自分たちの力で新しい社会を生み出せることを実感できるような実践を積み重ねていくことになるだろう。

おわりに 衆議院選挙に向けて

 今月、日本でも衆議院選挙が行われる。日本の若者も世界の若者と同じように、将来の見えない不安の中に置かれ、また、世界的な気候変動によって、将来が脅威にさらされている。

 日本では若者世代の動きはまだまだ見えにくいが、ぜひこれから存在感を発揮してほしいと思う。

※情報提供募集

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