私が日本一渋い美術館だと勝手に思っている正木美術館(大阪・忠岡町)で、開館45周年記念展《物 黒 無──モノクローム》が開かれている。NY在住の現代美術作家・杉本博司の作品──水墨画の題材『叭々鳥図』を模して剥製を撮影した『カリフォルニア・コンドル』、長谷川等伯の代表作に範を取った『松林図』など──が正木美術館所蔵の国宝、重文といっしょに並べられている。並べたのは正木のスタッフであって杉本自身ではないにせよ、この並々ならぬ自信は恐ろしいものがある。
《物 黒 無》のタイトルどおり、墨蹟、水墨画、楽茶碗など、黒いものばかりが展示されている。この渋さは尋常のものではない。関東の地からわざわざ馳せ参じた甲斐があるというものだ。2階に展示されている等春の『瀟湘八景図』、この作品は以前に見た際も仰天したが、淡墨でサーッとガス状のものを描いただけであり、室町時代の作品とはいえ、完全にアブストラクト絵画である。
そして、わが愛する『玳皮盞天目茶碗』。南宋時代(12世紀)に江西省の吉州窯で焼かれた、エロティックなまでに黒い器形と、鼈甲に似た階調の釉薬が妖しく底光りする。「玳皮盞天目」というのは日本での呼称で、中国では「鼈盞(べっさん)」と呼ばれるそう。
また、書き忘れないようにしたいのが、入場して最初に目にする明恵上人筆『夢記断簡』(鎌倉時代)である。細かな字で明恵が前夜に見た夢を記録したもの。当然妙なエピソードばかりで、漱石の『夢十夜』ではないが摩訶不思議な気持ちになる。入場早々に魔術じみた合図をかけられたようである。
正木美術館(大阪・泉北郡忠岡町)にて2014年2月2日(日)まで
http://masaki-art-museum.jp
《物 黒 無》のタイトルどおり、墨蹟、水墨画、楽茶碗など、黒いものばかりが展示されている。この渋さは尋常のものではない。関東の地からわざわざ馳せ参じた甲斐があるというものだ。2階に展示されている等春の『瀟湘八景図』、この作品は以前に見た際も仰天したが、淡墨でサーッとガス状のものを描いただけであり、室町時代の作品とはいえ、完全にアブストラクト絵画である。
そして、わが愛する『玳皮盞天目茶碗』。南宋時代(12世紀)に江西省の吉州窯で焼かれた、エロティックなまでに黒い器形と、鼈甲に似た階調の釉薬が妖しく底光りする。「玳皮盞天目」というのは日本での呼称で、中国では「鼈盞(べっさん)」と呼ばれるそう。
また、書き忘れないようにしたいのが、入場して最初に目にする明恵上人筆『夢記断簡』(鎌倉時代)である。細かな字で明恵が前夜に見た夢を記録したもの。当然妙なエピソードばかりで、漱石の『夢十夜』ではないが摩訶不思議な気持ちになる。入場早々に魔術じみた合図をかけられたようである。
正木美術館(大阪・泉北郡忠岡町)にて2014年2月2日(日)まで
http://masaki-art-museum.jp