荻野洋一 映画等覚書ブログ

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今年1年有難うございました

2009-12-31 18:56:20 | 記録・連絡・消息
 テレビ放映にて、杉江敏男『続サラリーマン忠臣蔵』(1961)を見る。ラテ欄でのテレ東の言い分が奮っている。「森繁喜劇の最高傑作映画」なる冠が付いているのだが、まさかそれは現実とはいささか異なるとしても、どうも憎めない惹句である。「そうか、最高傑作というなら見てみようか」と思ってくれた視聴者がいたかもしれぬ。
 1961年といえば、スタジオシステムの崩壊はひたひたと忍び寄っているものの、この時点では依然としてオプティミズムは維持されている。森繁が失地回復を果たし大団円となるあまりにもオプティミスティックなエンディングには、ふと目頭が熱くなりもしたのだった。

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 さて、今年もあと5時間あまりを残すのみとなりました。皆様にとりましては、どのような1年だったのでございましょうか。来年という年が、皆様にとりましてよりよき1年、実り多き1年となることを祈念しつゝ、ご挨拶申し上げます。有難うございました。

イーストウッドと過ごす夕暮れ

2009-12-30 20:19:22 | 映画
 テレビ放映で、クリント・イーストウッド『ハートブレイク・リッジ 勝利の戦場』(1986)を見る。『チェンジリング』『グラン・トリノ』と、2本のすばらしい新作に湧いた1年だったが、そんな年を締め括るにふさわしい1本である。まともにクレジットタイトルも流れぬ杜撰なオンエアだが、そんなことでイーストウッドの威光は傷つかない。
 この地味ではあるが、わが青春期を彩った1本に視線を投じつつ、CMの間、窓外を見やると、暮れようとする東京の街の光がポツポツと輝いているのが見える。来年はどんな年になるのだろう。

『ウルルの森の物語』 長沼誠

2009-12-27 19:56:09 | 映画
 前述の『スノープリンス』にとどまらず、なぜこうも犬の映画ばかりが増殖しているのか、意味がわからない。中でも真打ちのごとく登場した『スノープリンス』は、大人の打算ばかりがうごめく作品となっていたが、先日見た『ウルルの森の物語』は、もっとサッパリとした作品となっていた。
 なぜかというと、他の多くの作品が犬と子どもを主人公にしつつも、子どものための作品ではなく、大人のストレス解消のために製作されているのに対し、『ウルルの森の物語』は完全に児童映画、つまりキンダーフィルムとして存在しようとしているためで、だから、大人どもが要求してやまぬ「感動」とは無縁なのである。
 所詮これも大手のフィルムなのだから、そんなものは装いに過ぎぬ、という言い方もできる。しかし、私はその考えはとらない。


TOHOシネマズ有楽座他、全国で上映中
http://www.ululu-movie.jp/

『スノープリンス 禁じられた恋のメロディ』 松岡錠司

2009-12-21 21:01:56 | 映画
 『東京タワー』の監督、『おくりびと』の脚本家が名をつらねた上に、『フランダースの犬』から着想を得て、白犬と薄幸の児童が動員される。このいかにも広告代理店的な発想で固められた作品は、感動の涙へと観客を誘うべく態勢を整えたと思われる。ところが初日の夜6時半の回で、観客は私を含めてたったの5人。むむ、これでは困ってしまうだろう。
 まず商品として、脚本が脚本のていをなしていない。お粗末そのものである。いかに松岡といえど手も足も出まい。また、これはまったくの偶然なのだろうが、クロード・ドビュッシーのピアノ曲『月の光』が児童によって演奏されることでクライマックスとなるという点が、黒沢清の『トウキョウソナタ』(2008)と完全に重複している。なぜこのような事態になったのか皆目見当もつかないが、この2つの『月の光』の間には、マリアナ海溝のごとき深遠なる差異が横たわっているのだ。

 『バタアシ金魚』(1990)以来、19年ぶりに松岡錠司作品への出演となる浅野忠信が、移動サーカスのピエロとして登場し、限られた出演場面の中で、ただひとり画面を活気づけていた。テントの中央で芸の稽古をしていると、彼を慕う主人公の少年(この少年は、自分が浅野の子だという事実を知らない)が、背後から忍び寄ってくる。ピエロはそれに気づいていないのか、気づかぬふりをしているのか、稽古を続けている。そんな、互いに父子として名のり合う機会を生涯もつことのない2人が、同じフレームに収まってみせる幾つかのショットは、悪くはないのではないだろうか。


丸の内ピカデリー他、全国で上映中
http://www.snowprince.jp/

仏カイエ・デュ・シネマ2009年ベストテン

2009-12-18 02:08:46 | 映画
 「自分が紹介するのも、甚だお門違いだろうが」などと、馬鹿のひとつ覚えのごとく七面倒な前置きをしたあげく、それでも毎年紹介している仏Cahiers du cinéma誌のベストテン。まだ12月だというのに、編集部選出の2009年ベストテンが早くも発表されている。
 現在のカイエ・デュ・シネマは、ジャン=ミシェル・フロドン編集長(先だって更迭)の「ずさんな方向性」などがたたり、存亡の危機にまで達し、ついに英国資本傘下に入ってしまったという、激動の時を過ごしていると聞いた。フロドンがどれほどダメだったのか、私は詳細を知らない。ただ、私が日本版の編集委員を務めていたころ(1991-2001)の、ティエリー・ジュスやロランス・ジャヴァリニ、ニコラ・サーダやマリ=アンヌ・ゲランといった非常に優れた同人たちの名が誌面から消えて久しく、私にはもうよくわからない時代になっている。
 梅本洋一氏の引率により、ティエリー、マリ=アンヌ、私の4人で湘南電車に乗って鎌倉へ遊山に赴き、小津安二郎の墓参りをしたり、「山の音」に耳を傾けたり、海辺の道で煙草を吸ったり(全員スモーカー)、鎌倉彫の箸を買ったりしたのも、15年も昔のこととなってしまった。あれらのことは、我が人生の中でも最高に楽しい思い出のひとつである。


■La choix de la rédaction des Cahiers
1- Les Herbes folles(アラン・レネ)
2- Vincere(マルコ・ベロッキオ)
3- イングロリアス・バスターズ(クエンティン・タランティーノ)
4- グラン・トリノ(クリント・イーストウッド)
5- Singularités d’une jeune fille blonde(マノエル・ド・オリヴェイラ)
6- Tetro(フランシス・F・コッポラ)
7- ハート・ロッカー(キャスリン・ビグロー)
8- キング・オブ・エスケープ(アラン・ギロディ)
9- トウキョウソナタ(黒沢清)
10- Hadewijch(ブリュノ・デュモン)