≪脚色≫
夏の風景
(第六話)肩叩き
登場人物
湧水(わきみず)恭之介・・祖父(ご隠居)[70]
湧水恭一 ・・父 (会社員)[38]
湧水未知子・・母 (主 婦)[32]
湧水正也 ・・長男(小学生)[8]
N ・・湧水正也
その他 ・・猫のタマ、犬のポチ
1.庭 夕方
タイトルバック
庭に打ち水をしている正也。縁台に座って肩を摩(さす)る恭之介。縁側の床板の上で心地よく寝ているタマ。その横で二人を見つめ
るポチ。ひと息、入れる正也。
N 「じいちゃんが珍しく肩を摩っている。じっと見ていると、今度は首を右や左に振り始めた。縁台に座るじいちゃんと庭の風情が、
実によくマッチしていて、どこか、哀愁を感じさせる」
西山へ帰っていく鴉の鳴き声。オレンジと朱色に染まった空。白色に近い煌めきの光線を放ち、西山へ近づく夕陽。
テーマ音楽
タイトル「夏の風景(第六話) 肩叩き」
キャスト、スタッフなど
2.庭 夕方
バケツを片づけ、恭之介に近づく正也。
正也 「じいちゃん、肩を叩いてやろうか?」
恭之介「ん? ああ…正也か。ひとつ頼むとするかな。ハハハ…わしも歳だな(少し気弱に云い、小笑いして)」
N 「気丈なじいちゃんの声が、幾らか小さかった」
恭之介の後ろに回り、肩を叩き始める正也。
恭之介「ん…よく効く…効く(気持よさそう)」
暫(しばら)く叩く正也。
恭之介「すまんが今度は軽く揉んでくれ(優しい声で)」
素直に、叩きから揉みへと動作を移行する正也。
恭之介「ああ…、うぅ…。お前、上手いなぁ…」
正也 「へへっ…(照れて、可愛く)」
揉み続ける正也。心地よさそうな表情の恭之介。
N 「僕の下心を既に見抜いているなら、じいちゃんは大物に違いない。案の定、ひと通り終えた頃、じいちゃんの方から仕掛けてき
た。これには参った」
恭之介「え~正也、何か欲しい物でもあるのか?」
ギクッ! として、動作を止める正也。
正也 「うん、まあ…(可愛く、暈し口調で)」
恭之介「男らしくはっきり云え。買ってやるから…」
N 「僕は遂に本心を露(あらわ)にして、玩具が欲しいと云った」
恭之介「では、明日にでも一緒に店へ行ってみるか…」
正也 「ほんと?(可愛く)」
恭之介「武士に二言はない!(厳しく)」
廊下のガラス戸を開け、呼ぶ未知子。
未知子「夕飯ですよ~、お父さま。正也も早く手を洗いなさい」
すぐに窓を閉め、引っ込む未知子。
恭之介「さあ飯だ、飯だ」
縁台を勢いよく立つ恭之介。恭之介の頭に止まる一匹の蚊。
恭之介「コイツ!」
自分の頭をピシャリと叩く恭之介。スゥ~っと飛び去る蚊。
恭之介「殺虫剤を撒かないと、このザマだ、ハハハ…(声高に笑い)」
山へ沈む夕陽と、夕陽を受けて輝く恭之介の頭。
N 「僕は光る蛸の頭をじっと見ていた。夕陽とじいちゃんの頭が、輝いて眩(まぶ)しかった」
F.O
タイトル「夏の風景(第六話) 肩叩き 終」
※ 短編小説を脚色したものです。小説は、「短編小説 夏の風景☆第六話」 をお読み下さい。