パリ郊外で少年が警官に射殺されたことへの激しい抗議行動が、フランス各地で続いている。パリ南郊ライ=レ=ローズ市では2日未明、市長の自宅が放火され、逃げようとした市長の妻と子どもたちがロケット花火で攻撃されけがをした。こうしたなか、少年の家族がBBCの取材に応じ、暴力は望まないと訴えた。
フランスでは17歳の「ナエル・M」さんが6月27日、交通検問から走り去ろうと車を発進させたところ、警官に至近距離から胸を撃たれ死亡した。それを受け、同日夜から暴力的な抗議行動が続いている。
抗議行動5日目の夜に起きた今回の市長宅の襲撃は、大きな衝撃を招いており、検察当局は殺人未遂事件として捜査を始めた。容疑者は特定されていない。
ヴァンサン・ジャンブラン市長は当時、市庁舎で事態を見守っていたため不在だった。市長の妻メラニー・ノワックさんは足を骨折し、子ども1人がけがを負った。
エリザベス・ボルヌ首相は、容認できない事件だと述べた。
ジャンブラン市長によると、自宅が襲われたのは1日午前1時30分ごろ。襲撃者は車で門を突き破り、その車に火をつけ、家を燃やそうとしたという。
妻ノワックさんが5歳と7歳の子どもを連れて逃げようとしたところ、ロケット花火で攻撃されたという。
市長は襲撃を「言語に絶するほど卑劣な殺人未遂」で「一線を越えたもの」だと非難し、こう続けた。
「私がきょう優先すべきは家族の世話かもしれないが、この共和国を守り、それに奉仕するという私の決意は以前にも増して大きくなっている」
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ジャンブラン市長は中道右派・共和党の出身で、政界で広い支持を得ている。
抗議行動が暴動化していることを受け、ジャンブラン市長は政府に非常事態を宣言するよう求めていた。エマニュエル・マクロン大統領は、これまでのところこれを拒んでいる。
フランスでは1日、抗議行動の制御のため警官約4万5000人が出動した。内務省によると、同日夜は比較的静かで、逮捕者も少なかったという。
それでも、全国で計700人以上が逮捕され、暴徒らによる放火事件が一晩で800件以上発生したという。
「暴力望まない」と少年の家族
警官に射殺された「ナエル・M」さんの家族がBBCの取材に応じ、ナエルさんの死が暴動のきっかけになることは望んでいないと述べた。同時に、交通取り締まりでの銃器使用をめぐる法律は、改める必要があると訴えた。
事件後の緊張の高まりを受け、匿名を条件に取材に応じた家族は、パリ郊外ナンテールの自宅近くで、「私たちが憎しみや暴動を呼びかけたことは一度もない」と話した。
そして、フランス各地で計数千人が逮捕され、商店が略奪され、車が何百台も放火されている暴動は、ナエルさんの思い出をたたえるものではないとした。
家族は、ナエルさんをしのんでデモ行進する「ホワイト・マーチ」を呼びかけたという。怒りを抱えながらも、それを爆発させずに歩くものだという。
2日にはナエルさんの祖母も、現地メディアの取材を受け、暴力をやめるよう呼びかけた。暴徒はナエルさんの死に便乗しているだけだとも非難した。
ナエルさんの祖母、ナディアさんはBFMテレビで、「学校を壊さないで。バスを壊さないで。バスを利用するのは、ほかの子たちのお母さんたちなのだから」と述べた。
法改正が必要と家族
BBCの取材に応じたナエルさんの家族はさらに、交通違反の取り締まり中に警官が発砲するのを認めている現行法の改正が必要だと主張した。
フランスは2017年、暴力の増加に直面しているとの警察側の訴えを受けて刑法を改め、銃器の幅広い使用を認めた。
それが直接の原因となって、交通関連での発砲事件が増加したとの批判が出ている。車の運転者が警官の指示に従わない場合、それが危険事態なのかどうかの判断が警官に委ねられるなど、法律があまりにあいまいなことが問題だと指摘されている。
交通取り締まりでは、今年はこれまでに3人が死亡している。昨年は13人が死亡し、過去最多だった。ロイター通信によると、ほとんどは黒人かアラブ系だという。
ナエルさんの家族の友人で、近所に住むアナイスさんは、フランスの都市郊外で暮らす黒人の若者は、日常的に人種差別、暴力、人種によるプロファイリングにさらされていると、BBCに語った。
「(警官たちは)屈辱を与え、侮辱し、まともに話そうとしない。そして今、あの人たちは(黒人の若者たちを)殺している! ナエルはマスコミが取り上げたけれども、今回のようなことは初めてではない」