あまりのひどさに思わず投稿リツイート 猪瀬直樹元都知事に東京五輪7つの危険を紹介したい
連載「おんなの話はありがたい」
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ひでーな……と絶句することが多い昨今ですが、先週、そのひどさに思わずリツイートしてしまったのが猪瀬直樹元都知事のツイッターでした。6月26日午後9時28分に投稿されたコレです。
「東京五輪開催反対を言う人たちは、五輪が始まると日本選手の活躍が気になって仕方ない、と気持ちが変化したことに気づくだろう。でもそれはごくふつうの健全な感情で少しも後ろめたいものではない。僕が言いたいのは、自分の意識の深層に想い致すことなく、軽薄に意見らしきものを述べる愚かしさだ」
さすが猪瀬さん。権力に厳しい作家として名をあげたのに、いざ自らが権力の座につけるとなったとたんに医療法人から5000万円を受け取り、追及されてもウヤムヤにして逃げた過去の教訓をありがとうございます。人の心というものの奥深さ、やるせない矛盾についての含蓄があるというものです。私も東京五輪が始まり池江選手のひたむきな水泳に胸を打たれるその瞬間に、自らの愚かさに気がつくのでしょうか。
毎週火曜日に、東京オリ・パラへの抗議リレーをオンラインでしている。医師や看護師など医療の現場に立つ女性たちと危機感を共有したことから始めたが、回を重ねるごとに、女性の貧困問題に携わる支援者、近代五輪がいかに多くの犠牲のもとに成り立つ拝金主義であるかを訴える運動家や弁護士、学校教職員など様々な立場からの反対の声が連なってきた。特に教職員や子どもを持つ大人の危機感と絶望は深い。良き思い出になるだろうと当初は五輪観戦に好意的だった教師も、実際に国立競技場を下見した人ほど、「中止するしかないのでは」と意見が変わるという話も、抗議リレーの中で出た。
元都知事によればこんな私たちの声は「意見らしきもの」にすぎないのかもしれないが、それでも東京オリ・パラへ動員される子どもたちについて、6月21日に登壇した東京都教職員組合の長野みゆきさんが語ってくれた「意見」をここで紹介したい。実際に国立競技場を下見した教師が共有した七つの危険だ。
(1) 公共交通機関を使うことが求められているので、最寄り駅は子どもと教職員であふれることになる。外苑前駅には子どもたちを点呼する場所がない。あってはいけないことだけれど、狭いホームで、ドアに挟まれたり、ホームから落ちたりするなどの事故の可能性もある。
(2) 全員の手荷物検査・検温のために、子どもたちは国立競技場ではなく近くの秩父宮ラグビー場に集められることになっている。混雑を避けるため、最寄り駅ではなく一つ手前の駅から歩かせる学校も出てくる。暑さ厳しいなか15分以上歩いたうえ、ラグビー場で全員の手荷物検査・検温にどれほど待たされるのかわからない。ラグビー場に水筒を持ち込めるのかもわからない。水分補給はどうするのか。検温で37.5度以上ある児童にはどのように対応するのか。
(3) オリンピック会場は常温のペットボトルの水と遮光板が渡される。直射日光があたる場所もある。熱中症対策としては不十分だ。
(4) 座席が密集しているうえに、座席を空けて座るなどの対策が不明。3階以上の座席はかなりの勾配があり、前のめりになって落ちないか心配だ。
(5) 大変広い会場である上に初めての場所なので、トイレに行って戻る間に迷子になる子どもも出てくるだろう。
(6) 国立競技場内には集合して人数点呼できる場所がない。子どもが全員そろっているか把握できない。
(7) 幼稚園やこども園の幼児、特別な支援を必要とする障がいのある子どもたちの動員も計画されている。少人数の静かな環境で落ち着いた学びが必要な子どもたちに学校連携観戦は全く必要がなく、過酷だ。
七つの危険はどれも現場を見て初めてリアルに実感できる不安だ。こういう声を聞かずに「安全・安心」を意味なく繰り返し強行されようとしているオリ・パラは、やはり立ち止まるしかないのではないだろうか。せめて、子どもたちの観戦はやめさせてあげたい。
ちなみに東京都は学校連携観戦を強制はしていない。つまり辞退は学校ごとの判断でどうぞ、ということだ。オリンピックで一生の思い出をつくってね、でも強制じゃないですよ、あくまでも学校ごとのご判断で、と校長たちに判断が任せられているという。子どもたちが熱中症になっても、コロナに感染しても行政側は責任を取るつもりはないのだろう。
それでも元知事流に言えば、こんな懸念もオリンピックが始まってしまえば日本選手のメダルの数に一喜一憂するのが人間……というものなのだろうか。ずいぶん甘く見られたものだ。東京都とIOCの契約書には「猪瀬直樹」のサインが入っている。人の不安や必死を、「愚かしさ」と嘲笑できるような人が持ち込んだ東京五輪ならばなおのこと、ほんとうにいらない、絶対にいらないという気持ちを深めた人は多いのではないだろうか。そんな意見(らしきもの)を、諦めることなく言っていきたいと思う。真夏の炎天下で、ぬるい水を飲ませて無理やり「感動」させるなんて、地獄絵のようであまりに恐ろしいので。
■北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表