本日4月6日は、タプススの戦いでユリウス・カエサルが元老院派の軍を破った日で、豊臣秀吉が千利休を京都から堺へ追放した日で、江戸幕府が奉書船以外で海外渡航・海外に長期在住した日本人の帰国を禁止した日で、ラーマ1世が乱心をきたしたシャム国王タークシンを処刑して自ら王位に就いた日で、長崎に来航中のロシア使節ニコライ・レザノフに通商拒絶を通告した日で、ルイ18世がフランス王に即位してフランス復古王政が始まった日で、江戸幕府が異国船打払令を発布した日で、五箇条の御誓文が発布された日で、官軍による江戸総攻撃の中止と江戸城の無血開城が決定された日で、自由党党首の板垣退助が遊説中に暴漢に襲われた日で、第1回近代オリンピックが開催された日で、アメリカ人探検家ロバート・ピアリーが北極点に到達した日で、インドでマハトマ・ガンディーにより第1次サティヤーグラハ運動が開始された日で、中国国民政府が廃両改元を行って銀錠による銀両制度を廃して銀元を導入した日で、ナチス・ドイツがユーゴスラビアおよびギリシャに侵攻した日で、ルワンダ大統領とブルンジ大統領が搭乗していた飛行機が何者かに撃墜されて死亡した日です。
本日の倉敷は雨が降っていましたよ。
最高気温は二十度。最低気温は九度でありました。
明日は予報では倉敷は晴れのち曇りとなっております。
或る夜の事。
…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。
狐が薄々と眼を覚ました時、熊蜂の唸るような音はまだその弾力の深い余韻を狐の耳の穴の中にはつきりと引き残していた。
其れをぢいつと聞いている内に……今は真夜中だな……と直覚した。
そうして何処か近くでぼんぼん時計が鳴っているんだな……とぼんやりと思い又もやうとうとしている内に、其の熊蜂の唸りの様な余韻は何時となく次々に消え薄れて行つてそこいら中がひつそりと静まり返つてしまつた。
狐は括と眼を開いた。
かなり高い白塗の天井裏から薄白い塵埃に蔽れた裸の電球がたった一つぶら下がつている。
其の赤黄色く光る硝子球の横腹に大きな蝶が一匹泊まっていて凝然としている。
其の真下の固い冷めたい人造石の床の上に狐は丸くなつて寝ているようである。
……おかしいな…………。
狐は丸くなつた儘に凝然と動かず、瞼を一ぱいに見開いた。
そうして眼の球だけをぐるりぐるりと上下左右に廻転さしてみた。
青黒い混凝土の壁で囲まれた二間四方ばかりの部屋である。
……おかしいぞ…………。
狐は少し頭を持ち上げて自分の身体を見廻わしてみた。
白い新しい見知らぬ絹の着物を着ている。下着はない。のーぱんである。
……いよいよおかしい……。
胸の動悸がみるみる高まつた。早鐘を撞くように乱れ撃ち初めた。
呼吸が其れに連れて荒くなった。
やがて死ぬかと思うほど喘ぎ出した。かと思うと又、ひつそりと静まつて来た。
……此処は何処……。
……森閑とした暗黒が部屋の外を取巻いて何処までも何処までも続き広がつていることがはつきりと感じられる……。
……夢ではない……確かに夢では…………。
狐は飛び上つた。
否……あれは夢だ……夢の中だ……。
窓の前に駈け寄つて磨硝子の向うを覗いた。
暗闇の中で銀色の羽根を大きく広げた獣が歯を剥き出しにして唸りながら金色の瞳で狐を睨んでいる……。
あそこに私の本性がゐる……。
野生の私が唸つている……。
閉じ込めた私を恨んでいる……。
獣は狐を睨み乍ら舌なめずりをしてゆつくりと狐の近づいてくる。
……嗚呼。私はいつかあの獣に食われる……。
……あの獣に凌辱の限りを尽くされて穢されて汚されて辱められてありとあらゆる痴態を晒されて心まで穢されて支配されて地獄の奈落に突き堕とされて浅ましい獣にされた後に、生きたまま貪り食われてしまう……。
獣は、狐が硬直して逃げられないことを察して高嗤いを上げ乍ら、ゆつくりと近づいてくる……。
野生の猛々しさを誇示し口から涎を垂らしながら獲物を見据えてゆつくりと近づいてくる……。
……嗚呼。私はいつかあの獣に殺される……。
…………ブウウ――――――ンンン――――――ンンンン………………。
狐が薄々と眼を覚ました時、熊蜂の唸るような音はまだその弾力の深い余韻を狐の耳の穴の中にはつきりと引き残していた。
其れをぢいつと聞いている内に……今は真夜中だな……と直覚した。
そうして何処か近くでぼんぼん時計が鳴つているんだな……とぼんやりと思い、寝惚けているのだなとぼんやりと思い、変な夢を見たとぼんやり思い、又もやうとうとしている内に、其の熊蜂の唸りの様な余韻は何時となく次々に消え薄れて行つてそこいら中がひつそりと静まり返つてしまつた。
狐は再び眠りの中にふらふらと堕ちていつたのでありました。