[昆明(中国)/ビエンチャン(ラオス) 5日 ロイター] - 中国南西部の都市・昆明にとって、南方シンガポールまでの3000キロ(1875マイル)を高速鉄道で結ぶという中国の計画は、すでに数々の恩恵をもたらしている。真新しい高速列車、光り輝く駅舎や、物件ショールームに若年層が群がる不動産ブームなどだ。
だが、東南アジアを貫いて延びる鉄道路線で、最初の国外部分となるラオスでは、まだ工事が始まってさえいない。東南アジア地域でも最も貧しい国の1つであるラオスにとっては、70億ドル(約7500億円)に達する工費の一部調達だけでも一苦労であり、資金面の条件についてまだ中国と合意に達していない。
ラオスから先、鉄道路線はタイに入る予定だ。だがタイと中国政府の交渉も、資金面を含め難航しており、中国にとっては頭痛の種となっている。また、現代版シルクロード構想「一帯一路」において、アジアを横断する経済ハイウェイの開発を進めたい中国政府が直面する問題を浮き彫りにしている。
2013年に中国の習近平国家主席が発表した「一帯一路」計画は、アジア大陸を横断し、さらにその先の欧州に至る陸路、海路、空路のルートを築こうという野心的な計画だ。その狙いは、今後10年でこのルート上での貿易を2兆5000億ドル拡大することにある。
中国の経済成長が鈍化するなかで、中国政府は自国企業に外国市場の獲得を促しているのである。
だが、東南アジア諸国との国境を越えて同計画を進めようとする中国の野心は、最も複雑かつ恐らく最も重大な障害に向き合いつつある。
近隣諸国が、中国からの要求が過大であり、資金面の条件も不利だと抗議しているのだ。
東南アジア諸国は、鉄道路線のどちらか一方の側での土地開発権を求める中国の要求に抵抗している。中国政府は、土地開発によって利益を上げることで、残りのプロジェクトの商業的な実行可能性が高まり、より大きな先行投資を中国が約束できるようになる、と主張している。資金面以外では、ミャンマーが環境面での懸念を理由に同プロジェクトへの参加を2014年にキャンセルしている。
ローウィ国際政策研究所(シドニー)のピーター・ケイ研究員は、東南アジア諸国の懸念は中国にとって、「一帯一路」計画を遂行するうえで最初の大きなハードルになりそうだと指摘する。
中国外交部と中国輸出入銀行にコメントを求めたが、回答を得られなかった。
<陸路の要衝>
2013年時点では、ラオスでの計画は早期完了するという兆候があった。中国・ラオス双方の首脳は建設加速で合意。
中国はプロジェクト資金の大半を融資する旨を申し出ていた。11月には、路線の終点である昆明での工事が始まった。
総工費21億元(約340億円)を投じた昆明の高速鉄道駅は、竣工からもう何カ月も経っている。
だが、12月には周到な準備のもとで起工式が行われたにもかかわらず、ラオス政府はまだ何の動きもない。
外交筋によれば、中国からの本格的な支援がないため、ラオス側にはこのプロジェクトを進める資金力がないという。
ラオスに対する影響力という点でベトナムと争っていた中国が、なぜラオス政府にとって受け入れ可能な条件を提示できなかったのか、理由は不明である。
中国・ラオス双方にとって、このプロジェクトは政治的に大きな意味を持っている。中国は東南アジア地域への勢力範囲の拡大と影響力強化を狙っており、ラオスは内陸国から陸路の要衝に変身したいという希望を口にしている。
「調印式には双方からかなりの高官が顔を揃えた」とラオス首都ビエンチャン駐在の西側外交官は言う。
「大方の予想では、総工費は70億ドルを超えると見ているが、ラオスはそのうち20億ドルを調達するのにも苦労している」
この記事のためにラオス政府にコメントを求めたが、回答は得られなかった。外交筋によれば、ラオス政府がこの件について動かないのは、中国との交渉をどのように処理するか共産党内部で対立が生じていることを反映しているという。
ラオスの党政治局がソムサワート・レンサワット副首相を上層部の意思決定機関から排除するという衝撃的な決定を1月に下したことは、プロジェクトの条件があまりにも中国側に有利ではないかという懸念が上層部にあることを示唆していると外交筋は指摘する。
ソムサワート氏は中国関連のプロジェクトについての交渉を主導してきた人物であり、中国寄りすぎるとの党内からの批判があった。
ロイターの取材に対し、ソムサワート氏は「条件はラオスにとって有利だった」と語っている。建設が遅れているのは、ラオスがあいかわらず「些末な点を調査して」いることと、土地取得をめぐって地元からの反対があることが原因だという。
外交筋によれば、ラオス人民共和国の建国40周年記念日である12月2日に起工式を行ったことにも、首脳部は眉をひそめたという。
ソムサワート氏が政権中枢から排除されたことで、「ラオス政府内部の動きは、この鉄道プロジェクトに関する協定の再交渉に向かっている」とある外交官は話している。
<非現実的>
中国はこのプロジェクトに関して少なくとも300億ドルの借款・与信枠の設定を提示している。
北京交通大学のZhao Jian教授(交通科学)によれば、中国は利率2%─7%で譲許的借款を提供しており、他国がさらに有利な融資を望むのは「非現実的」だという。
だが、タイのサイアム商業銀行のKamalkant Agarwal頭取によれば、この種のインフラ整備プロジェクトには補助金を与える必要があるという。「政府かサンタクロースが費用を出してくれるならばプロジェクトの建設も可能だ」と同頭取は言う。
「さもなければ、こうしたプロジェクトで採算性を確保するのは非常に難しい」
資金調達、投資、コスト面で歩み寄りを実現できなかったタイのプラユット首相は、3月に海南で行われた中国の李克強首相との会談で、タイは独自に資金調達を行うと述べており、今のところプロジェクトの一部のみ建設している。
今年初め、タイのアーコム運輸相はロイターの取材に対し、「中国にとってメリットのある戦略的経路だけに、彼らはもっと投資しなければならないだろう」と語った。タイは、路線沿いの土地開発権を求める中国側の要求を拒絶している。
「中国との交渉初日から、土地開発権については何の妥協もしないと伝えている」と同相は述べた。
タイ財務省筋によれば、タイははるかに低い金利で日本から資金を調達できるという。
日本はタイにとって最大の投資家であると同時に、アジア全域にわたる影響力という点で、強引さを増している中国と張り合っている。
それだけに、日本からの資金調達というアイデアを中国政府は警戒するだろう。
中国との交渉に何度か出席したタイ財務当局者は、「財務省としては、このプロジェクトを支えるために、他のオプションに比べて高くつく借款を受けて批判されたくない」と話している。
他方、中国側の現地当局者の一部は、プロジェクトの遅れは東南アジア諸国の側にためらいがあるからだと見ている。
昆明投資促進委員会で副委員長を務めるSun Xiaoqiang氏は、「東南アジアと直接向き合っているのは私たちだ。
もちろん私たちも皆、各国での建設がもっと早く進むことを願っている」
<大きなギャップ>
中国と東南アジアのギャップは、ビエンチャンと昆明の街路を歩いてみれば何よりもはっきりする。
ラオスでは数百社もの中国企業が事業を営んでいる。その1つがWang Feng Shanghai Real Estate社だ。
同社は在ラオス中国人向けにマンションやショッピングセンターを提供する16億ドル規模の建設プロジェクトを進めている。
だが、新規の鉄道・道路整備に向けたラオス政府による投資はほとんど見られない。
昆明には、新たな鉄道駅周辺の地区も含め、何十億ドルもの投資が流入している。
だが、ここも6年前には世界銀行が「ゴーストタウン」と表現した地域なのだ。
Jinという姓だけを教えてくれた1人の教師は、「『一帯一路』は昆明にとっては良いプロジェクトだ」と言う。
「しかし(他の国々には)政治やガバナンスの点で多くの問題がある。中国は準備ができているが、東南アジア諸国は違う」
以上、ロイター記事
>外交筋によれば、ラオス政府がこの件について動かないのは、中国との交渉をどのように処理するか共産党内部で対立が生じていることを反映しているという。
中国の大構想、一帯一路は東南アジアのスタートであるラオスにおいて、必要な70億ドルの20億ドルも用意できてないらしい。
ラオスの共産党内部対立が起きているようだ。
>日本はタイにとって最大の投資家であると同時に、アジア全域にわたる影響力という点で、強引さを増している中国と張り合っている。
それだけに、日本からの資金調達というアイデアを中国政府は警戒するだろう。
タイは、中国でなく、日本からだとはるかに低い金利で資金調達できるらしい。
東南アジア各国においては、資金調達が問題が大きいようであり、建設途中でとん挫してしまう可能性もあるのではないか?