はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
牧知花&はさみのなかま名義の作品、たっぷりあります(^^♪

地這う龍 四章 その15 対決ふたたび

2024年02月09日 09時48分09秒 | 英華伝 地這う龍



張郃《ちょうこう》は、目の前にひろがる無残な光景に、いきどおりをおぼえていた。
かれは徹底して武将であったから、将兵が傷つくことには慣れている。
だが、いま目の前に転がっている死体の数々は、ほとんどが名もなき民衆だ。
老親をかばいともに倒れた親子、けんめいに逃げようとして背中から殺されている男、略奪の憂き目にあったうえで殺された女の姿もあれば、子供を腕にしっかりと抱いたまま、息絶えている母親の姿まであった。
これが劉備についていった民の末路なのだ。


「やつは悪鬼か、民を盾に自分だけ助かろうとは!」
苛立ちをこめつつ、のこされた劉備の兵が立ち向かってくるのを、なんなく屠《ほふ》る。
劉備の兵たちもまた、曹操軍をこれ以上進ませまいと、必死の攻撃を繰り出してきた。
あわれである。
十日以上、ほとんどろくに食べていないような兵と、気合も腹具合も十分な曹操の兵では、勝負になるはずもなかった。
だからこそ、どんな事情があれ、民を棄てた劉備のことがゆるせない。
なにが仁徳のひと、だ。
くだらぬ仁義を振りかざし、それがこの結果か!


かたわらにいた劉青《りゅうせい》が、ぼやいた。
「手ごたえがありませぬなあ、さきほどからあらわれるのは雑兵ばかり」
自身も功をねらい、また、張郃にも功をあげさせたい劉青は、さきほどから雑兵ばかりがあらわれ、大物と巡り合えないことを残念がっているようだ。
劉青とは、反対側で轡《くつわ》をならべている劉白《りゅうはく》が、土煙がもうもうと立ち込めている前方を見て、首をひねった。
張郃の軍の前方には、曹洪《そうこう》の軍がいて、容赦なく荒野の民を追い散らしている。
だが、そのさらに前線で、ひときわおおきな鬨《とき》の声があがっているのだ。
「なにか騒動が起こっているようです」
「劉備でも見つかったか」
「ちがうようです。見てまいります」
劉白はいうと、馬を走らせた。


曹洪の軍が打ち漏らした兵を片付けていると、劉白がもどってきた。
「なんであった、やはり劉備か」
言いつつ、劉備はおれが取りたかったなと張郃が思っていると、劉白は首を横に振った。
そのあいだにも、曹洪の軍の前方では、はげしく銅鑼が叩かれている。
なにかが起こっているようだ。
「白銀の鎧武者が、たったひとりで軍をひっかきまわしているのです」
「白銀だと、まさか」
新野で遭遇した、あの白銀の鎧武者……常山真定《じょうざんしんてい》の趙子龍ではないのか。
「ひっかきまわしているとは、どういう意味だ」
「まさに、言葉のままです。曹洪どのの部下の晏明《あんめい》が、討ち取られました」
「なんと」


晏明は曹洪じまんの武将で、けっして弱い男ではなかった。
劉白のはなしによれば、趙雲は、とつぜん人馬ともに廃屋のやぶから飛び出してくると、大胆にも大将、つまり曹洪の首を狙って攻撃を仕掛けてきた。
上役を守らんと、晏明が壁になって、曹洪を守ろうとしたのだが、いったいどんな魔術か、鉄球をつかってその頭を叩き潰そうと躍起になる晏明にたいし、趙雲はおそろしいほど俊敏な身のこなしで鉄球を避けていった。
それどころか、腰に佩《お》びた剣を抜き放ったとおもったそのつぎの瞬間には、晏明は袈裟懸けに斬られて、はげしく血をふきながら馬から落ちていた。
あまりのことに、泡を食った曹洪は、銅鑼を鳴らして兵に撤退を命じ、自分の周りを固めようとした。
ところが群がる兵をものともせず、趙雲はまわりにいる敵兵すべてを、つぎつぎと槍の餌食にしているというのである。


「まさに魔神のようなはたらきです。
劉備の将に、これほどの男がいたのかと、みな感嘆し、眺めているばかりで、手を出せませぬ」
「ばかな、眺めている場合かっ」
張郃は舌打ちすると、馬腹を蹴って、趙雲が暴れている前線へ急いだ。


曹洪は、ほうほうのていで逃げようとしているところで、張郃はそれとはすれ違いに趙雲に向かっていくかたちとなった。
劉白のいうとおり、趙雲は槍を魔法の杖のように自在にあつかっていて、かれが狙いを定めると、まずまちがいなく、兵が命をうばわれていた。
闇雲にひとを殺めんとするその姿は化け物といってよく、白銀の鎧はすでに朱に染まっていて、ぞっとするほどまがまがしく見えた。


張郃は劉青と劉白に、
「手を出すな、こいつはおれがやるっ」
と下知し、夢中になって曹洪を追いかけている趙雲めがけて、突進していった。


つづく


※ いつも閲覧してくださっているみなさま、ありがとうございます(^^♪
そして、ブログ村およびブログランキングに投票してくださったみなさま!
どうもありがとうございました、とってもうれしいです!(^^)!
たいへん励みになりますー! 今日もしっかりがっつり創作に励みます!

さて、長坂の戦いもだんだんクライマックスを迎えんとしております。
次回をどうぞおたのしみにー(*^▽^*)


コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。