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夏侯恩《かこうおん》のむくろのそばに、青釭の剣が落ちていた。
趙雲がめずらしそうに、それを手に取ってしげしげとながめていたので、夏侯蘭《かこうらん》は言う。
「それは夏侯恩が曹操から下賜された宝剣で、青釭《せいこう》の剣というやつだ。
鉄でもなんでも、水のように斬ってしまうといわれている」
と言いつつ、無念そうな顔をしてたおれている夏侯恩を見下ろす。
「この御仁には、過ぎた宝物だったようだな。子龍、それはおまえが持つがいい」
「ちょうど俺の剣が刃こぼれしてきたところだ。ありがたく頂戴するとしよう」
そういって、趙雲が鞘ごと宝剣を手に入れていると、麋竺《びじく》がやってきた。
「おおい、無事か!」
と、夏侯蘭と玉蘭たちを見つけて、麋竺は声をはずませた。
「なんと、我が妹をたすけてくれたのは、そなたたちであったか!」
「子仲《しちゅう》さま、ご無事で!」
玉蘭《ぎょくらん》の声に、麋竺は嬉しそうにうなずいた。
「夫人の怪我はどうです」
趙雲が尋ねると、麋竺はすぐに顔をこわばらせた。
「傷は深い。とはいえ、ここからわが君の待つ長阪橋の向こうへはすぐの距離。
なんとかわが君のもとまで持つであろう。
わたしはなんとしても妹をわが君に会わせてあげたい。
子龍よ、われらを守って長阪橋へ」
と、みなまで言わさず、趙雲は首を横へ振った。
「軍馬の音が迫ってきている。
けが人をかかえて南へ行くにしても、みなでまとまっていたなら、たちまち追いつかれてしまうだろう」
「ど、どうする」
「子仲どの、奥方様と阿斗さま、それからここにいる阿蘭たちを頼んでよろしいか。
俺はもうすこし北へ行って、やつらをかく乱してくる」
「かく乱? どうやって!」
驚きうろたえる麋竺に、趙雲はすがすがしいほどの笑みを見せた。
「おれが阿斗さまを抱えて逃げ回っていると、敵に思わせるのだ。
そうすれば、敵は必死になっておれだけを追いかけてくるだろう。
そのあいだに、あなた方は逃げるのだ」
「ばかな、そんなことをしたら、死ぬぞ」
「死なぬ。おれは軍師と、きっと生きて帰ると約束をした。
わが君にも帰って来いと命令を受けておる。
むやみやたらに死を急ごうというわけではない、安心してくれ」
そうこうしているあいだにも、不気味な地鳴りが迫ってきていた。
夏侯恩をここまで案内してきた夏侯蘭だからこそ、わかる。
あれは、曹操の本隊の足音だ。
泣きたい気持ちになってきて、夏侯蘭はぐっとそれをこらえて、幼馴染に言った。
「俺からも言わせてくれ、子龍、生きて帰れよ」
「もちろんだ。負けはせぬ。では、子仲どの、阿蘭、後を頼んだ!」
そう言うと、趙雲は愛馬にまたがり、北へと、単騎で突進していった。
つづく
夏侯恩《かこうおん》のむくろのそばに、青釭の剣が落ちていた。
趙雲がめずらしそうに、それを手に取ってしげしげとながめていたので、夏侯蘭《かこうらん》は言う。
「それは夏侯恩が曹操から下賜された宝剣で、青釭《せいこう》の剣というやつだ。
鉄でもなんでも、水のように斬ってしまうといわれている」
と言いつつ、無念そうな顔をしてたおれている夏侯恩を見下ろす。
「この御仁には、過ぎた宝物だったようだな。子龍、それはおまえが持つがいい」
「ちょうど俺の剣が刃こぼれしてきたところだ。ありがたく頂戴するとしよう」
そういって、趙雲が鞘ごと宝剣を手に入れていると、麋竺《びじく》がやってきた。
「おおい、無事か!」
と、夏侯蘭と玉蘭たちを見つけて、麋竺は声をはずませた。
「なんと、我が妹をたすけてくれたのは、そなたたちであったか!」
「子仲《しちゅう》さま、ご無事で!」
玉蘭《ぎょくらん》の声に、麋竺は嬉しそうにうなずいた。
「夫人の怪我はどうです」
趙雲が尋ねると、麋竺はすぐに顔をこわばらせた。
「傷は深い。とはいえ、ここからわが君の待つ長阪橋の向こうへはすぐの距離。
なんとかわが君のもとまで持つであろう。
わたしはなんとしても妹をわが君に会わせてあげたい。
子龍よ、われらを守って長阪橋へ」
と、みなまで言わさず、趙雲は首を横へ振った。
「軍馬の音が迫ってきている。
けが人をかかえて南へ行くにしても、みなでまとまっていたなら、たちまち追いつかれてしまうだろう」
「ど、どうする」
「子仲どの、奥方様と阿斗さま、それからここにいる阿蘭たちを頼んでよろしいか。
俺はもうすこし北へ行って、やつらをかく乱してくる」
「かく乱? どうやって!」
驚きうろたえる麋竺に、趙雲はすがすがしいほどの笑みを見せた。
「おれが阿斗さまを抱えて逃げ回っていると、敵に思わせるのだ。
そうすれば、敵は必死になっておれだけを追いかけてくるだろう。
そのあいだに、あなた方は逃げるのだ」
「ばかな、そんなことをしたら、死ぬぞ」
「死なぬ。おれは軍師と、きっと生きて帰ると約束をした。
わが君にも帰って来いと命令を受けておる。
むやみやたらに死を急ごうというわけではない、安心してくれ」
そうこうしているあいだにも、不気味な地鳴りが迫ってきていた。
夏侯恩をここまで案内してきた夏侯蘭だからこそ、わかる。
あれは、曹操の本隊の足音だ。
泣きたい気持ちになってきて、夏侯蘭はぐっとそれをこらえて、幼馴染に言った。
「俺からも言わせてくれ、子龍、生きて帰れよ」
「もちろんだ。負けはせぬ。では、子仲どの、阿蘭、後を頼んだ!」
そう言うと、趙雲は愛馬にまたがり、北へと、単騎で突進していった。
つづく
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でもって、本日は短めの内容ですみません;
明日は張郃どののエピソードが入ります。
ではでは、また次回をおたのしみにー(*^▽^*)