はさみの世界・出張版

三国志(蜀漢中心)の創作小説のブログです。
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番外編 甘寧の物語 その7

2024年02月28日 10時08分05秒 | 番外編・甘寧の物語



甘寧はもともと黄祖の元にいたので、出陣の際にも、そう怯えることはなかった。
恐れ入ったのは、周瑜の度胸のよさである。
周瑜は黄祖に軍を向けるのも、これが最後だと、はっきりわかっているようであった。
山越の民を平定したことが、その自信になっているのだろうかと、甘寧は考えた。


すると、周瑜は、声をたてて、じつにさわやかに笑いながら、
「それもたしかにあるが、もうひとつ、勝利はまちがいないと確信できることがある。
興覇どのには、分からなかったかもしれぬが、山越の叛徒どもの勢いが、以前とくらべて落ちていたのだ。なぜだかわかるかね」
と、たずねてきた。
さあて、これは俺の答えられる問いだろうな、と思い、甘寧は頭を働かせた。
「孫将軍のご威光に、とうとう心服した。それしかあるまい」
答えると、周瑜はまた、愉快そうに笑った。
笑うと、ひどく無邪気に見えるのが周瑜である。
「いやいや、それもあるが、それだけではない。
山越の民にいままで援助をしていた者の力が衰えたから、その力も衰えていたのだ」
そして、周瑜は笑みを引っ込めると、甘寧を真正面に見据え、言った。
「劉州牧(劉表)の命は、あとわずか。おそらくこの夏を越えることはできまい」
「なんと」
甘寧の驚いた様子に、満足そうに、周瑜はうなずいた。
「劉州牧は、おのれの跡継ぎに庶子の劉琮どのを推されているが、これに反対する家臣が江夏に集りつつあるとか。
劉州牧がそのような有様では、これを頼りにしている黄祖の力も弱くなるのは道理」
「なるほど」
納得しつつも、甘寧は、どうしてそこまで周瑜が荊州の事情にくわしいのだろうと不思議に思った。


ふと視線をおぼえて、目線を周瑜からその背後に移動させると、見たことのない、あばた面をした、身なりのよい若者が控えていた。
若者は、甘寧と目が合うと、ぺこりとお辞儀をして、無言のまま、その場を去っていった。


周瑜は言う。
「劉州牧のことは曹操の知るところでもある。天下が大きく動くぞ。
われらもまた、先代からの悲願をここで達するのだ。
亡き大殿は、わたしにとっても父のような存在であった。
あの方をわたしたちから奪った憎い敵を、今度こそ討ち取って、その墓前に首を捧げるのだ」





孫権と黄祖の戦いは、いつでも悲壮感がどこかに漂っている。
黄祖が、孫権にとって憎い仇だということが、まず前提にあるからだろう。
そして、九年にわたる長い戦のなかで、孫権の払ってきた犠牲も、けっして軽いものではなかった。


孫権は、これが最後という周瑜のことばを受け、先鋒に、以前に甘寧が射殺した凌操の息子である凌統を指名した。
このはからいには、凌統本人ばかりではなく、家臣たちすべてが奮い立った。
凌統はまだまだ年若く、これをみなで助けてやろうという気風が、軍全体に生まれたのである。


かつてない一体感、高揚感のなかで、孫呉の水軍は、みな一丸となって黄祖に向かって行った。
なにせ、いままでとちがって、後顧の憂いがなにもない。
思い切り、前だけに進めるのである。


一方で、周瑜が言ったとおり、黄祖のほうは、まるで勢いがなかった。
孫権が押し寄せてくると、夏口に二艘の駆逐艦を並べた。
これを互いに綱で堅くしばり固定して、それぞれに千人の兵卒を配置し、水上の砦として、そこから弓でもって攻撃をしかけてきた。
この弓の攻撃に、孫権軍は、しばし足止めを喰らう。
これを倒すべく、名乗りを挙げたのが、董襲《とうしゅう》、字を元代《げんだい》という男である。
たいへんな大男で、力自慢であり、孫策の時代から孫家に仕えて、揚州の山賊や海賊を討伐して、名をあげていた男である。


董襲は、凌統とともに、孫権に先鋒を願い出た。
それが許されると、董襲は、兵卒たちの中から、とくに士気が高く、そして泳ぎに巧みなものを二百人選び出した。
そして、かれらに命じて、鎧を二重に着せた。
飛んでくる矢を防ぐためである。
董襲と凌統は、兵卒を百人づつに分けて、それぞれが大型の船に乗り込むと、力任せに、黄祖の船に特攻をかけた。
ぶつかり揺らぐ船の、その混乱に乗じ、董襲と凌統の率いる兵卒たちは、黄祖の船に乗り移る。
そして、敵兵をあらかた蹴散らすと、身に纏っていた鎧を脱ぎ捨てて、つづいて水に飛び込んだ。
その先頭に立ったのは、やはり董襲であった。
苦しい水中にて、必死になって、船と船を繋いでいた綱を、斧で切り捨てた。


これにより、均衡を失った船は、もはや砦としての役に立たず、黄祖の軍は、一気に崩壊へと向かっていくのである。




つづく

※ いつも閲覧してくださっているみなさま、どうもありがとうございます!(^^)!
みなさまに幸あれー!
おかげさまで、番外編ものこすところあと1回となりました。
三月からは「奇想三国志 英華伝 赤壁に龍は踊る」がはじまります(そういうタイトルにしました)。
どうぞおたのしみに!

でもって、明日もいらしてくださいね、おまちしておりまーす(*^▽^*)


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