帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔二百十六〕おほきにてよきもの

2011-11-01 00:03:23 | 古典

   

 

                    帯とけの枕草子〔二百十六〕おほきにてよきもの



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子〔二百十六〕おほきにてよきもの

 
 文の清げな姿
 大きくてよいもの、家。餌袋。帽子。果物。牛。松の木。硯の墨。男の目の細いのは女びている、しかし金椀のようなのも恐ろしい。火桶。ほおずき。山吹きの花。桜の花びら。


 原文 

おほきにてよき物。いへ。ゑぶくろ。ほうし。くだ物。うし。松の木。硯のすみ。おのこの目のほそきは女びたり。又かなまりのやうならんもおそろし。火おけ。ほうづき。山ぶきの花。さくらのはなびら


 心におかしきところ

多くてよいもの、五重。枝夫黒。奉仕。下さり物。うし(ん)。待つの気。す擦りのす見。男の見ることの弱いのは女びている。また、金の椀のように、久しく保つのも恐ろしい。火お気、ほお突き、山ばでさくお花、さくらの花ひたすら。


 言の戯れを知り、貫之のいう「言の心」を心得る。

 「おほき…大きい…太い…多い」「いへ…家…井へ…五重…ものごとの五つ重ね」「ゑぶくろ…餌袋…枝夫黒」「黒…強い色」「ほうし…帽子…法師(一人より百人の僧の読経)…奉仕…男の奉仕(女を山ばの頂上へ送り届けること)」「くだ物…果物…下さり物…お下がり物」「うし…牛…うし(ん)…有心…その心あること」「松…待つ…女」「木…気…気持」「す…女…洲…おんな」「すみ…墨…す見」「見…覯…媾」「目…見ること」「ほそき…細い…弱い」「かなまり…金属碗…われない…裂けない…久しく持続する」「火…情熱の炎」「おけ…桶…お気…おとこの気力」「やまぶきの花…山ばで咲くおとこ花」「さくらのはなびら…桜の花びら…さく状態のはなひら一重より八重と多いほうがいい」「さくら…おとこ花」「ひら…平…ひたすら…しきり」。



 「多きにてよきもの」の一つ、「山ぶきの花」の歌を聞きましょう。

 古今和歌集 春歌下、題しらず、よみ人しらず

山ぶきはあやななさきそ花みんと うへけむ君がこよひこなくに

山吹は、わけもなく咲かないでよ、花を見ようと植えた君が、今宵来ないのに……やま吹きのお花は、むやみに咲かせないでよ、はな見ようと飢えた君か、こ好い来ないのに)。


  「山…山ば」「山ぶき…山吹の花…山ばでさくお花」「見…覯…媾」「うへ…植え…飢え」「が…主語であることを示す…か…疑問を表わす…詰問を表わす」「こよひ…今宵…こ酔い…こ好い」「こ…小…接頭語…ささやかな」。


 これが和歌のありさま。女の「多きにてよき」と望む心根が、言の葉となって顕われているでしょう。枕草子は、それを散文でやっている。

 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・9月、改定しました)


 原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。