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帯とけの枕草子〔二百三十五〕星は
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言枕草子〔二百三十五〕星は
文の清げな姿
星は、昴星。牽牛星。金星。彗星、少しおもしろい、尾さえなかったら、まして。
原文
星は、すばる。ひこぼし。ゆふづゝ。よばひほし、すこしおかし、おだになからましかば、まいて。
心におかしきところ
ほしは、六連欲し。おとこほし。夕にくるほし。夜這いほしは、ちよっとおもしろい、後に尾引かなければ、まして。
言の戯れと言の心
「星…ほし…おし…男子…おとこ…欲し」「ほ…穂…秀…抜きん出たもの…お」「すばる…六連星…六つ連ねるほし」「ひこぼし…彦星…牽牛星…男ほし」「ゆふづつ…夕星…金星…夕筒…夕おとこ」「筒…おとこ」「よばひほし…彗星…呼ばひ星…夜這い星…夜這いおとこ」「お…尾…後に引くもの…あとくされ」。
万葉集の「天」を詠んだ歌を聞きましょう。柿本人麻呂の歌集出とあるので人麻呂の歌と思っていい。清げな天の景色に、どのような「心におかしきところ」が込められてあるのか。
万葉集 巻第七雑歌 巻頭の一首
天の海に雲の波立ち月の船 星の林にこぎ隠る見ゆ
字義通りに読めば、影絵のような夜空の景色が見える。それがこの歌の「清げな姿」。
(……吾女の海に、心の雲の波が立ち、つき人の夫ね、欲しの激しさに、こぎ隠る見ゆ)。
「天…あま…あめ…女」「海…をうなばら…あまのはら…女」「雲…心に煩わしくも湧き立つもの…情欲など…ひろくは煩悩」「月…月人壮士」「船…夫根…おとこ」「星…ほし…欲し…女の情欲…おとこの情欲」「林…早し…激しい…強い」「こぐ…漕ぐ…おし進む…こく…体外に放つ」「隠る…なくなる…逝く」「見…覯…媾」。
今では、清げな景色しか見えなくなった。紀貫之が「柿本人麻呂なむ、歌のひじりなりける」とまで讃えた人の歌。それに相応しい「心におかしきところ」がある。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。