帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔二百三十二〕ふるものは

2011-11-19 00:09:30 | 古典

  


                     帯とけの枕草子〔二百三十二〕ふるものは


 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。

 
 清少納言枕草子〔二百三十二〕ふるものは

 文の清げな姿
 降るものは、雪、あられ。みぞれは嫌だけれど、白い雪混じりに降っている、風情がある。
 雪は桧皮葺、とっても愛でたい。すこし消えかかっているくらいのも。それに、そう多くは降らないのが、瓦目毎に入って、黒う丸く見えている雪、とってもおかしい。時雨、霰は、板屋。霜も板屋、庭。

 原文
 ふるものは、雪、あられ、みぞれはにくけれど、しろきゆきまじりてふる、おかし。ゆきは、ひはだぶき、いとめでたし。すこしきえがたになりたるほど。また、いとおほうもふらぬが、かはらのめごとにいりて、くろうまろに見えたる、いとおかし。時雨、あられは、いたや、霜もいたや、には。

 心におかしきところ
 ふるものは、逝き。荒られ見逸れは嫌だけれど、白いゆき交じりて経る、すばらしい。
 
白ゆきは皮肌吹き、とっても愛でたい。少し衰えかかっているほと、また、たいそう多くは振らないが、かの腹のめごとに入って、強そうな麻呂に見えている、とってもいい。その時のお雨、荒られは、激しや、士も痛やには・あらずや。


 言の戯れと言の心
  「ふる…降る…古る…経る…振る」「雪…白…おとこ白ゆき…おとこの情念…逝き」「時雨…しぐれ…その時のおとこ雨」「あられ…霰…荒られ」「みぞれ…見逸れ…まぐ合いはずれ」「ひはたぶき…桧皮葺…皮肌吹き」「ほど…程度…ほと…陰」「かはら…瓦…彼腹…かの腹」「め…目…女」「くろう…黒く…強そう」「黒…強い色」「いたやには…板屋、庭…痛やには…痛くはありませんか」「いた…板…甚…甚だしい…激しい…痛」「や…感嘆または疑問の意を表わす」「し…子…士…おとこ」「には…庭…ものごとが行われるところ…では」。


 これは、おとなの女の読物。
 古来、雪の歌は多いけれど、藤原公任撰『和漢朗詠集』巻上の「雪」の歌を一首聞きましょう。きっと優れた歌でしょう。
 みやこにはめづらしとみるはつゆきを よしののやまにふりやしぬらむ
 (都では珍しいと見る初雪よ、吉野の山に降っただろうか……宮こでは、愛ずらしと見る、はつゆきよ、好し野の山ばに降らし死ぬのだろうか)。

  「みやこ…都…京…宮こ…山ばの絶頂」「みる…見る…思う…まぐあう」「はつゆき…初雪…発ゆき」「ゆき…おとこ白ゆき…おとこの情念…おとこの魂」「を…感嘆、詠嘆の意を表す」「よしの…吉野…好しの…良しの…適当である」「野…絶頂では無いところ」「やま…山…山ば」「ふり…降り…振り…経り」「しぬ…為した…死ぬ…逝く」「や…疑問の意を表わす」。


 これは、おとなの男の歌。深き心、清げな姿、心におかしきところは、おとこのさがを知る、おとなの男ならわかる。
 公任は「優れた歌の定義」を述べた最初の人。「およそ歌は、心深く、姿清げに、心におかしきところあるを、優れたりといふべし(新撰髄脳)」。これには「歌の様」即ち歌の表現様式も教示されてある。


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)

 
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。