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帯とけの枕草子〔二百三十四〕月は
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言枕草子〔二百三十四〕月は
文の清げな姿
月は、明方、東の山際に細く出ているとき、しみじみとした風情がある。
原文
月は、あり明のひんがしの山ぎはに、ほそくていづるほど、いとあはれなり
心におかしきところ
月人壮士は、明け方まで在るのが、嬪がしのや間際に、細くなって出ているほと、とってもあわれである。
言の戯れと言の心
「月…ささらえをとこ(万葉集の伝える月の別名)…月人壮士・月よみをとこ(万葉集の歌語)…男…おとこ…突き…尽き」「ひんがし…東…嬪が肢…女」「山…山ば…や間…屋間…おんな」「ほそくて…細くなって…欠けて…尽き人おとこが衰えて」「ほど…程…時ころ…ほと…お門…おとことおんな」「あはれ…しみしみとした情趣がある…いとしい…哀れである…ご立派である」。
万葉集の月の歌を「言の心」を心得て聞きましょう。
巻第十 寄月
君に恋ひしなえうらぶれ吾が居れば 秋風吹きて月かたぶきぬ
(君に恋い、心も萎れ、わびしくてやるせないわたしが居ると、秋風吹いて月傾いた……君に乞い、萎れ落ちぶれ、わたしが折るので、君が心に厭き風吹いて、ささらえをとこかたむいた)。
「恋…乞い」「秋…飽き…厭き」「風…心に吹く風」「月…ささらえをとこ…いいおとこ」「かたぶく…傾く…西に沈む…衰えさせる…片吹く」。
秋の夜の月かも君は雲隠り しましく見ねばここだ恋しき
(秋の夜の月なのかしら君は、雲に隠れ、しばらく見ないと、どれほど恋しいことか……飽きの夜の尽きかしら、君は心雲隠れて、しばらく見ないので、どれほど乞いしいことか)。
「雲…心に煩わしくもわきたつもの…情欲など…ひろくは煩悩」「見…覯…媾…まぐあい」「ば…すると…ので」「ここだ…幾許…幾らばかりか…程度の甚だしさを表わす…幾多」。
古来、歌には、人が心に思う生々しいことが、物に包んで清げに表わされてある。枕草子の文もまた同じ。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。