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帯とけの枕草子〔二百三十七〕さはがしき物
言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。
清少納言枕草子〔二百三十七〕さはがしき物
文の清げな姿
騒がしいもの、勢いのある火。板屋の上で烏が斎の施された散飯を食っている。十八日(縁日)に、清水寺に籠もっいて、出遭っている。暗くなって、まだ火も灯さないときに、他より人が来合わせている。まして遠い所の地方の国より、家の主人が上って来る、たいそう騒がしい。
近所で、火が出て来たという、だけど燃え着かなかった。
原文
さはがしき物、はしり火。いた屋の上にてからすのときのさばくふ。十八日に清水にこもりあひたる。くらうなりて、まだ火もともさぬほどに、ほかより人のきあひたる。まいて、とをき所の人の国などよりいへのあるじのゝぼりたる、いとさはがし。
ちかきほどに、火いできぬといふ、されどもえはつかざりけり。
心におかしきところ
騒がしいもの、激しい思いの火、甚だしい女が上にて、女がいつもの、さ端喰らっている。
つき人おとこ満月過ぎた・十八日に、清き女に、籠り・こ盛り、合っている。
暗くなって、まだ思い火もともさぬときに、ほかより男が来あわせている。まして、遠い所の地方の国より、この・家の主人が上って来る、たいそう騒がしい。
身・近きほとに、思い火でてきたという、だけど燃え尽きはしなかった。
言の戯れと言の心
「さはがし…騒然としている…忙しくとりこんでいる…胸が騒いでいる」「はしり…走り…急激な…勢いの強い」「火…思ひ火…情熱の炎」「いた…板…甚だ…ひどい」「屋…家…女」「上…女の敬称」「からす…烏…鳥…女」「とき…時…斎…定時の食事…その時」「さば…生飯…散飯…さ端…おとこ」「さ…接頭語…美称」「は…端…身の端…おとこ」「十八日…望月が欠け、はつか(微か)になる前」「水…女」「こもり…籠もり…子盛り」「こ…小…子…おとこ」「あひ…遭遇…合い…合体…和合」「ほど…程…ほと…陰」「もえはつかざり…燃え着かず…類焼せず…燃え尽きず・思い火残ったまま」。
常日頃の騒がしい情況を、幾つか描いてあると見えるのは、文の清げな姿。
人の身と心の生々しくも騒がしい有り様を、幾つか清げに包んで表わしてある。
伝授 清原のおうな
聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)
原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。