帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの枕草子〔二百二十六〕やしろは(その一)

2011-11-11 00:08:38 | 古典

  



                  帯とけの枕草子〔二百二十六〕やしろは(その一)



 言の戯れを知らず「言の心」を心得ないで読んでいたのは、枕草子の文の「清げな姿」のみ。「心におかしきところ」を紐解きましょう。帯はおのずから解ける。



 清少納言枕草子〔二百二十六〕 やしろは


 文の清げな姿

社は、布留の社、生田の社、旅の御社、花藤の社。杉の御社は、霊験はあるのかしらと興味深い。言のままの明神、とっても頼もしい。「そのように聞き入れてばかりだったのでしょう」とか言われておられると思えば、お気の毒だこと。

 
 原文

やしろは、ふるのやしろ、いくたのやしろ、たびのみやしろ、花ふちのやしろ。すぎのみやしろは、しるしやあらんとおかし。ことのまゝの明神、いとたのもし。さのみきゝけんとや、いはれ給はんとおもふぞいとおしき。


 心におかしきところ

かみの・やどは、古のやど。幾多のやど。度々の身やど。お花不知のやど。過ぎの身やどは、門に杉の・目じるしあるのかしらとおかしい。やどの願い事・そのまま聞き入れる明るい人は、とっても頼もしい。「その身、聞き入れていたのでしょう」とか、言われておられると思うと、かわいそう。


言葉は聞き耳異なるもの、言の戯れを知り、紀貫之のいう「言の心」を心得ましょう。

 「やしろ…社…屋代…神の宿…女」「ふる…布留…所の名…古…老」「いくた…生田…所の名…幾多…多数…多情」「たび…旅…度…たびたび」「はなふぢ…花藤…花不知…おとこ花しらず」「しるし…験…霊験…標し…訪ねていらっしゃい杉立てる門よと歌われた、杉の木」「ことのままの明神…願い事をそのまま聞き入れる神さま…言のまま聞き入れる、明るい人」「みゃうじん…明神…尊い神…明人…名人…妙人…すばらしい人…巧みな人」「かみ…女」「いとほし…お気の毒…数知れない男の願い事をそのまま聞き入れていたのでしょうと歌われる明るい女が・愛おしい」。



 「杉立てる門」の歌を聞きましょう。

古今和歌集 巻第十八雑歌下、題しらず よみ人しらず 

 わがいほはみわの山もとこひしくは とぶらひきませすぎたてるかど

 (わが庵は三輪の山もと、恋しくなれば、訪ねていらっしやい、杉の立っている門よ……わが井ほは、三和の山ばの麓、乞いしくば、訪ねていらっしゃい、さた過ぎ、絶った門よ)。

 「いほ…庵…家…女」「みわ…三輪…三和」「和…和合」「山…山ば」「恋い…乞い」「すぎ…杉…過ぎ」「たてる…立っている…絶っている…経っている…時が経過している」「かど…門…女」


 「さのみ聞きけむ」という歌を聞きましょう。

古今和歌集 巻第十九雑体、誹諧歌、題しらず さぬき

ねぎことをさのみききけむやしろこそ はてはなげきのもりとなるらめ
 
(祈願ごとを、それほどまで、聞いていたら、社の方が、果てはなげきの森りとなるでしょう……男の願い事を、その身これほどまで、聞き入れていたでしょう、家の妻こそ、果てはため息の盛りとなるでしょうが)。
 「ねぎごと…祈願ごと…願いごと…人の願いごと」「やしろ…社…屋代…女」「なげき…なげ木…ため息…嘆き」「もり…森…盛り」


 伝授 清原のおうな

 聞書 かき人知らず (2015・10月、改定しました)


 原文は、岩波書店 新 日本古典文学大系 枕草子による。