帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの新撰和歌集 巻第一 春秋(八十三と八十四)

2012-05-04 00:01:04 | 古典

  



          帯とけの新撰和歌集



 歌言葉の戯れを知らず、紀貫之の云う「言の心」を心得ないで、和歌の清げな姿のみ解き明かされて来た。藤原公任は、歌には心と、清げな姿と、心におかしきところがあるという。言の心を紐解きましょう。帯はおのずから解け人の心根が顕れる。


 紀貫之 新撰和歌集 巻第一 春秋 百二十首(八十三と八十四)

 
 ゆく水にみだれて散れる桜花 消えずながるゝ雪と見えつゝ 
                                    (八十三)

(流れ行く水に、乱れて散っている桜花、消えずに流れている雪と見えながら……ゆくをみなに、淫れ散るお花、消えずにながるる、おとこ白ゆきとともに見つづく)。 


 言の戯れと言の心

 「ゆく…行く…逝く」「みず…水…川…女」「みだれ…乱れ…淫れ」「ちる…散る…果てる」「桜花…木の花…男花…おとこ花」「ながるる…流るる…長るる」「雪…白ゆき…おとこ白ゆき…おとこの情念…おとこの魂」「と…のように…と一緒に」「見…覯…媾…まぐあい」「つつ…継続の意を表す…反復の意を表す」。



 浪かけて見るよしもがなわたつみの 沖の玉藻も紅葉ちるやと
                                    (八十四)

(浪を翔け行きて、見る手立てがあればなあ、沖の玉藻も、紅葉しているだろうかと……汝身懸けて、見るてだてがあればなあ、をうなはらの、奥の玉藻も飽き色して散るかと)。

 
 言の戯れと言の心

 「なみ…浪…汝身…親しき身」「かけて…翔けて…駆けて…懸けて…命を懸けて…情愛を注いで」「見…覯…媾…まぐあい」「よし…由し…方法…てだて」「もがな…願望を表す」「わたつみ…海神…大海原…をうな原…をうな腹」「おき…沖…奥」「玉…美称」「藻…海草…水草…女」「ももぢ…黄葉紅葉…秋の色…飽きの色」「ちる…散る…果てる」。



 春歌は川辺で眺めた春の風景で清げな姿をしている。言の戯れに顕れるのは和合の極致、これが心におかしきところ。

 秋歌は海辺で思い描いた景色で清げな姿をしている。言の戯れに顕れるの和合の願望と期待、これが心におかしきところ。

 両歌とも「深い心」はない。



 伝授 清原のおうな


 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず

  新撰和歌集の原文は、『群書類従』巻第百五十九 新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。