帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの新撰和歌集 巻第一 春秋(八十五と八十六)

2012-05-05 00:04:26 | 古典

  



          帯とけの新撰和歌集



 歌言葉の戯れを知らず、紀貫之の云う「言の心」を心得ないで、和歌の清げな姿のみ解き明かされて来た。藤原公任は、歌には心と、清げな姿と、心におかしきところがあるという。言の心を紐解きましょう。帯はおのずから解け人の心根が顕れる。


 紀貫之 新撰和歌集巻第一 春秋 百二十首(八十五と八十六)


 桜花ちりぬる風のなごりには 水なき空に波ぞたちける 
                                    (八十五)

(桜花、散った風の余波として、水なき空に、花びらの波が立ったことよ……おとこ花、散ってしまった心の嵐の余波には、見つなき、をみな泣き、空しさに、心波ぞ立ったことよ)。

 
 言の戯れと言の心
 「桜花…男花…おとこ花」「ちり…散り…果て」「風…心に吹く風…ものの山ばで吹く嵐…飽き風」「なごり…名残…余波…残った心波」「みづ…水…女…見つ…先ほどまで見ていた」「見…覯…まぐあい」「空…天空…空しい」。


 

 我きつる方も知られずくらぶ山 木々の木の葉の散りとまがふに

                                    (八十六)
(我の来た方向もわからない、暗ぶ山、木々のこの葉が散り乱れるので……我の来た方も、やまばも知らない、親しき山ば、利きのこの端が果てるとまがうので)。


 言の戯れと言の心 

  「きつる…来た…(山を登って)来た…(山ばが)来た」「くらぶ山…山の名…名は戯れる、暗い山、比ぶ山、近しい山、親しい山」「山…山ば」「きぎ…木々…きき…効き…効果ある…利き…役立っている」「木…男」「この葉…木の葉…此の端…身の端…おとこ」「散り…果て」「と…するといつも…するとすぐ」「まがふ…紛れる…乱れてわからなくなる…間かふ…間交ふ」「ま…間…女」「に…原因・理由を表す」。



 両歌とも、三度ゆっくり読みあげれば、心におかしき余情は感じ合えるでしょう。
 
 おとなの男どもは、このような歌を詠み合って、おとこのさがを弄んで楽しんでいた。姿は清げであるけれども、深い心はない。



 伝授 清原のおうな


 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず

   新撰和歌集の原文は、『群書類従』巻第百五十九 新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。