帯とけの古典文芸

和歌を中心とした日本の古典文芸の清よげな姿と心におかしきところを紐解く。深い心があれば自ずからとける。

帯とけの新撰和歌集 巻第一 春秋 (九十九と百)

2012-05-14 00:03:40 | 古典

  


          帯とけの新撰和歌集



 歌言葉の戯れを知らず、紀貫之の云う「言の心」を心得ないで、和歌の清げな姿のみ解き明かされて来た。藤原公任は、歌には心と、清げな姿と、心におかしきところがあるという。言の心を紐解きましょう。帯はおのずから解け人の心根が顕れる。


 紀貫之 新撰和歌集巻第一 春秋 百二十首(九十九と百)


 かはづなく井出の山吹さきにけり あはましものを花の盛りに 
                                    (九十九)

(蛙鳴く井出の、山吹咲いたのだなあ、逢いたかったのに、花の盛りに……をみな泣く、井出の山ばのお花咲いたことよ、合いたかったのに、華の盛りに)


 言の戯れと言の心

 「かはづ…川津…蛙…なくもの…女」「井出…所の名…名は戯れる、井に出る、井を出る」「井…女」「やまぶき…山吹…草花の名…名は戯れる、女花、女の栄華、山ばで吹くおとこ花、山ばの噴出」「あはましものを…逢いたいのにななあ…合いたかったのになあ」「あふ…遇う…合う…女の華とおとこ花の盛りの合致…和合」「ものを…のになあ…詠嘆の意を含む」。

 


 心あてに折らばや折らむ初霜の おきまどはせる白ぎくの花   
                                     (百)

 (心のままに、折ろうかな折ろう、初霜のおりて惑わせる、清楚な白菊の花よ……心のままに、ゆこうかな、ゆこうよ、初しもの贈り置き惑わされる、清楚な女花よ)。


 言の戯れと言の心

 「心あてに…当て推量に…心のままに」「をらばや…折らばや…折りたいものだ…折ろう…折ろうよ」「折る…逝く…果てる」「ばや…願望を表す…その状態を希望する意を表す」「をらむ…折るだろう…折ろう…折ろうよ」「初霜…初しも…初めての下」「霜…白…下…身の下」「おき…置き…霜など降り…白いもの贈り置き」「まどはせる…戸惑わせる…躊躇させる」「白菊の花…清楚な女花」。



 春歌は黄色一面の山吹の花の景色が目に見えるようで、清げな姿をしている。唯それだけではない、言の戯れに包まれてある心におかしきところは、性急なおとこのさがへの女の詠嘆。


 秋歌は白菊の清楚な風情を思わせて清げな姿をしている。唯それだけではない。心におかしきところは、おとこの心根。


 貫之が漢文序に云うように、「花実相兼而巳(花も実もある歌のみ)」、並べられてある。花に包まれて「玄之又玄」となった実を、大人たちは楽しんでいた。



 伝授 清原のおうな


 鶴の齢を賜ったという媼の秘儀伝授を書き記している。

 聞書 かき人しらず

  新撰和歌集の原文は、『群書類従』巻第百五十九 新撰和歌による。漢字かな混じりの表記など、必ずしもそのままではない。又、歌番はないが附した。