■■■■■
帯とけの「古今和歌集」
――秘伝となって埋もれた和歌の妖艶なる奥義――
古典和歌は中世に秘事・秘伝となって埋もれ、江戸時代以来、我々は奥義を見失ったままである。原点に帰って、紀貫之、藤原公任、清少納言、藤原俊成の、歌論と言語観に従って紐解き直せば、公任のいう歌の「心におかしきところ」即ち俊成がいう歌の深い旨の「煩悩」が顕れる。いわば、エロス(生の本能・性愛)であり、これこそが、和歌の奥義である。
古今和歌集 巻第三 夏歌 (152)
(題しらず) 三国町
やよやまて山郭公ことつてむ われ世中に住みわびぬとよ
(題しらず) (三国の町・仁明天皇の更衣)
(ちょっと待って、山ほとゝぎす、山寺に・言伝えたいの、わたくし、憂き世の中に住み辛くなったとよ・尼になりたいと……八夜や、そのままま・待って、山ばのほと伽す女は、貴身に・こと伝えたい、わたくし、女と男の浮き夜の中に、済み辛くなってしまったとよ)
歌言葉の「言の心」を心得て、戯れの意味も知る
「やよや…ちょっと…呼びかけ…八夜や…多い夜」「まて…待て…(ほととぎすよ)待て…(男よ)待て…(終了しようとするおとこよ)待て」「山…山ば」「郭公…鳥の言の心は女…ほととぎす…鳥の名…名は戯れる。ほと伽す、且つ恋う、且つ乞う」「ことつてむ…事伝えたい…(山寺の人に)言伝えたい…(男性に)こと伝えたい」「む…意志を表す」「世中…憂き世の中…浮き男女の夜の中」「すみ…住み…済み…終了」「わびぬ…しかねてしまう…し難く思ってしまう…つらくなってしまう」「とよ…とね…ということをよ…強調の意を表す・伝言の意を表す」。
山へ帰る郭公に、山寺の人への伝言を頼む、「憂き世に住み辛くなりました」と。――歌の清げな姿
山ばの男どもと身の端よ、そのまま八夜待て、女たちの気の澄むまでよ。独り山ばから逝けに堕ちることは許さない。――心におかしところ。
三国の町は、仁明天皇の更衣で紀種子。紀貫之らの二世代前の御人。藤原氏でないため后にはなれなかっただろう。それはともかく、女性を代表して世のおとこどもに、「やよや待て」と、仰せられるに相応しい御方。
ここ数首の男どもの心の歌を総括して、見事にうっちゃった感がする。古今和歌集の歌の並びには、それなりの意味があるのである。
(古今和歌集の原文は、新 日本古典文学大系本による)