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トリエステ(旧トリエステZoneA)、スロベニア(旧トリエステZoneB)は、イタリア人とオーストリア人とスラブ人の複雑な歴史の絡まっていた地域。トリエステは、数世紀もオーストリアの海の出口として地位を確保することに繁栄してきた。でも、トリエステは、イタリア帰属の夢と引換えに凋落の道を辿り、さらに、辺境で冷戦の対峙が必要でなくなった今、本当に辺境都市になってしまった。(トリエステ訪問のBlogはこちら、スロベニアの(ピラン)の歴史はこちら)そのトリエステ方言で書かれた詩は、独特の響きがあり、須賀さんをトリエステへの旅へいざなう。
トリエステから帰国して、「トリエステの坂道」という書籍があることを知り、そしてその書籍が前から薦められていた須賀敦子さんの書籍だと知ったとき、書店へ駆け込んでしまった。冒頭の短編「トリエステの坂道」に描かれるトリエステ空港に夜に到着した描写を読むと、先月訪れたあの寂しいトリエステの空港の光景が脳裏に蘇る。
そのあとの短編「電車道」からは、ミラノの生活が筆致鮮やかに回想される。決して裕福とはいえない生活に飛び込んだ須賀さんは、小雨では傘をささない夫に、微妙な出自の違いを感じる。そして、夫が亡くなった後、一寸出来の悪い弟がようやく結婚して、須賀さんが飛び込んだ家族にもようやく幸せが訪れてくる。戦後まもなくフランス留学までした須賀さんが、何故そういう生活をしてきたのか?分からないまま、エッセイのような小説は終わってしまう。
解説で何故がようやく解ける。須賀さんは意思をもってそのような生活を選び、生きたのだと。真摯に考え、そして実践されたと。
須賀さんは、晩年日本に帰国され大変活躍された。トリエステの街も、戦後少し凋落した時期もあっただろうが、今はとても海風の気持ちのいい清潔な街となった。「トリエステの坂道」というタイトルに込められた思いは、決して二つの文化を生きたというだけではない。
P.S. カラヴァッジョの『聖マタイの召命』:収録されている「ふるえる手」という短編に、ローマのサン・ルイジ・デイ・フランチェージ教会San Luigi dei Francesiにある カラヴァッジョMichelangelo Merisi(1571-1610)の有名な『聖マタイの召命』という祭壇画を訪れて鑑賞するときの話が出てくる。このカラヴァッジョの光の表現がレンブラントや、さらにラ・トゥールやフェルメールにつながっていくという意味では勿論、須賀さんの思いを鑑賞するという意味でも、是非ローマを訪れたくなった。
学芸員 荒井信貴さんのカラヴァッジョの解説
ローマのラヴァッジョ作品
P.P.S.
UPCOMING展覧会 レンブラントとカラバッジョ Rembrandt - Caravaggio2006年2月24日~6月18日 @Holland
史上初めて世界で最も有名な17世紀の芸術家、レンブラントとカラバッジョの特別展を開催。国立博物館とゴッホ美術館の共催で、アムステルダムのゴッホ美術館が会場。ヨーロッパの北と南のバロック期を代表する画家の芸術的な対比が見られる。25点ほどの絵画が、愛、感情、情熱の力強いイメージの饗宴を提供する。レンブラント生誕400年記念の展覧は2006年を通じて行われる。