フリック・コレクションの広間(その2)(ベリーニとティツィアーノ)
(その1)はこちら。
フリック・コレクション The Flick Collection の広間Living Roomのエル・グレコとハンス・ホルスバインの向かいには、ヴェネツィア派のイタリア・ルネサンスの巨匠の作品3点が展示されている。
中央にはジョヴァンニ・ベリーニGiovanni Bellini(1430頃-1516)の《砂漠の聖フランチェスコ》St. Francis in the Desert, c.1480,Tempera and oil on poplar panel (cradled)。図録曰く、フリック・コレクションの所有する最も貴重な作品であり、アメリカが所有するイタリア・ルネサンスの最高傑作。1224年にアッシジの聖フランチェスコがヴェルナ山で瞑想中に経験した奇蹟に基づいている。ジョヴァンニ・ベリーニは、イタリア・ルネサンスの画家の中では、ヴェネツィア滞在中の北方の画家からいち早く油彩画法を学んで取り入れた画家として名高い。*1 また、深い精神性の芸術家で、風景を人物像の構図の中に自然にとりいれる技法を身につけていた最初のルネサンス画家の一人。*2 本作品も油彩の魅力と彼の構図の魅力を発揮した作品。月桂樹の葉や枝など細部に至るまで事細かに表現されている。聖フランチェスコがまるでオペラでも謳うかような構図も、現実に立ち向かうかのようで勇気を与えてくれる。彼の作品は、イタリア国外で展示されている数はあまり多くないようだ。(Olga's Gallery)
その両脇にティツィアーノ・ベチェリオTitian (Tiziano Vecellio) (1477/1490-1576) 《赤い帽子の男の肖像》Portrait of a Man in a Red Cap, c.1516、《ピエトロ・アレティーノ》Pietro Aretino, probably between 1548 and 1551。ティツィアーノは、1520s-1540sは肖像画を多く描いたが、この広間では彼の青年期の作品と壮年期の作品を対比して飾っている。若々しい赤い帽子の男と文学界の重鎮のアレティーノ。特にアレティーノのサテンの生地の光りかたに目がゆく。フィレンツェのPalazzo Pittiにも同じく《ピエトロ・アレティーノ》, (1545)の肖像画がある。
ティツィアーノの初期の肖像画の1点が《ある男の肖像》Portrait of a Man.c.1512. Oil on canvas. The National Gallery, London。この作品はヴェネツィアの肖像画の最初の1点のひとつで、ロレンツォ・ロットからティントレットとヴェネローゼに至る発展を示すことになる肖像画派の始まりを画するもの。こうした作例から、リューベンスやヴァン・ダイクは17世紀の壮大なバロックの肖像画の型を発展させ、その様式を北ヨーロッパから英国に波及させた。*3 その意味では、この肖像画の多いフリック・コレクションの広間に1対のティツィアーノが選ばれているのも当然か。この《ある男の肖像》は、その袖に見られる色彩の扱いの巧みで、ヴェネツィアのラグーンの色の色調を見出すと、キュレータのレッツは評している。*3
ティツィアーノの肖像画で有名な作品は、たとえばFrancesco Maria della Rovere, Duke of Urbinoc.1536-1538. Oil on canvas. Galleria degli Uffizi, Florence。また《自画像》Self-Portrait. c.1550-1562. Oil on canvas. Staatliche Museen zu Berlin, Gemaldegalerie, Berlin, は、ヴァザーリが1566年にティツィアーノの家を訪れたときに見たものと同一視されるもの。
ティツィアーノは、ジョヴァンニ・ベリーニのもとで修行時代をすごし、何年かはジョルジョーネの助手を勤めていた。二人が亡き後、人気を博した画家。ヴェネツィア共和国の政府や名士だけでなく、エステ家、ゴンザーガ家、皇帝カール5世、その息子のフェリペ2世、法王パウロ3世などから引き立てられたという。
最初期の作品
- Gypsy Madonna. c.1512. Oil on wood. Kunsthistorisches Museum, Vienna, Austria
初期のヴェネツィア共和国の作品
- 《聖母被昇天》Assumption of the Virgin (Assunta). 1516-1518. Oil on wood. サンタ・マリア・デ・グロリオーザ・フラーリ教会Santa Maria Gloriosa dei Frarの主祭壇画, Venice *3に詳しい解説。
エステ家the Duke of Ferrara Alfonso d'Este のための作品
- Bacchus and Ariadne. 1520-1522. Oil on canvas. The National Gallery, London, UK
ゴンザーガ家Federico II Gonzaga, Duke of Mantuaのための作品
- Madonna and Child with St. Catherine and a Rabbit.1530. Oil on canvas. The Louvre
皇帝カール5世Charles Vのための作品
-Portrait of Emperor Charles V Seated. 1548. Oil on canvas. Alte Pinakothek, Munich 痛風に悩む年老いた支配者を描く
また、女性像やヌードを多く描いている、
-Venus of Urbino. 1538. Oil on canvas. Galleria degli Uffizi, Florence
-VanityCa. 1515, Alte Pinakothek, Munich (残念ながら覚えていない)
-Salome. c.1515. Oil on canvas. Galleria Doria Pamphilj, Rome
-Venus and Adonis. 1553-1554. Oil on canvas. Museo del Prado, Madrid
-Pardo Venus (Jupiter and Antiope). 1535-1540, reworked c.1560. Oil on canvas. The Louvre, Paris
法王パウロ3世the Pope Paul III from the Farnese familyのための作品
-Pope Paul III and His Grandsons Ottavio and Cardinal Alessandro Farnese. 1545-1546. Oil on canvas. Museo Nazionale di Capodimonte, Naples
1550年以降色彩を追求するようになるが、そのなかでもフェリペ2世ためにかいた作品
-《夕刻の風景の中の聖母子》Madonna and Child in an Evening Landscape. 1562-1565. Oil on canvas. Alte Pinakothek, Munich (残念ながら覚えていない)
-Diana and Callisto. 1556-1559. Oil on canvas. National Gallery of Scotland (on loan from the Duke of Sutherland), Edinburgh
後期の著名な作品として
-Allegory of Time Governed by Prudence. c.1565. Oil on canvas. The National Gallery, London
-Portrait of Jacopo de Strada. 1567-1568. Oil on canvas. Kunsthistorisches Museum, Vienna 図録の筆頭(覚えていない)
-Shepherd and Nymph. c.1570. Oil on canvas. Kunsthistorisches Museum, Vienna, Austria
- 《荊冠のキリスト》Christ Crowned with Thorns, 1570, Alte Pinakothek, Munich 図録曰くアルテピナコテークのもっとも忘れがたい傑作(残念ながら覚えていない)
-Religion Succored by Spain. 1572-1575. Oil on canvas. Museo del Prado, Madrid
遺作は、ヴェネツィアのアカデミア美術館Gallerie dell Accademiaに展示されているPieta, 1576。かすかな記憶はあるのだが、もう一度きちんと見ないと。
メトロポリタン美術館The METでは、Venus and the Lute Player, ca. 1565-70 (165.1 x 209.6 cm)などが展示されていたはず。(これも残念ながら覚えていない)。
9月25日のフリック・コレクション訪問、6月9日のウィーンの美術史美術館訪問と9月9日のアルテピナコテーク訪問から
*1 カラー版 西洋美術史 高階 秀爾編
*2 ミシュラン・グリーンガイドMichelin the Green Guide イタリア
*3 ケンブリッジ 西洋美術の流れ3 ルネサンスの美術 ローザ・マリア・レッツ著 岩波書店, 1989
他のフリック・コレクション訪問のBLOGはこちら
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フリック・コレクション The Flick Collection の広間Living Roomのエル・グレコとハンス・ホルスバインの向かいには、ヴェネツィア派のイタリア・ルネサンスの巨匠の作品3点が展示されている。
中央にはジョヴァンニ・ベリーニGiovanni Bellini(1430頃-1516)の《砂漠の聖フランチェスコ》St. Francis in the Desert, c.1480,Tempera and oil on poplar panel (cradled)。図録曰く、フリック・コレクションの所有する最も貴重な作品であり、アメリカが所有するイタリア・ルネサンスの最高傑作。1224年にアッシジの聖フランチェスコがヴェルナ山で瞑想中に経験した奇蹟に基づいている。ジョヴァンニ・ベリーニは、イタリア・ルネサンスの画家の中では、ヴェネツィア滞在中の北方の画家からいち早く油彩画法を学んで取り入れた画家として名高い。*1 また、深い精神性の芸術家で、風景を人物像の構図の中に自然にとりいれる技法を身につけていた最初のルネサンス画家の一人。*2 本作品も油彩の魅力と彼の構図の魅力を発揮した作品。月桂樹の葉や枝など細部に至るまで事細かに表現されている。聖フランチェスコがまるでオペラでも謳うかような構図も、現実に立ち向かうかのようで勇気を与えてくれる。彼の作品は、イタリア国外で展示されている数はあまり多くないようだ。(Olga's Gallery)
その両脇にティツィアーノ・ベチェリオTitian (Tiziano Vecellio) (1477/1490-1576) 《赤い帽子の男の肖像》Portrait of a Man in a Red Cap, c.1516、《ピエトロ・アレティーノ》Pietro Aretino, probably between 1548 and 1551。ティツィアーノは、1520s-1540sは肖像画を多く描いたが、この広間では彼の青年期の作品と壮年期の作品を対比して飾っている。若々しい赤い帽子の男と文学界の重鎮のアレティーノ。特にアレティーノのサテンの生地の光りかたに目がゆく。フィレンツェのPalazzo Pittiにも同じく《ピエトロ・アレティーノ》, (1545)の肖像画がある。
ティツィアーノの初期の肖像画の1点が《ある男の肖像》Portrait of a Man.c.1512. Oil on canvas. The National Gallery, London。この作品はヴェネツィアの肖像画の最初の1点のひとつで、ロレンツォ・ロットからティントレットとヴェネローゼに至る発展を示すことになる肖像画派の始まりを画するもの。こうした作例から、リューベンスやヴァン・ダイクは17世紀の壮大なバロックの肖像画の型を発展させ、その様式を北ヨーロッパから英国に波及させた。*3 その意味では、この肖像画の多いフリック・コレクションの広間に1対のティツィアーノが選ばれているのも当然か。この《ある男の肖像》は、その袖に見られる色彩の扱いの巧みで、ヴェネツィアのラグーンの色の色調を見出すと、キュレータのレッツは評している。*3
ティツィアーノの肖像画で有名な作品は、たとえばFrancesco Maria della Rovere, Duke of Urbinoc.1536-1538. Oil on canvas. Galleria degli Uffizi, Florence。また《自画像》Self-Portrait. c.1550-1562. Oil on canvas. Staatliche Museen zu Berlin, Gemaldegalerie, Berlin, は、ヴァザーリが1566年にティツィアーノの家を訪れたときに見たものと同一視されるもの。
ティツィアーノは、ジョヴァンニ・ベリーニのもとで修行時代をすごし、何年かはジョルジョーネの助手を勤めていた。二人が亡き後、人気を博した画家。ヴェネツィア共和国の政府や名士だけでなく、エステ家、ゴンザーガ家、皇帝カール5世、その息子のフェリペ2世、法王パウロ3世などから引き立てられたという。
最初期の作品
- Gypsy Madonna. c.1512. Oil on wood. Kunsthistorisches Museum, Vienna, Austria
初期のヴェネツィア共和国の作品
- 《聖母被昇天》Assumption of the Virgin (Assunta). 1516-1518. Oil on wood. サンタ・マリア・デ・グロリオーザ・フラーリ教会Santa Maria Gloriosa dei Frarの主祭壇画, Venice *3に詳しい解説。
エステ家the Duke of Ferrara Alfonso d'Este のための作品
- Bacchus and Ariadne. 1520-1522. Oil on canvas. The National Gallery, London, UK
ゴンザーガ家Federico II Gonzaga, Duke of Mantuaのための作品
- Madonna and Child with St. Catherine and a Rabbit.1530. Oil on canvas. The Louvre
皇帝カール5世Charles Vのための作品
-Portrait of Emperor Charles V Seated. 1548. Oil on canvas. Alte Pinakothek, Munich 痛風に悩む年老いた支配者を描く
また、女性像やヌードを多く描いている、
-Venus of Urbino. 1538. Oil on canvas. Galleria degli Uffizi, Florence
-VanityCa. 1515, Alte Pinakothek, Munich (残念ながら覚えていない)
-Salome. c.1515. Oil on canvas. Galleria Doria Pamphilj, Rome
-Venus and Adonis. 1553-1554. Oil on canvas. Museo del Prado, Madrid
-Pardo Venus (Jupiter and Antiope). 1535-1540, reworked c.1560. Oil on canvas. The Louvre, Paris
法王パウロ3世the Pope Paul III from the Farnese familyのための作品
-Pope Paul III and His Grandsons Ottavio and Cardinal Alessandro Farnese. 1545-1546. Oil on canvas. Museo Nazionale di Capodimonte, Naples
1550年以降色彩を追求するようになるが、そのなかでもフェリペ2世ためにかいた作品
-《夕刻の風景の中の聖母子》Madonna and Child in an Evening Landscape. 1562-1565. Oil on canvas. Alte Pinakothek, Munich (残念ながら覚えていない)
-Diana and Callisto. 1556-1559. Oil on canvas. National Gallery of Scotland (on loan from the Duke of Sutherland), Edinburgh
後期の著名な作品として
-Allegory of Time Governed by Prudence. c.1565. Oil on canvas. The National Gallery, London
-Portrait of Jacopo de Strada. 1567-1568. Oil on canvas. Kunsthistorisches Museum, Vienna 図録の筆頭(覚えていない)
-Shepherd and Nymph. c.1570. Oil on canvas. Kunsthistorisches Museum, Vienna, Austria
- 《荊冠のキリスト》Christ Crowned with Thorns, 1570, Alte Pinakothek, Munich 図録曰くアルテピナコテークのもっとも忘れがたい傑作(残念ながら覚えていない)
-Religion Succored by Spain. 1572-1575. Oil on canvas. Museo del Prado, Madrid
遺作は、ヴェネツィアのアカデミア美術館Gallerie dell Accademiaに展示されているPieta, 1576。かすかな記憶はあるのだが、もう一度きちんと見ないと。
メトロポリタン美術館The METでは、Venus and the Lute Player, ca. 1565-70 (165.1 x 209.6 cm)などが展示されていたはず。(これも残念ながら覚えていない)。
9月25日のフリック・コレクション訪問、6月9日のウィーンの美術史美術館訪問と9月9日のアルテピナコテーク訪問から
*1 カラー版 西洋美術史 高階 秀爾編
*2 ミシュラン・グリーンガイドMichelin the Green Guide イタリア
*3 ケンブリッジ 西洋美術の流れ3 ルネサンスの美術 ローザ・マリア・レッツ著 岩波書店, 1989