①日本製鉄のU.S.スティール買収は無理筋
——安倍さんなら可能性も、石破政権では絶対無理——
日本製鉄によるU.S.スティールの買収計画についてはバイデン大統領が国家安全保障上の懸念を理由に禁止命令を出しました。これに対し、日本製鉄とU.S.スティールはバイデン大統領などを相手取って禁止命令を無効とすることなどを求める訴えを起こしていて、日本製鉄は買収の実現を目指す方針を重ねて示しています。
この問題は、米国の安全保障政策に関する重要問題にも関わらず、米国の雇用とか企業の存続の問題として論議する意見が多く、例によって日本のメディアも的外れであるため、ここはまず国際政治学者に登場を頂いて、根本の問題は何なのかというところから解説をしていただきます。許可を得て掲載します。
【問題の概要】
日鉄のU.S.スティールの買収が非常に難しくなってきました。これは国防問題の重要性というのがわからないと「なぜこのような企業間のものに政府が口出しをするのか」という話になるのですが、石破首相の責任も非常に大きいと私は思います。
今はまだ現役大統領であるバイデンが反対して中止命令を出したのですが、トランプも反対しているのです。だから、はっきり言って、民主党も共和党も両方反対しているので、この買収を実行するのはものすごく難しいと言えます。この件については、日鉄の読みが非常に甘かったとしか言いようがありません。
日本製鉄は、ポンペオ氏を当問題の弁護士として雇いました。日鉄の幹部はアメリカの政治情勢が何もわかっていないということだと思います。ポンペオ氏は反トランプであり、トランプに嫌われている人です。次期大統領に嫌われている人を弁護士として持ってきて、この問題を通そうと日鉄は考えています。アメリカの政治が残念ながら見えていません。非常に残念です。
【詳細解説】
U.S.スティールは、原子力潜水艦の原料の鉄を作っている企業
日本製鉄のU.S.スティール買収が非常に困難となってきました。これは安全保障・国防問題なのです。その重要性がわかっていないと、なぜビジネスに政治が介入するのかという小さな視点になってしまいます。大きな視点から見ないと駄目です。
これに関して、私は石破の責任が大きいと思っています。バイデンが反対していても、次期政権のトランプが賛成しているならいいのです。トランプはアメリカへの投資は大歓迎だと言っています。
ところが、この件に関しては国防上も非常に大事な企業のことであり、かつて「鉄は国家なり」という言葉があって、今はそれほどでもないですが鉄は国家の産業・工業化社会の一つの中心です。アメリカでは、その競争力がなくなってしまって外国から大量に鉄鋼を買うようになっているのですが、それが故に守らないといけません。
例えば、U.S.スティールというのは、原子力潜水艦の船体を建造する原料の鉄を作っている企業でもあるわけです。今は、そこまで規模の大きな会社ではありませんが、アメリカにとって元々「U.S.」という名前がついている大事な大きな会社でした。
日本製鉄側にも言い分はたくさんあるし、言うことを聞いていると最ものことが多いのです。しかし、これは政治的に引っくり返されてしまえば、それまで大統領に抗って買収を通すことは非常に難しいと思います。
アメリカの政治状況が日本製鉄もよくわかっていなかったのでしょう。ビジネス的には日本製鉄とU.S.スティールはお互い助け合う良い関係でした。しかし、U.S.スティールには競争力がなくなってしまっているのです。そこに儲かる特殊鋼の部分で技術がないため、日鉄がそれを教えて競争力をつけていこうとしていました。
反トランプのポンぺオを顧問弁護士にしたところで
ポンペオ氏という第1次トランプ政権時代の元国務長官だった人を顧問弁護士に雇って、この問題解決を進めました。これは日本製鉄の経営陣がアメリカの政治のことを何もわかっていないという証拠です。
ポンペオはトランプの腹心のような人でしたが、第1次トランプ政権が終わったあとトランプ批判を始めました。トランプの悪口を言い始めて、今はハドソン研究所に所属しています。このハドソン研究所から、主要なメンバーが新しいトランプ政権にほとんど入っていません。
そして、トランプも「ポンペオが政権に入るような噂があるけど、それはありません。第1次政権では協力していただきまして、ありがとうございました。でも第二次政権ではないです」と明確に言っているのです。ポンペオは大統領選挙にも出ようとしたのですが、人気がないので出られられませんでした。
そして、またトランプ批判をやったのです。トランプにしてみれば、単なる敵というよりも裏切り者に値します。そのような人に日鉄が頼んで、新しくできるトランプ政権との仲を取り持ってもらおうというのは無理でしょう。
日本でも一部で「ポンペオはトランプの懐刀で、未だにトランプの側近である」という間違ったことを言っている人たちがいました。日本製鉄はそういう間違ったオピニオンに騙されてしまったのでしょう。その辺りをよく理解していません。この買収に関して、私は非常に難しいと思っています。
はっきり言えば、早く諦めたらよかったと思うのです。日本製鉄の方がバイデン大統領の決定(大統領命令)が不当介入であるということで「裁判を起こす」と言っています。U.S.スティールは日本製鉄から買収されることに同意していますから、両者が裁判を起こすと1月6日に発表しました。
同時に両者だけでなく、アメリカの鉄鋼会社にクリーブランド・クリフスという会社があります。この会社はU.S.スティールのライバル社です。ここが実はU.S.スティールを買いたかったということもあるのですが、ここが妨害工作をやってきました。
クリーブランド・クリフスのCEOと全米鉄鋼労働組合の会長たちを相手にして、妨害したことに対する訴訟を起こしたのです。対米外国投資委員会(CFIUS)は、外国企業が大きな買収をやるときに、アメリカの国益に適うかどうか決めるところです。ここが審査無効だと言っているだけでなく、陰で妨害したと思しきライバルと全米鉄鋼労働組合のトップを裁判で訴えます。次はトランプ政権だから、最終的にトランプが駄目と言っている以上、これは成功する見込みは非常に少ないです。
安倍さんだったらうまく行ったかもしれない
それから裁判をやって勝つ可能性はあると思います。ゼロとは言いませんが、極めて勝つのは難しいでしょう。それまでに、ものすごく高い裁判料というか弁護士料が取られます。弁護士が自分たちの仕事のためにやっている裁判になってしまうでしょう。
日本製鉄としては、何のためにそこまで高額のお金を払うのかという裁判になってしまうと思います。トランプも交渉上手だから、アメリカに外国の企業がお金を持って投資してくれるのは歓迎であるとの発言は今までもしているのです。孫正義が1000億ドル投資するというのも大歓迎だと言って、マール・ア・ラーゴの記者会見にまで同席させていました。
そういうことで、最終的にうまくいく可能性がないことはないです。それまでにトランプから、日本製鉄にとって自由な経営を縛るような条件を大量に飲まされてしまうのではないでしょうか。トランプは交渉上手で交渉術の本を執筆しているくらいの人です。やはり、これに関しては石破の責任も大きいと私は思います。これは石破の就任前から話が進んでいて、2023年末に大体は決まっていました。そして、U.S.スティールに対しても日本製鉄は今の株よりだいぶ高めにお金を出して買うと言ったので、U.S.スティールの株主総会でも賛成であるという話になったのです。
しかし、皆さんも考えてみてください。今の石破は反米・親中外交をやっています。そういった国の会社にU.S.スティールを買わせると思いますか?逆に考えてみて、お亡くなりになった方ですが、仮に今、安倍晋三が総理大臣だったら、この問題はうまくいっていたかもしれません。
ちゃんと根回しもしてくれて、トランプと仲のいい人が「こういう理由でこれはアメリカの国益にも産業界のためにもなる。安全保障上の心配もない」ということが説得できれば、うまくいっていたかもしれないです。
ところが石破首相は、現在の新政権のトップであるトランプに嫌われています。その人は単に嫌われているだけではなく、親中的かつトランプに楯突いているイギリスの左派労働党政権と手を組み、習近平とも手を組んで反米スタンスをとっているのが石破政権です。そこがトップを務めている今の日本国の日本製鉄に買わせるわけにはいかないということになっているのではないでしょうか。
これを詳しく見ていくと、労働組合の人たちとも日本製鉄の人とも話したり、あるいは地元の町長と幹部の方が何回も話して、街が寂れないようにするということを話したりして、本当に長い時間をかけて日本製鉄としては一生懸命やってきたのは事実です。
(続く)