①日本が取るべき経済安全保障政策
——中国共産党vsアメリカの半導体戦争に学べ
本日から「日本が取るべき経済安全保障政策」をテーマに、経済安全保障に関するコンサル業務を行う専門家による解説をお届けします。 8回にわたっての掲載ですが、今まであまりどこにも語られていない真実に読者も驚かれると思います。
(本ブログは著者の特別の許可を得て掲載しています。なお、収録時は対中宥和の岸田政権下です。)
今日は「脱中国が進む世界経済——日本が取るべき経済安全保障政策」ということでお話をさせていただきたいと思います。お話の内容としては大きく三つ。
まず、アメリカの対中半導体規制というのは、安全保障の問題だという話を最初にします。それから二つ目に、今年施行された改正反スパイ法で、中国はどういうような影響を、自滅の道を行くかどうか。それから最後に、失速する中国経済ということでお話をしていきたいと思います。
アメリカの対中半導体規制は、安全保障の問題
それではまず、アメリカの半導体規制がなぜ行われたかという、その背景からお話をしていきます。半導体はスマホから自動運転車だけではなく、高度なコンピューターとか兵器製造まで、あらゆるものに不可欠です。そして、もう当たりますけど、半導体なしでは電卓も動かないし、スマホ、コンピューター、自動車、航空機、船からミサイルまで、まったく動かないわけです。
そして、最先端の半導体というのは軍事品の開発性能を左右するため、アメリカは安全保障を目的に 対中規制を導入しました。中国は特に高度なプロセッサーと呼ばれる半導体、そしてメモリーチップ、関連機器の製造装置などは外国に依存しています。
逆にアメリカは、半導体供給網の中でもっとも重要な部分、特に高度な研究開発が必要な分野はアメリカが優位に持っているわけです。
そして、アメリカにはそういった優位だと申し上げましたけれども、先端半導体の設計大手、それから半導体を製造するためのソフトウエアを開発している会社とが、半導体の製造装置の会社の大手が存在しているわけです。
情報化戦争はもう古い?
安全保障問題といった理由は、まずハイテク技術というのは新しい戦争形態を生み出して、米中覇権争いの勝敗を決するんですね。ではこれまではどうだったかというと、 戦争の形態というのは軍事技術革命がもたらした成果を軍事分野が採用して、これを新たな戦争システムとして形づくって進化してきた。最近は情報化と呼ばれるんですね。
では具体的にどうかというと、1991年に湾岸戦争が起きました。アメリカをはじめとする多国籍軍はデジタル化、情報化されたシステムを使って迅速な意思決定を行って、イラク軍を圧倒したんです。情報が作戦を立てるという基本的な手段ということになって、それ以前は物質とかエネルギー、たくさん大砲を持っているとか、飛行機をたくさん持っているとか、そういった物質とかエネルギーが勝敗を決するというルールから、情報をいかに正確に押さえて戦争をするかというふうに変わったわけですね。
AIを利用した知能化戦争へ移行中
今、この情報化戦争が知能化戦争と呼ばれるものに変わろうとしているわけです。
そこでの主役は AI、人工知能なんですね。人工知能が軍事利用されると、人工知能の補助を受けて指揮とか意思決定が行われるようになる。そして、それに対応してAIを搭載した兵器システムが戦闘を行うようになりま す。従来の情報化戦争から、質的な変化が起きちゃう。AI技術の進化に連れて、作戦方式や軍事理論な ども変わっていくわけです。
今言いましたように、情報化戦争からAIを利用した知能化戦争へ移行して、新たな戦争システムカヾ形 成されて、この知能化戦争の戦場というのは陸海空、そして宇宙。だから宇宙軍なんですね。そして電磁波を使ったもの、それからサイバー、認知領域で戦場がものすごく幅広く展開されていきます。
人民解放軍は、もうこれに取り組んでいるんですね。令和5年の『防衛白書』を見ますと、新技術によって将来の戦闘の速度とテンポが上昇して、また戦場での不確実性を低減して情報処理の速度と質を向上させます。新技術というのはAIのことですね。そして潜在的な敵に対する意思決定の優位性を提供するためには、AIの運用化が必要である、と人民解放軍は認識しています。
それから知能化されたスウォームによる消耗戦。スウォームというのはドローンを何十機から何百機、バーツと飛ばして目標に向かって襲わせるような、それを制御する技術なんですけれども、数百機飛んでくるうち、9割以上撃ち落としても数機がくぐり抜けると、レーダーを壊されたり滑走路を壊されたり、いろいろなことがあるわけです。もちろん民間インフラにこういった数百機のドローンがまとまって攻撃をしてくる、このようなことも想定されるわけですけれど、これを制御していく、コントロールしていくのがAIであり、知能化された戦争なんですね。こういった知能化された戦争のための次世代の作戦構想を模索していると。
そして無人システムも重要な知能化の技術と考えており、今言ったスウォーム攻撃、それから最適化された兵站の支援、分析された情報収集、警戒監視、偵察活動などを可能にするために、無人の陸海空からのアセットの自律性を高めることを追求している。ここで無人の陸とか海というのを見落とさないでほしいですね。だか ら日本の無人島が買われているんですよ。ドローンを持ち込んで。こういうようなところを見落としてはいけないということなんですね。
軍事力は計算力
その知能化戦争を支える三種の神器が、人口知能、スパコン、半導体なんです。今申し上げたように、知能化戦争では人工知能が重要な役割を果たすのですが、人工知能AIの基礎は計算なんですね。
つまり、スパコンなどを使って数学の演算とか推論を行い、認知や運動を実現させるには、まず強力な計算能力の支えが不可欠です。つまり、今の軍事力=計算力と考えていいと思います。
そして、このコンピューターの計算能力を決めるのが、CPUという中央演算装置と言いますけれども、こういう半導体なわけです。そのCPUの大きさというのは決まっているわけです。
その決まった大きさの中でCPUの動作速度を向上させ、消費電力を低減し、半導体装置であるトランジスタ1個あたりの製造コストを削減して高性能化を果たすには、同じ面積は決まっているわけだから、1本あたりの回路の線の幅を細くしていくしかないわけです。だから微細化ということが重要になってくるわけなんですね。
つまり、微細化して集積化していくと、単位あたり、面積あたりの計算処理性能が上がっていくわけです。だから半導体を組み立てるファウンダリーは、微細化に注力しているわけです。
(つづく)