topics(683):ロシアが握る濃縮ウランは欧米の急所
――欧米のエネルギー事情
ジェトロ(日本貿易振興機構)のビジネス短信に「EU理事会、域外国向けのロシア産原油の上限価格で合意、適用を開始」とあり、記事【※1】を読んだのですが、何を言っているのかさっぱりわかりませんでした。
【※1】EU理事会(閣僚理事会)は12月2日、ロシアからEU域外国に海上輸送される原油の上限価格を1バレル当たり60ドルとすることで合意した。G7諸国とEU、オーストラリアは同日、この上限価格を支持することで一致。これを受けて、EU理事会で既に採択済みの制裁措置(2022年10月7月記事参照)に基づき、EUはロシア産原油に対する上限価格の適用を12月5日に開始した。
これにより、EU域内の事業者は、今回設定された上限を超える価格で売買されたロシア産原油に関して、域外国に海上輸送することのほか、技術支援、仲介、資金供給や保険といった関連サービスを提供することが禁止された。石油製品に関しては、別途、上限価格を設定した上で、同様の措置を2023年2月5日から導入する予定だ。なお、今回の措置とは別に、海上輸送によるロシア産原油のEU域内への輸入禁止措置(2022年6月6日記事参照)も12月5日から適用が開始された(石油製品に関しては、2023年2月5日の適用開始を予定)。
困ったなぁと思っていると、国際政治学者のこれに対する見解が出ていましたので理解することができました。早速、引用してみます。
この記事は、EUが「ロシア産の原油は買ってもいいけど、60ドル以上では買いません。あんまりお金を儲けさせると、戦争資金になる」ということで、「12月2日に決めて5日から実施しますと」いうことです。
そして、ロシア産原油の取引上限を1バレル60ドルとするということで合意し、G7とオーストラリアもEUの決定に歩調を合わせて同時にいきます。日本も同時にいきますということです。
60ドルを上限とするということは、60ドル以下だったら買ってもいいということで、上限60ドル。50ドル台だったら買いますよという保証をしているとも言えますが、これではロシアは儲からない。しかし、実は先進国から言えば、自分で自分の首を絞めているということになります。
OPECプラス【※2】も減産を続けていくということですから、天然ガスの価格は上がったままです(石油の値段は、今年の2月24日、ロシア軍のウクライナ侵攻以前の段階にほぼ戻っています)。しかし、これ以上、下がりませんということで、冬は非常に厳しい。特にヨーロッパやアメリカは非常に厳しいエネルギー状況になっていくであろうということになります。
【※2】OPECプラス:(OPEC加盟13か国に加えて)アゼルバイジャン、バーレーン、ブルネイ、カザフスタン、マレーシア、メキシコ、オマーン、ロシア、スーダン、南スーダンの10か国
特に、ディーゼルオイルが非常に不足しています。アメリカでの話ですが、ディーゼル油の在庫がどのくらいかといえば、過去5年平均より40%も少ないレベルです。過去5年平均の6割しかないということです。
全米でもディーゼルの在庫日数が25日分しかないということで、ディーゼルというのは暖房にも使いますし、アメリカの鉄道は電化していないのでディーゼル車で動いているところが多いですから、鉄道貨物輸送も滞る。それから大型トラックはディーゼル車で、ディーゼルエンジンで動いていますから、物流が滞ってくる。
それから暖房にディーゼルを使います。農業機械が動かない。工場の機械もディーゼルで動く。これらが動かないということで、大変なエネルギー不足。単純に言っても、暖房で暖が取れないという非常に厳しい状況になってきています。
バイデン政権のエネルギー政策の顧問であるエイモス・ホクスタインさんという人が、CNBCというテレビに出て質問を受けました。バイデン政権の石油根絶、石油根絶やし政策について「バイデン大統領は石油の採掘を終わらせると言っていますが、その意味はどういう意味ですか」と質問したところ、エイモス・ホクスタイン大統領顧問は、「最終的に石油の使用を根絶することを目的としています。」と、はっきり言ったんです。
「石油を全く使わなくする。それが目標なんです」。これでは石油が足りなくなるのは当たり前ですよね。石油を根絶するんですから。代替物があるのならいいですが、代替物がないのにこれをやるというわけです。
これを受けて、トランプ派のインターネットメディアはこういうことを言っています。「エリートたちはガソリン車を使い続けるし、石油の使用も続けるんだろう。しかし、貧しい農民だけは石油を使えなくするということだ。」と言っています。
これはアメリカだけじゃありませんが、イギリスも同じような状態で、燃料不足でトラックが走らない。それだけじゃなくて、ディーゼル車で動いているタンクローリーが動けないので、普通のガソリンをガソリンステーションに届けることもできない。そういう状況では、普通のガソリン車も走れなくなってしまう。
それからロシアがウランを握っていますから、濃縮ウランの供給を削減してくると大変なことになりますよということで、ロシアは恐らく濃縮ウランの燃料を輸出禁止にするんじゃないかと思います。
アメリカでバイデン政権も、イギリスの前のジョンソン政権も、今のスナク政権も、化石燃料はだめ、脱炭素だ、原発で発電すればいいんじゃないかと言っていますが、アメリカの原発では、アメリカで作っている濃縮ウランはほとんど使われていないのです。
アメリカが自国内で生産している原発の原料の濃縮ウランは、2021年には2014年の1%未満にまで低下しており、一番大きくアメリカが依存しているのは、カザフスタンからの濃縮ウランの輸入。それから、カナダ、オーストラリア、それから、ロシアから濃縮ウランを輸入しています。
カザフスタンというのはロシアの影響力が強いところですけど、ロシア産を合わせると、4割の濃縮ウランはロシアとカザフスタンから輸入している。2021年にはアメリカの原発で燃料として使われた濃縮ウランの81%は外国で確保されている。米国内で確保された分は19%です。19%でいいじゃないかというけど、元のウランをそもそもどこから買ってるのと言うと、この濃縮ではない原材料のウランはロシアから買ってますよ。
ある原発関係者が言ったように、アメリカの原発は安いロシアの濃縮ウランに麻薬中毒のようになっている。
だから今年の3月8日に、バイデン政権がロシアからの化石燃料を輸入しません。天然ガスは買いません。そして石油も買いませんと言いましたが、その時、なんとウランの輸入はしませんとは一言も言わなかった。言えなかったんですね。
それはアメリカの原発業界が、バイデン政権にロビーングをして、ロシアからのウランの輸入がないと、アメリカの原発は実はやっていけないということをお願いしていました。
ですから、制裁リストから外されている。そのぐらいやっていることがでたらめ。ロシアと戦うと言うなら、ロシアからウランを輸入しなくていいように、国内でウラン鉱山を開発し、そして濃縮ウランを作る体制をつくっていない。行き当たりばったり出たとこ勝負みたいなことです。これはジョンソン政権もそう。
何と、オバマ政権の時代まで遡れば、以前にも申し上げましたが、ウラニウム・ワンという、カナダの国籍の会社ですが、間違いなくアメリカの国策会社です。アメリカ国家が株式も持っている会社を、なんとロシアに売り払ったのはオバマ政権であった。それを積極的に進めたのがヒラリー・クリントン国務長官だったと言う話のオチになります。ですから、ロシアからするとそっちを締め上げていくということです。
アメリカはウクライナを応援していて、結構な話ですが、じゃあもちろん石油を買わないのも天然ガスも買わないのも結構ですね。いや、ウランも売りませんよと締め上げていくと、頼りの原発はどうなるのかという状況に今追い込まれているわけです。
それから付随的に、これは実現するかどうかわかりませんが、エネルギー状況の厳しいこの冬に、ロシア軍が一挙に攻勢に出るという可能性もあると、軍事専門家の中で言っている人がいます。というのは、東部の方でロシア人地域を断固守るということで、ロシア軍は引きながらもそこを長々と、もちろん手放そうとしないわけですが、同時にクリミア半島はロシアが握っている。そこを拠点に、オデーサ港に一挙に攻勢をかけて、オデーサを占領するという可能性もあるということです。
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