赤峰和彦の 『 日本と国際社会の真相 』

すでに生起して戻ることのできない変化、重大な影響力をもつ変化でありながら一般には認識されていない変化について分析します。

②シリア新政権——アサド政権崩壊の真因と対米関係

2024-12-28 00:00:00 | 政治見解
②シリア新政権——アサド政権崩壊の真因と対米関係




昨日からの続きです。特別の許可を頂いて掲載しています。


アサド政権が崩壊した隠れた理由の一つに、違法薬物問題があったと言われています。

ここで言う「麻薬」とは、正確にはカプタゴンという覚醒剤のことです。このカプタゴンは非常に低コストで製造できる覚醒剤として知られています。

世界銀行の調査によると、カプタゴン取引の約80%はシリア産だとされています。そして、この薬物はサウジアラビアやUAE、ヨルダンといった周辺の中東諸国に広がり、深刻な汚染を引き起こしていました。

さらに、世界銀行の推計によると、カプタゴンの年間市場規模は56億ドルに上ると言われています。

これはあくまで推定値ですが、シリアの2023年のGDPが約62億ドルであることを考えると、カプタゴン取引の規模がいかに大きいかが分かります。

このカプタゴンの生産についてですが、製造や流通の元締めを行っていたのは、バシャール・アサド大統領の弟であるマーヘル・アサドだと言われています。


2011年からシリアは内戦状態に入り、経済や財政が非常に厳しくなりました。その苦しい状況の中、シリア政府はカプタゴンの生産を始め、周辺国へ輸出するというブラックビジネスに手を染めてしまったようです。シリアでは、この1年間で19億ドルもの利益を上げたのではないかと推定されています。

このカプタゴン問題が影響し、シリアはアラブ連盟に復帰したものの、周辺国からの評判は非常に悪い状態です。「早急にこの問題を解決してほしい」という声が上がっています。

例えば、シリアからヨルダンへのカプタゴン密輸が行われていることが問題視されています。ヨルダン政府は密輸品を運ぶ無人機(ドローン)を撃ち落とす対策を取ったり、ヨルダン軍がシリア国内にあるカプタゴンの製造拠点を爆撃することも過去にありました。

こうした迷惑行為が続く中、アサド政権の信用は失墜し、ロシアのプーチン大統領も「カプタゴンに依存するアサド政権は交代させるのもやむを得ない」という判断に至ったのではないかと考えられます。

さらに、カプタゴンの問題はHTS(ハヤート・タハリール・アル・シャーム)にも紐づいており、こちらの指導者であるジャウラニ氏についても言及されています。トルコがHTSの主な資金源とされており、イランもこの状況を「望ましくはないが、やむを得ない」と捉えているようです。このような力学の中で、新たなシリア政権が誕生したとも言えるでしょう。

ですから、その力学については理解しているのでしょう。トランプ氏は早い段階で「これは我々アメリカが関与すべき戦争ではない」と徹底して不干渉を貫き、「ここには関わってはいけない」と明確なメッセージを出しました。

関わってしまうと、先ほど申し上げたようにロシアがバックアップしている政権と対立し、米露戦争の危険性が高まるためです。そのためトランプ氏は、シリアには干渉すべきではないと主張しました。

実際に12月7日、アサド政権が崩壊すると決まった際、トランプ氏はそのメッセージを改めて発信しています。

一方、シリアの弱体化をチャンスと捉えたイスラエルのネタニヤフ政権は、12月8日ごろから爆撃を大々的に開始しました。これまでに450回もの爆撃が行われたと言われています。シリア国内の軍事基地や兵器庫などが標的となっており、イスラエルとしては、新たなシリア政権がその兵器を使って攻撃してくることを防ぐ狙いがあるようです。

アメリカは、IS(イスラム国)がシリアで再び勢力を拡大することを警戒し、シリア国内のIS拠点への空爆を実施しています。こうした状況が続く中、イスラエルとシリアの戦争が勃発する可能性も出てきています。

もしそうなれば、アメリカとロシアの対立がさらに深まり、第3次世界大戦という最悪のシナリオが現実味を帯びてしまいます。だからこそ、トランプ氏は「干渉するな」と強く主張しているのでしょう。

一方、バイデン政権は第3次世界大戦を招きかねないロシアとの対立を煽るような挑発的行動を、最後の最後まで続けているのが現状です。



イスラエルはすでにゴラン高原を占拠していますが、その先にあるシリア本土との間の非武装地帯に軍隊を進め、シリア軍の侵入を防ごうとする動きが見られます。この状況がシリア・イスラエル間の戦争を再び本格化させるのではないかと非常に心配です。

戦争を引き起こそうとする勢力も常に存在しているため、イスラエルも挑発に乗らないことが重要だと思います。

現在のシリアのジャウラニ政権は「宗教的に寛容な姿勢を取る」と表明しており、ヨーロッパやトルコからシリア難民が帰還する可能性が出てきました。これは非常に良いことです。


これまでヨーロッパは難民の流入が増え続け、その多くがシリアからの避難民でした。彼らがシリアに戻ることができれば、ヨーロッパとしても歓迎すべきことです。また、トルコも約300万人ものシリア難民を受け入れているため、彼らが帰還することになれば、大きな負担軽減につながります。

トルコもまた、シリア難民の帰還を条件にジャウラニ政権を支援していたのだと考えられます。

トランプ政権の始動は1月20日です。それまでに第三次世界大戦の危機が完全に去ったわけではないことも忘れてはなりません。

(了)
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