民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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「どくとるマンボウ青春記」 その9 北 杜夫

2016年06月26日 00時11分00秒 | 本の紹介(こんな本がある)
 「どくとるマンボウ青春記」 その9 P-60 北 杜夫  新潮文庫 (平成12年)

 旧制高校というところは、これまた複雑怪奇である。まず、その教師からして変わっている。
 たとえば学力優秀な先生もいた。その英語の教授は、
「わが国の英語界には三ザブロウというのがおる。一人は岡倉由三郎、一人は斎藤秀三郎・・・」
 そしてもう一人が、かく述べる御本人のケイザブロウなのであった。
 彼は母音三角形とかいって、「イー、エー、アー」などという発音を、丸一学期間やらせた。ところが、さように発音にうるさい先生に向かい、dangerousをダンゴラスなどと読む生徒がいるのが、また高等学校である。
 この先生が学生に好まれたのは、一体どこまで教えたかをみんな忘れてしまうからである。
「この前はどこまでやったか」
「10ページまでです」
 そこで先生は、11ページからを何回も何回もやるので、生徒たちは予習をしないで済んだ。