民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

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大学生の記章 (その4) 花森 安治

2016年10月20日 00時01分56秒 | 雑学知識
 「風俗時評」 花森 安治 中公文庫 2015年

 本書「風俗時評」におさめられた文章は1952年から翌年にかけて、同名のラジオ番組で、花森が語ったものである。

 大学生の記章 (その4) P-80

 世の中には、新制中学を出ただけで、働きに行かなければならないコドモが沢山います。そういうコドモに比べて、自分は高等学校に行っているのである、町工場に働いているのではないということ、何かその方がエライのだということ、それを服装の上で見せたいという気持ち、この気持ちを恐ろしいと思います。
 この気持ちを今のうちに摘んでしまわなければ、やがて10年経ち、20年経ち、30年経って、今の学生が社会の中心に立ったとき、日本はやはり同じことになりそうな気がします。この思い上がった気持ちというと御弊があるかもしれませんけれども、とにかく自分は人と違ったものである、違った階級に属するものであるという気持ちほど、今の日本に要らない、邪魔になる、一番困ったものはないと思います。自分は日本人の一人である。自分は人間の一人であるという気持ちが、今は一番大事なので、自分は学生であるとか、自分は金持ちであるとか、自分は組合の尖鋭分子であるとか、自分は政治家であるとか、自分は文化人あるというような気持ちは、実は要らないのではありませんか。少なくとも二の次でいいのではありませんか。ところが今申し上げたように、すでに少年たちの間でも、こういう気持ちの芽生えが強くなって来ているようです。これは、将来の日本のために、大変不幸な現象の一つだろうと思います。ばかげた特権意識を作るための制服は、これは制定すべきではないとボクは考えております。