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「啓磐禅師の不覚」 宇都宮の伝説

2013年12月02日 00時20分27秒 | 民話(笑い話・伝説)
 「啓磐禅師の不覚」 宇都宮の伝説 

 成高寺9世の啓磐(けいはん)禅師は 宇都宮城主の家臣である君島氏の子でしたが、
名僧として 多くの人々の信頼を受けていました。
禅師は 光明寺を開山する時に、その用材として 明神山の杉の木を伐採しました。
そこで 多くの人々は「明神様の怒りがあるのでは…。」と、言って、うわさしあいました。

 ある日、近くに住む 一人の老夫が、田を耕し 疲れがひどいので 田の畔のところで 
うたた寝をしていると、夢の中に 白衣をつけた社人一人が現われ、
「啓磐和尚は 神木を勝手に伐採しているので 神罰を下そうと思うが、
大変 学職の高い名僧なので、天帝に告げて 梵天王の許しを受けてから 処罰するつもりである。
そこで、今から 天まで使いに行くので 汝の白馬を貸して欲しい。」と、言って、
姿を消したので 急いで家に戻り 厩(うまや)を見ると、
白馬の姿はどこにも見当たりませんでした。

 翌朝、厩(うまや)に行ってみると、白馬が大汗をかいて 息づかいを荒くしていました。
この不思議な出来事を 啓磐禅師に告げると 老夫は気を失ってしまいました。
和尚は「こうなれば 仏の助けを借りる以外に道はない。」と、思って、
それから 昼夜を問わず 勤行に励みました。

 ある雨の日、茶の間で 茶を飲みながら お客さんと 話をしていると 
不覚にも うとうとと 寝入ってしまいました。
すると、その夢の中 装束した者が現われて、
「我は 梵天王の使いの 韋駄天である。汝 勝手に 二荒の神の木を伐り 不屈である。
汝の命を絶つようにと 勅命を受けて釆たが、
汝の身の内に 経文が満ちていて矢を射ることができなかった。今日こそ思い知れ。」と、言って、
一矢射ると その矢が足の甲に当たったところで、夢からさめました。
驚いて とび起き まわりを見回しましたが 誰もいません。
「ついに 心の中にすきをつくり、勤行を怠ってしまった。」と、言って、とても 残念がりました。
しかし そのまま 遷化(せんげ)することができたということです。

 遷化(せんげ)  高僧や隠者などが死ぬこと


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