民話 語り手と聞き手が紡ぎあげる世界

語り手のわたしと聞き手のあなたが
一緒の時間、空間を過ごす。まさに一期一会。

「昔話の家系伝承」 稲田浩二 

2012年08月22日 21時37分20秒 | 民話(語り)について
昔話の家系伝承 「昔話の時代」 稲田浩二 
 

家系伝承の場は炉端を原則とする。

語りの座に就く人は、夜業の手仕事(わら仕事、たばこのし、木綿吹き、など)をしていることが多い。

聞き手も眠り草に聞く幼年期を過ぎると、夜業の手伝いをしながら聞く。

 はじめ、語り手は一方的に語り手として、聞き手もまた一方的に聞き手として出発する。

語り手は幼な子に話のゆりかごを与え、やがて、単調な毎夜の作業を昔話の楽しみに乗せて手助けする。

聞き手は、気に入った話のくり返しを求める。

一夜のうちにも二度三度とせがみ、次の夜もせがみ、たっぷり納得するまでくり返して聞こうとする。

 昔話のあいづちは、単に形式的な応答ではない。

語り手の側からいえば、昔話は語りの呼吸、抑揚を心得た聞き手を得ないことには語りにならない、
いわば棒語りになってしまう。

これを聞き手の側からいえば、すでに心得た語りの抑揚に乗って、
一節ごとに承認の合図を送るのがあいづちである。

あいづちは語り手と聞き手とのかけあいを意味する。

聞き手は語り手の小さな語り違いや語り落としも聞き逃さず、すぐに抗議する。

聞き手はこうして、身を乗り出して語りの座に割り込んでくる。

 くり返し語りによって聞き手が身につけるものは、
昔話の部分的モチーフや大づかみなストーリーではなくて、総合された語りそのものである。

昔話そのものを修得するのである。

次代の管理者たるうぶ声は、この期に聞くことができる。

10歳前後になれば、この幼い昨日までの聞き手は、弟妹の守りをしながら昔話を語ってきかせるものである。
 


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