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「白洲次郎の生き方」 その1 馬場 啓一

2016年07月05日 00時29分54秒 | 生活信条
 「白洲次郎の生き方」 男の品格を学ぶ 馬場 啓一  講談社 1999年  装画 佐々木 悟郎 

 まえがき その1

 これは今世紀の初め、明治後期に生まれたひとりの日本人について書いた本である。
 白洲次郎。
 若くして英国ケンブリッジ大学に留学し、10年を彼の地で過ごす。日本を出たときはまだ10代の半ばを越えたばかりである。人間として未完成のまま、欧州に旅立った。今日いう帰国子女の一人だ。若き白洲が英国で会得した西欧の真髄を、どのように生かしたか、これが本書の主題である。

 当時の欧州は大戦争と呼ばれた第一次世界大戦が終結したばかりで、旧秩序と新たなる息吹がせめぎあいを見せていた。人間でいうならまだ首のすわらない状態の白洲は、新しい時代が音を立てて築き上げられる様を目のあたりにする。あわせて、当時の超大国である英国の特権階級と親交を深め、英国的なるものを自らの血肉とした。

 こうして、自動車にたとえるなら、シャ-シーは日本製、エンジンと車体、タイヤ、そして内装は英国製といった格好の日本人が出来上がる。白洲の半生は、この和洋折衷の自動車をいかにして日本の悪路で走らせるかの厳しいロードレースのようなものであった。当然犠牲を伴う。しかし、走り抜ける彼の姿に、人々は一種の品格をかぎ取ったのである。

 一般には、白洲次郎の名前は太平洋戦争直後の数年間の終戦連絡事務局次長という肩書きによって記憶されている。長い戦争で疲弊した日本を、どのようにして立ち直させるか。これが白洲に与えられた職責であった。だが本書はそのような戦後史に、新らしい解釈を加えるものではない。貴重な一部ではあっても、白洲個人の人生において戦後は一つの章でしかないからである。

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