リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

「9月入学」もいいが、拙速は避けよ

2020-05-01 | 一般
新型コロナウイルスの勢いが収まらず、休校が長期化する可能性が高い。ならいっそのこと、従来からたびたび論じられてきた「9月入学」にしたらどうだという声があがり、国会でも取り上げられ、首相も検討すると言っている(朝日新聞2020-4-30)。
9月入学なら諸外国と揃うので留学がしやすくなる(世界的には秋留学が主流だそうで、大学の国際化の助けにもなるかもしれない)、インフルエンザの時期の入試を避けられるといった利点がある。一方、記事は次のようなハードルを指摘する。
(1)義務教育を受け始める年齢を定める学校教育法や、会計年度を規定する地方自治体法などを改正する必要がある
(2)幼稚園や保育園を3月に卒業した子の受け皿をどうするか
(3)会社の採用時期は4月が一般的
(4)変更した年の4~8月分の学費をどうするか。大学が補償を国に求める可能性もある。
このうち(1)(2)(4)はいずれも変更した年だけの問題だ。準備不足のまま強行しようとした英語入試改革で「端境期」の人に我慢を求めて批判を浴びた文科相がいたが、拙速でなく、不都合が最小限になるようきちんとした制度設計をし、十分な周知期間を設ける、という前提であれば、切り替わりの年にある程度の不便を被る人が出るのはやむを得ないことだと思う。(3)については、以前から新卒一括採用の弊害が指摘されている。採用を4月にこだわる理由はないと思う。
「9月入学」を主張する人々の間ではコロナ禍で一斉休校が続いている今しかないとの声が高いが、「9月入学」としたところで9月に学校が再開できる保証はない。(夏で下火になったとしても、冬になってまた再流行というのでは困る。)上記(1)(2)(4)についてきちんとした議論・周知をするために、やるとしても2021年の9月からではないか。少なくとも、安倍首相の「やってる感」のために唐突に制度を変更して社会に混乱をもたらすのはやめてほしい。

追記:9月入学導入初年度の小学1年生の人数が1.5倍になるという指摘を読んだ(asahi.com)。たしかに4月から8月生まれの年長児も1年生になるとすればそういう計算になる。一方、学年のうちの半分(4月から8月生まれ)が次の学年になるという噂を聞いた。もしそうなら「1.5倍」は間違いだが、そうではないだろう。学年後半分の履修をしていないのに年齢的に次の学年にされるというのはありえない。「1.5倍」は、「4月から8月生まれの年長児も1年生になるから」というより、「9月から3月生まれが前学年に残留するから」と思ったほうがいい。いずれにせよ、人数1.5倍は教室や教員の配置という意味では対策のしようもあるのかもしれないが、入試や就職の倍率も1.5倍だとしたら問題だ。これは「端境期」で済むもんだいではない。9月入学を推進する人たちはどう考えているのだろう。

追記1B:上記の「9月から3月生まれが前学年に残留する」という方式は「後ろ倒し」というらしい(朝日新聞2020-5-12)。だがこのようにして9月入学に移行すると義務教育開始年齢が最も遅い子で7年5か月になり、諸外国より遅くなる。義務教育の開始が遅れるというのは日本の人材育成にとってマイナスが大きいのではないか。「9月入学」で外国と時期がそろうのはいいが、周回遅れになるというのは不安がある。追記3で紹介した「毎年少しずつ」が現実的ではないか。

追記1C:「後ろ倒し」について勘違いしていた。「9月から3月生まれが前学年に残留する」というのは間違っていないが、4月から8月生まれの年長児も小1にならないというものだ。要は、どの学年も4月2日生まれから翌年4月1日生まれまで、という学年の区切りは変えずに、学年の開始時期だけ9月に遅らせる、というもの。だから「小1が1.5倍」の心配はなくなるが、卒園後半年のブランクが生じることになる。義務教育開始年齢が後ろ倒しになるため、保育需要が26万6000人分新たに生じ、待機児童問題が悪化するという。(朝日新聞2020-5-17

追記D:9月入学になった年には年長を経験せずに入学する子も出てくるから反対という声を読んだ(朝日新聞2020-5-18)。「前倒し」とでもいうのだろうか。だが上記で「学年後半分の履修をしていないのに年齢的に次の学年にされるというのはありえない」と書いたように、さすがにこれは推進派でも考えていないのではないか。

追記E:コロナ禍の前に政府で議論されていた9月入学は入学時期を7か月早めて9月にする「前倒し」だった(朝日新聞2020-5-19)。おそらく段階的に7か月早めるというものなのだろう。長年の議論で決着がつかなかったのはたしかだが、やはりコロナ禍の前の議論はふまえて9月入学のメリット、デメリットを検討するべきだ。今年1年のために「後ろ倒し」を選ぶのは永続的な禍根を残すように思えてならない。

追記2:入試を夏にすればインフルエンザを避けられるという点について、夏だと近年大型化している台風シーズンに重なるという指摘もある。だが、これについては、台風なら多くの人が影響を受けられるから救済措置があるだろう(措置を行なう側は大変だろうが)という反論もありうる。インフルエンザだと完全に個人の問題なので救いようがない。

追記3:9月入学について前川善平氏、藤川大祐氏の談話(朝日新聞2020-5-10)を読んだ。前川氏は慎重派、藤川氏は積極派と思われるが、両氏とも9月入学の意義はあるが拙速は禁物という点では共通しているように思う。
慎重派の前川氏の懸念は私とほぼ同じだが、もちろん9月入学の利点は認識しており、「入学時期を毎年少しずつずらし、5~10年計画で9月入学まで持っていけば、子どもに大きな影響を与えずにすむかもしれない」としている。
9月入学を「利点が大きい」とする藤川氏だが、想定しているのは「来年9月から実施」であって、今年9月からいきなりということではない。※さらに追記:政府で導入を考えている人も早くても「来年度」からと考えているようだ。それだと夏までに結論を出して秋以降の国会で法案を通すという日程になる。(朝日新聞2020-5-12)私は「9月入学」を主張する人はてっきり今年の9月からやろうとしているのだと思って危惧していたが、世間で「9月入学」を主張している人たちはこのことはちゃんとわかっているのだろうか。

追記4:結局、コロナ休校を機に盛り上がった「9月入学」の機運は急速にしぼんだ。「休校の遅れを取り戻す期間」に引かれて飛びついた人が多かったが、実情がわかると期待がしぼんだということのようだ。秋入学についての従来の議論を知っている文科相の複数の幹部は9月入学の議論を一貫して冷めた目で見ていたという(朝日新聞2020-6-3)。やはり最大のネックは、従来検討していたのが入学時期の「7か月前倒し」だったのに対し、最近注目されたのが「後ろ倒し」だったことだろう。やはり一時の休校の埋め合わせのために、義務教育開始年齢を恒久的に遅らせるというのは問題が大きい。



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