リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

善意の世論が専制を招く:SNS発信者開示

2020-06-27 | 政治
自民党は個人の自由よりも「お国のため」を重んじる方向の憲法草案を目指しており、安倍首相はこのところ「多数決」にも言及している(KYODO 2020-6-20asahi.com 2020-6-21)。これまでの安倍政権のやりようを見ていると、数の力で改憲を強行することが危惧される。だが国民の自由を奪うのはそうした右派勢力だけではない。善意の世論に応じた制度改正が、国民を縛る結果になってしまうこともある。SNSの投稿者の開示を求めやすくする案を総務省が提案したのだが、有識者会議では表現の自由が制限される懸念から、慎重論が相次いだ(朝日新聞2020-6-26)。
たしかに今のSNSは、「脊髄反射」ともいわれる暴言にあふれていて見るに堪えない(過去ブログ)。最近では、恋愛リアリティー番組「テラスハウス」に出演時の言動がきっかけでSNSで中傷されていたプロレスラーの木村花さん(22)の死をきっかけに、SNSの投稿者の特定をしやすくしようという世論が盛り上がっており、今回の総務省の提案はその流れの中でのものだ。
だが、投稿者の特定がしやすくなると、逆にそれは権力によって乱用されかねない。現に、安倍首相の不都合な事実を公表しようとする事務次官に対する権力による個人攻撃があった(過去ブログ)。政府を批判する投稿者に対してどんな圧力がかけられるかわかったものではない。
問題は政治的なものに限られない。現状でも、消費者被害を起こした会社が被害を訴える投稿者を特定しようとする動きがある。違法行為をネットで指摘されたある会社は、裁判で発信者を開示させたのだが、実際に違法行為を行なっていたことが判明したことさえあった。消費者被害や違法行為までいかなくても、単に悪い口コミを書いただけでも、発信者の特定にかなりのお金をかける企業もあるという。こういう現状でさらに発信者開示の手続きを簡単にすれば、SNSで何かを批判することがそもそもやりづらくなってしまう。
SNSでの行き過ぎたバッシングは私も問題だと思っており、対処は必要だが、ネット上で自由に発言することすらできなくなる息苦しい社会にしないよう、開示要件の緩和には十分慎重に検討してもらいたい。そして世論も、SNS対策という一面のみではなく、表現の自由の制限という裏の面も考えるべきだ。

追記:憲法学者の志田陽子氏は、誹謗中傷への対策として情報開示のハードルを下げるにしても「政治家などの公人が開示を求めた際には断るルールが必要」と提言している(朝日新聞2020-7-1)。権力者や企業が無名の一般人を使って開示を請求することも防がなければならないから、開示請求において「誹謗中傷」されていると主張されている人・企業との関連も考慮するなど、こまかな制度設計は必要だが、方向性としては正しいと思う。権力者が「言論の自由」をかさに市民の言論活動を縛ろうとする事例が多く(過去ブログ)、「言論の自由」は権力者のためにあるものではないことの再確認が必要だ。


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