リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

中継は著作権? スポーツと将棋の場合

2017-06-25 | 一般
朝日杯の将棋の棋譜を中継していたユーチューバーに朝日新聞社が中止を求め,動画が削除されたことがネットで話題になっているという(https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170622-00006263-bengocom-soci).以前,スポーツの試合には著作権は及ばないはずなのに巨額の放映権料がやりとりされるのはなぜだろうと考えたことがあるので,この機にまとめてみたい.

まず,テレビなどでスポーツを中継した映像はたいていの場合著作権の対象となる.一方,試合をしている選手たちには俳優・舞踊家・演奏家のような権利はないので,観客が試合を自分で撮影して中継する行為は著作権法では防げない.ただし,フィギュアスケートは競技であって保護されないが,曲芸,手品,アイススケートショーなどは保護対象となる(http://copyright.watson.jp/neighboring01.shtml)など,線引きは難しい.
スポーツそのものが著作権法の保護対象ではないにもかかわらず巨額の放映権料を払った放送局しか中継できないのは,会場の施設管理権と,選手の肖像権が根拠だとする考えがあるそうだ.詳しくは,國安耕太「スポーツ中継映像にまつわる著作権法の規律と放送権」(https://system.jpaa.or.jp/patents_files_old/201404/jpaapatent201404_077-088.pdf)を参照.

今回の場合は将棋を指している会場で撮影した映像を中継したわけではなく,公式の中継を見ながら将棋ソフトでその盤面を再現したものを中継していたらしい(http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1706/22/news113.html).だとするとスポーツ中継のような施設管理権や肖像権の考えは使えない.
棋譜そのものが著作物として保護されるかどうかについては,囲碁の日本棋院など著作物と明言する立場もある(http://www.nihonkiin.or.jp/sitepolicy/link.html)ものの,はっきりしないようだ(http://d.hatena.ne.jp/mozuyama/20120226/NICO2).
野球で1回の表,1球目ボール,2球目ストライク,3球目1塁打…などと事実の経過だけを追ったものは著作物としては保護されない.棋譜もそのようなものだとする考えもある.だが「1塁打」というだけではすくいきれない状況が試合観戦の醍醐味の大きな部分を占める野球と違って,将棋や囲碁では「棋譜がすべて」ともいえる.(指し手の表情や時間の使い方などの状況まで含めて鑑賞することがあることは承知しているが,今の本筋ではない.)つまり,将棋や囲碁の場合,再現した棋譜の中継であっても,コンテンツとしては公式の中継と同等になりうるという点がスポーツとは決定的に異なっている.

結局,棋譜の場合,再現したものか現場からのものかに関わりなく,「中継する」という行為を勝手に行なうことが許されるかどうかということになる.その答えは上記國安論文にあると思う.それによれば(p.84),著作権法以外にも中継を差し止める根拠となりうることがある.
・まず,民法709条に,権利とまではいえなくても「法律上保護される利益」に関する規定があり,ビジネス上放送権というものがあることを知りながら勝手に中継すると一種の債権侵害として不法行為責任が発生するという考えがあるそうだ.
・また,著作権侵害とはならなくても,勝手にコピーしたデータを使うことは自由競争の範囲を逸脱したものと認められる場合には不法行為が成立するとした裁判例もあるという.

庶民感覚としては「中継」は便乗商法のようで疑問を感じる.(今回の事例は知らないが,昨今,ユーチューバーは「非営利」とは言い切れないと思う.)過去の棋譜の複製となると棋譜が著作物かどうかということから考え直さなければならなくなってくるが,「中継」だとかなり濃いグレーのように思うがどうだろうか.
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