リベラルくずれの繰り言

時事問題について日ごろ感じているモヤモヤを投稿していこうと思います.

IOCがオリンピックの赤字を負担しなければ札幌五輪は願い下げだ

2021-04-25 | 一般
東京オリンピック開催の3か月前になって日本は三度目の緊急事態宣言を発する状況になっており、海外では選手派遣を見合わせる決定も出始めている(朝日新聞2021-4-24)。私は東京オリンピックは無観客でさっさとすませるべきだと思っているが(過去ブログ)、事ここに至って、少なくとも「無観客」か「中止」の二択以外の選択肢はないと思う。
いずれにせよ判断の分かれ目になるのは「金」だ。(「頑張ってきたアスリートのため」などというきれいごとはやめてほしい。どう見ても関係者がいちばん気にしているのは経済効果なり損失なりの金であり、アスリート自身だってコロナでみんなが何もかも我慢している状況が解消されないことにはやりにくいだろう。)
そして、金を考えたとき、IOCと日本の組織委との間には利益相反の関係がある。
IOCにとっての収入源はテレビ放映権料なので、無観客でも開催すれば儲けられる。中止となればこれがゼロになる。
一方、日本の組織委にとっては無観客でも、900億円と皮算用していたチケット収入がゼロになる(朝日新聞2021-4-24)。
中止の場合、IOCは保険にはいっているから(過去ブログ)、儲けはパーになるとしても損害はないはずだ(もしかして収入補填保険まではいっている?)。また、中止の場合の経済損失を云々する報道からすると日本の組織委は保険にははいっていないのだろうが、中止の場合の「損失何兆円」とかいう話は、当てにしていた経済効果が得られないという話だそうだ(過去ブログ)。もともと「アスリートのため」などと言いながら金もうけを当て込んでいるのが悪いのであって、私はこれは「損失」とは思わない。また、中止になると、「これまでつぎ込んできた費用が無駄になる」というが、これはギャンブルや投資で損切りができずに損失をふくらませる輩の常套文句だ。一定の損を覚悟で中止を本気で考えるべきだ。

現段階では私は無観客でのオリンピック開催は完全に否定するつもりはない。だがこれまでの政府のやり方を見ていると、何が何でも開催という立場で、医療従事者への負担や感染収束の科学的見通しに基づく議論をしていないことが気になる。今回の緊急事態宣言にしても、解除の目安を設定せずに期限を切っており、IOCのトーマス・バッハ会長の来日に合わせて解除しようという魂胆ではないかとの観測が出ている。それはともかく、感染が小康状態にあって規制をゆるめた段階で開催を決定し、その後感染が急拡大した場合、どたん場で中止といった事態になれば混乱の大きさははかりしれない。ワクチン普及も(政府はいろいろ言っているが)オリンピックまでに国民にいきわたるのは絶望的だと思う。無観客なら市中で感染が広がっていても、来日選手は隔離されているから大丈夫、という立場なのだろうか。開催決定後の感染拡大の可能性について、どう考えているのだろう。

前置き(?)が長くなったが、オリンピックで赤字が出た場合、赤字を補填するのは東京都や日本国政府とされている。さすがに開催の1年延期の一部費用や選手のワクチン接種の費用はIOCが負担すると報道されていたと思うが、無観客で開催した場合、IOCは巨額の放映権料を得るが、組織委は赤字ということになるのだろうか。――――――――とここまで書いてから検索したところ、2008年の北京五輪の例だが、放映権料のうち49%は開催都市に払われるという(中華人民共和国駐大坂総領事館)。そもそも「競技によって発生する無形の財産権を開催都市にライセンスし、金の流れを仕切るだけ」のIOCが利益の大きな部分をもっていくことに批判もあるが、巨額の放映権料の半分程度を与えられた上でそれでも赤字であれば開催都市・開催国で何とかするというのならわからないでもない。だが同サイトによれば開催都市契約の「13 OCOG および NOC に提供される利益と権利大会」の部分が「チケット・放映権等の収入分配(レベニューシェア)権」に関わるものだそうだが、契約の文面には開催国のシェアの割合が記載されていない。放映権料の分け前について、報道をみかけないが、どうなっているのだろう。私もちょっとネット検索しただけで本気で調べてはいないのだが、このあたりメディアの追及が不足しているのではないか。

無観客にしても中止にしても実際に損失が出てしまった場合、契約上、開催都市・開催国が負担するとされているならそれを覆すのは難しいだろう。「オリンピックの経済効果」に目がくらんで不利な契約を結ばされた関係者は批判されるべきだが、契約は契約だ。だが、それならまだ契約も立候補もしていない札幌五輪は願い下げだ。札幌市は昨年9月に、2026年冬季五輪の招致を決めたそうだが(札幌市)、こんな不平等な契約を突き付けてくるIOCを相手にするべきではない。札幌五輪は断固拒否するべきだ。

追記:東京オリンピックを開催するのか、観客はどうするのか。昨年段階では10月には判断する必要があるとされていたのだが(読売新聞2020-5-22)、その後「3月以降」(NHK 2021-7-1)となって、「ずいぶんぎりぎりだな」と思った。それがいつのまにか「4月中に基本方針を出す」となっていたのに、このたびさらに観客数の結論を6月に先送りすることになった(朝日新聞2021-4-29)。4月に「50%の観客」という結論を出すつもりだったが、変異株が広がったため「世論の理解が得られない」として見送られたのだという。
もともと3月なり4月なりに決めると言っていたのは、その時までに収束していれば開催、感染が続いていれば中止(または無観客)という結論を出すということではなかったのか。「感染が広がっているから先送り」というのは、都合のいい状況になったタイミングを見て強行を決定するという「結論ありき」ではないか。
観客数が決まらなければ医療従事者のボランティアの計画も立てられまい。本当に6月の結論で間に合うのだろうか。医療従事者がボランティア拒否の声を上げるべき時期ではないか。

追記2:放映権料のうち組織委の取り分はどのくらいだろうと思っていたが、IOCは収入(たとえば米NBCから当時のレートで7780億円)の約7割が放映権料で、支出の約9割は「アスリート育成や世界各国の五輪委員会や競技団体への分配」に使っているという(朝日新聞2021-5-11)。収入と支出の比率が記載されていないから、たとえば収入の2割が利益とされてためこまれて、支出に回される残り8割のうちの「9割」が分配される、という読みもできるのだが、さすがにそのくらいのことはどこかに公表されて明朗にやっているのだろうと信じたい。このあたりのことを新聞でも報道してほしい。
驚いたことに、放映権料はすでに支払われているようだ。中止になったら「放映権料がはいらない」ということではなく、「放映権料を払い戻す」という流れになるようだ。また、IOCは組織委に850億円の拠出金を払っているが、中止の場合は拠出金をIOCに払い戻す契約になっているという。中止の場合、無駄になった費用は一切組織委でかぶれ、ということらしい。
これなら中止になってもIOCはそもそも損害が発生しないはず。IOCがはいっているという中止の場合の保険というのは何なのだろう。まさか本当に収入補填保険にはいっているのか?無観客でも開催したがっているようなのでそれはないと思うのだが。
世の中、オリンピック中止を求める声が高まっているが、本当に医療従事者に過重な負担をかけずに開催できるというのであれば、私は無観客での開催は否定しない。だがそれにしても、中止の是非を判断するための情報が十分に公開されていないように思われる。

追記3:朝日新聞などメディアが、「開催ありき」の姿勢などを批判しながらも、オリンピックに対する賛否を明確にしていないとの批判を読んだ(朝日新聞2021-5-14)。だが私も医療従事者への過度な負担を強いずにできるのであれば無観客での開催は否定しないと書いたばかりだ。各方面でオリンピックに向けて頑張っている人がいる以上、開催反対とまでは断言したくない。
開催そのものを否定するのではなく、開催のための前提条件(医療従事者に過度な負担をさせないこと、感染拡大を防止できると納得できる対策を講じること)を提言する(つまり、それをクリアできないのであれば開催すべきでないという主張)は至極まっとうではないか。


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