遊びをせんとや

人生総決算!のつもりで過去・現在のことなどを書きます
といっても肩肘はらずに 楽しく面白く書きたいと思います

作品モデルと舞台を訪ねる~夏目漱石「草枕」#4

2024年04月22日 | 人物

 鏡が池

昨日と同様 地名・人名と欠かせないモチーフに絞って10章以後を進める

10章
・・・観海寺の裏道の杉の間から谷へ降りて鏡が池へ行く 
池の淵は熊笹が多く 不規則な形をしている・・・

観海寺の名は漱石の創作 モデルは昭天寺か?(特定は出来ていない模様)

「昭天寺のおよその場所」

「昭天寺」

・・・画家は 絵の道具を置き 池の淵へと降りてゆく
池の端の椿が血を塗った人魂のように ぽたりぽたりと際限なく落ちる
こんな所へ美しい女が浮いているところを描いたらどうだろう・・・

・・・那美さんの顔を借りるとしてもあの表情では駄目だ 苦痛が勝ちすぎる
といって気楽では困る ほかの顔ではどうか・・・

 「那美」~前田卓(ツナ)


・・・やはり那美さんの顔が一番似合う しかし何処か物足らない
嫉妬を加えたら? 憎悪では? 怒り? 恨み?
色々考えた末に 数ある情緒のうちで 憐れと云う字を忘れていた   
憐れは神の知らぬ情で しかも神にもっとも近い人間の情である

・・・那美さんの表情にはこの憐れの念が少しもあらわれていない
そこが物足らないのである・・・

・・・馬子の源さんが現れたので 池がいつ頃からあったのか訊く
何代も昔 志保田の嬢様が禅寺の僧を恋し 願いかなわず池に身を投げた
その時 鏡を持って死んだので 鏡が池と呼ぶようになった
以来 志保田の家には代々気違いが出るという
今の嬢様も少し変だという噂 去年亡くなったお袋様も変だった・・・

ミレー「オフィーリア」


・・・源さんが去り 今日は下絵くらい描こうと 画家は腰を据える
水面から視線を上げてゆき 眼前の風景を視野に収めようとする
その刹那 晩春の彩りの中 夕日を背に岩の上に立つ女の顔を見た
何度か驚かされた顔 と思う間もなく 女は岩の向こうに身を翻した
夕日は樹梢を掠めて幽かに松の幹を染める 熊笹はいよいよ青い
 また驚かされた・・・

要約しているつもりが ついつい引用が長くなってしまう
というのは最終13章で 那美さんの絵が(画家の頭の中で)突如完成する
そのキーワードが"憐れ"・・・その伏線がこの10章に仕込まれていた
今ようやく私はそのことに気がついた

というわけで今日は10章だけで終ってしまった
それでは明日またお会いしましょう
[Rosey]