舞台イコール。2015年に山口賢貴さん、牧田哲也さんの出演で拝見したお芝居です。
その時の記事はこちらから。
二人芝居「Equal-イコール-」。 - leka
なんと、そのお芝居が朗読スタイルにて上演中です。
舞台・真田十勇士で再演の公演中にケガをしてしまった猿飛佐助役の柳下大さん。その日の観客への最期の挨拶では、筧十蔵役の三津谷亮さんが目に涙を一杯ためて立っていたそうです。彼らは演劇を主にした同じ俳優グループに属していて、仲も良かったと思います。
真田に出た若い役者さん達の事はずっと気になっていて、彼らの出演するお芝居は観たいと思っていたのだけど、何せチケット代と言うのは安くない。そんなにしょっちゅう観には行けない。
そんな風に思ってるうち、年月は過ぎてしまいました。
ついこの間の柳下大さんの引退発表。
共演していた三津谷さんはどうしているだろう、と思い彼のtwitterを見てみるとイコールに出演と言う情報が。
「イコールとは、あのイコール?」
半信半疑で公式をへ行ってみると、”あの”イコールでした。何だか色んな事が心の中で交差しました。
この朗読スタイルのイコールは16人の俳優たちが2人1組になって日替わりで演じるお芝居です。
三津谷さんは鈴木勝大さんと言う役者さんと組んで、初日は2日後にせまっていました。
柳下さんの事などもあり、何となく自分の中で行かねば、みたいな感情が湧いてきて痛い出費にはなるけれど三津谷さん、鈴木さんの初日のチケットを購入しました。
会場は青山にある劇場でした。
岡本太郎作・子どもの樹
子供の城のあった場所は青山円形劇場、「クロードと一緒に」の初演が行われた劇場跡地です。もう、今はありません。こどもの城のあった場所も白い囲いの様な物があって、新たに何か建築されている様子もありません。
懐かしい様な、切ない様な気持ちになりました。「イコール」の会場はここからそう遠く離れてはいませんでした。
会場に入る時はマスクを装着し、消毒液のしみこまされたマットの上を歩いて入りました。
チケットは電子チケットのみ。スマートフォンに提示したチケット画面にスタッフの方が機械をつけると、「thank you!」と書かれたマークが出現。驚きです。スタッフの方はフェイスシールドを着用されていました。
座席は一つ置きです。舞台には小さな椅子とテーブルが左右にあり、真ん中に椅子が一つ。そのどれもが古い調度品の様なおもむき。床には多くの厚くて古い感じの本が無造作に置かれていました。
観客は皆マスクをして、静かに開演を待ちました。
開演時間になり、三津谷さんと鈴木さんが手にファイルの様な物を持って舞台に現れました。
左右に置かれた椅子にそれぞれ座ります。片方の椅子には、白衣がかかっていました。
白衣がかかっている椅子に座る方が医師の青年テオ。かかっていない椅子には肺を患う青年二コラ。
こうして彼らは向き合い、朗読劇が始まりました。
このお芝居では七日間が描かれます。そして日が替わるとテオを演じていた方が今度は二コラを、二コラを演じていた方がテオを演じます。日が替わる度に、これが繰り返されます。迷路に迷い込むような物語なのです。
何故、二人が入れ替わるのかは観客共に迷路へ迷い込みながら段々と判明していきます。
演じる二人はただ読むのではなく、少し動きを交えて演じていました。
ストーリーが独特で最初は訳が分からないので、観客は二人の会話に集中して耳を傾けます。
そんな時に、三津谷さんが台詞を噛んでしまいました。
それからなぜか何度も噛んでしまい、それは日が替わって演ずる役が交代しても続きました。
あまりにも噛むので、アタシは「稽古を観ているようだ。」と思ってしまいました。
そう思った瞬間、アタシの集中が切れてしまい、演者と共に物語を追う事をやめてしまいました。
気持ちが冷めてしまった。
危うく不安定な感覚がぬぐえないままお芝居は終わり、カーテンコールがありました。
三津谷さんの口が何度も「ごめんなさい」と動きました。
彼が一番悔しいのは分かっています。
直前まで違う舞台に立っていたようだし、準備期間が短かったのかもしれないし、もしかしたら何か心の動揺があったのかもしれません。
でも、アタシの様にその日、その時間しか来場出来ない観客がいるのです。
次、取り戻します、は通用しません。
「カーテンコールを貰える程の演技は出来なかった」と本人が分かっているからこそ「ごめんなさい」と繰り返す三津谷さんの姿を、やるせない気持ちで見ていました。
「三津谷亮はこんなもんじゃない。」
そんな強い気持ちがアタシにはあったからです。
三津谷さんのお芝居をずっと観て来た訳ではありません。でも、彼のしなやかさと神秘性と、ここぞと言う時は芯の強いお芝居が出来る所が好きなんです。
このお芝居では二コラ役を演じる方が、ある告白をテオにする時があります。
それは恐ろしくて、到底想像も出来ない事実です。
三津谷さんはその時に涙を流してその告白をしました。
ハラハラと流れる涙はテオから顔を背け、観客の方に顔が向いてる時も溢れ続けて、哀しみと恐怖と狂気の入り混じった感情の表現であるのに、あくまでどこまでも美しかったのです。
そんな風に観ているこちらがハッとする様なお芝居が出来る俳優さんはそう居ないし、宝物なんです。
このお芝居の帰り道すっかり涼しくなった夜風にふかれながら思った事はやはり「三津谷亮はこんなもんじゃない。」と言う事。
この人の本気はきっと計り知れない。
だからあたしは少し残念で悔しい思いで帰りました。
でも、こんな夜もあっていいかなと思うのです。
こんな夜があってこそ、心も体もうち震える程の素晴らしい瞬間がやって来るんです。
きっと。必ず。
相手役の鈴木勝大さんが包容力のある俳優さんで、どうしてだか不安定に揺れがちなこの日の三津谷さんを頼りがいのあるお芝居で包んでくれていました。
しっかりと。とても素敵だなと思いました。
なのでこの二人のコンビは相当いいと思います。
この舞台においてアタシに次の回は無いけれど、後の公演は凄くいい感じになると予感します。
「もう一度はじめから。」
そう思ってくれていたらと祈っています。
イコール公式
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