金色の髪をした静かな雰囲気を持つ稲葉さんの演じるイーブは、自分の事を赤裸々に告白しながら観ているのが苦しくなる程に壊れてゆきました。
前日に相馬さん演ずるイーブの演技を観ていたため、もっと歳の若い稲葉イーブが衝撃的な数々の台詞を口にする事がアタシには信じられませんでした。
でも、彼はやったんです。
痛みと人の体温と絶望と愛しさに打ちのめされながら、イーブと言う青年がほんの一瞬垣間見た温かな「光」を全身で観客に伝えました。
物静かな印象であるがゆえ、感情がたかぶった時の壊れ方が凄かった。
それまでの声とは全然違う、まるで音割れを起こしている様な凄まじい声が稲葉さんから発せられました。
あんな男の子の声をアタシは聞いたことがなかった。
傷だらけの声だった。
紅潮し震えながら話すイーブの姿を、刑事も速記係も黙って見ていました。
伊達さん演じる刑事は、イーブが移動しながら話す時も彼の姿を目で追い、片時も目を離しません。自分のそばに来た時もじっとイーブの目を見据えていました。
速記係のギィは、イーブの話す真実や彼の壊れゆく姿に心を乱されているようでした。
お芝居の一番最初、稲葉さんは立ち姿で観客の前に現れました。
アタシはその姿を観た時、瞬時に彼の立つ広場の背景や、通り行く車の音や、人々の話す声などがまざまざと聞こえ、見えて来る様な感覚を覚えました。
圧倒的な説得力を以ってアタシ達観客の前に現れた稲葉イーブは、その美しい姿のままこの物語の奈落へと落ちてゆきます。
何故、自分が愛している人を殺したのか。
イーブは一人ぼっちでした。
心から何でも話せる友達もいなかったし、両親はもうこの世にいない。お姉さんもイーブを愛しているとは言えません。
クロードと言う人に出会って愛されて、生まれて初めて満たされた気持ちと言う物を経験し、幸福を感じたのかもしれません。
イーブの告白の中で「言葉にしてしまうと陳腐になる」と言う台詞が出て来るのですが、イーブは彼のやり方で数々の夜を生き抜いて来たわけだし、世間的には後ろ指を指される仕事でも、そこにはルールもセンスの良し悪しもあった筈です。
「誰にでも出来るわけじゃない、才能なんだ!」
プロの男娼として夜を渡って来たイーブの物語は、伝えたくとも表現する言葉が見当たらない。
そんな物を背負った自分が、このまま好きな人に愛されて幸せに暮らせるのだろうか。
結果イーブは最愛の人を手にかけてしまいましたが、彼は「ママは一人で死んでしまったけど、クロードの最期には自分がそばに居てあげられた。」と告げます。
そして体中にキスしたんだ、と。
憎くて殺したんじゃない。
クロードは最期までイーブに愛されていました。
殺人は重い罪であり、法により罰せられます。
イーブの自白は聞く者達の心に衝撃的に響きますが、彼は罪をおかしました。
擁護の声はあがりません。
しかし暗がりに居る観客達は、速記係のギィのようにイーブを救いたいと心から願いました。
つづく。
前日に相馬さん演ずるイーブの演技を観ていたため、もっと歳の若い稲葉イーブが衝撃的な数々の台詞を口にする事がアタシには信じられませんでした。
でも、彼はやったんです。
痛みと人の体温と絶望と愛しさに打ちのめされながら、イーブと言う青年がほんの一瞬垣間見た温かな「光」を全身で観客に伝えました。
物静かな印象であるがゆえ、感情がたかぶった時の壊れ方が凄かった。
それまでの声とは全然違う、まるで音割れを起こしている様な凄まじい声が稲葉さんから発せられました。
あんな男の子の声をアタシは聞いたことがなかった。
傷だらけの声だった。
紅潮し震えながら話すイーブの姿を、刑事も速記係も黙って見ていました。
伊達さん演じる刑事は、イーブが移動しながら話す時も彼の姿を目で追い、片時も目を離しません。自分のそばに来た時もじっとイーブの目を見据えていました。
速記係のギィは、イーブの話す真実や彼の壊れゆく姿に心を乱されているようでした。
お芝居の一番最初、稲葉さんは立ち姿で観客の前に現れました。
アタシはその姿を観た時、瞬時に彼の立つ広場の背景や、通り行く車の音や、人々の話す声などがまざまざと聞こえ、見えて来る様な感覚を覚えました。
圧倒的な説得力を以ってアタシ達観客の前に現れた稲葉イーブは、その美しい姿のままこの物語の奈落へと落ちてゆきます。
何故、自分が愛している人を殺したのか。
イーブは一人ぼっちでした。
心から何でも話せる友達もいなかったし、両親はもうこの世にいない。お姉さんもイーブを愛しているとは言えません。
クロードと言う人に出会って愛されて、生まれて初めて満たされた気持ちと言う物を経験し、幸福を感じたのかもしれません。
イーブの告白の中で「言葉にしてしまうと陳腐になる」と言う台詞が出て来るのですが、イーブは彼のやり方で数々の夜を生き抜いて来たわけだし、世間的には後ろ指を指される仕事でも、そこにはルールもセンスの良し悪しもあった筈です。
「誰にでも出来るわけじゃない、才能なんだ!」
プロの男娼として夜を渡って来たイーブの物語は、伝えたくとも表現する言葉が見当たらない。
そんな物を背負った自分が、このまま好きな人に愛されて幸せに暮らせるのだろうか。
結果イーブは最愛の人を手にかけてしまいましたが、彼は「ママは一人で死んでしまったけど、クロードの最期には自分がそばに居てあげられた。」と告げます。
そして体中にキスしたんだ、と。
憎くて殺したんじゃない。
クロードは最期までイーブに愛されていました。
殺人は重い罪であり、法により罰せられます。
イーブの自白は聞く者達の心に衝撃的に響きますが、彼は罪をおかしました。
擁護の声はあがりません。
しかし暗がりに居る観客達は、速記係のギィのようにイーブを救いたいと心から願いました。
つづく。