「クロード」と言う男性を殺した「イーブ」と言う青年の独白には、グロテスクと美しさが共存していました。
ラスト30分間に及ぶこの独白がスタートするのと同時に、何かのスィッチが入った様に彼は話し始めました。
生々しい言葉たちは”イーブ”の元から発せられ、生きて再び”イーブ”に襲い掛かります。
街角に立つイーブの様な男娼を夜ごと金で買い、暴力的なSEXを要求して来る男達。
まるで社会の中での不満をぶつける様に、彼らの体を乱暴に奪う。
事が済むと「出て行け!」「うせろ、クズ!」と男娼達の脱いだ服や靴を投げつけ彼らを罵倒する。
そして、男を金で買う男達は、そ知らぬ顔をして家族の元に帰ってゆく。
「そんな事をお前の父親が、お前の旦那が、しゅっ中してるなんて知らなかっただろ?」
イーブの瞳がそう言っているようで彼を直視できない感覚に襲われました。
目を見開き、大きな身振り手振りで頬を紅潮させながら、イーブは自分の体が受け入れて来た事を赤裸々に告白します。
そのあまりの迫力にのまれ、観客席の女の子達は硬直していました。
相馬圭祐さんは若い俳優さんであり、若いファンの方々がいらっしゃるのでこれはかなりの衝撃であったに違いありません。
また、公演の行われた青山円形劇場は小さな劇場で最後列でも6列目なので、その臨場感は相当です。
この時の相馬さんの体全体から発せられるオーラは凄かったです。
忌まわしい数々の夜を無かった事になど出来ない事、そこには確実に自分が居た事、”イーブ”と言う青年は逃げずに全部を認めていました。
それが世間的にどう思われるかなどは関係なく、そこには完全に己があって生きていた事を泣き叫ぶように訴える姿に心が震えました。
逃げずにいる記憶の中に在って、どこかでSOSを発信している様な弱さを感じ、イーブと言う青年を痛みから守ってあげたいと思いました。
そんなイーブが、クロードとの話になるとうっとりと夢を見ている様な目で話すのがとても印象的でした。
クロードは誰かとルームシェアをしていたようですが、ある日彼はその相手を追い出したのです。
それはクロードがイーブとの時間を過ごすためにしたこと。
イーブはこの事を本当に嬉しそうに話しました。
”あの人が僕のためだけににしてくれたこと。”
イーブが”仕事”を終えて、クロードの居る部屋を訪れるのが見えて来るようでした。
「あの人は僕の胸の上に本を置いて、ページを開いた。」
仲むつまじくベッドの上に寝転び、クロードがイーブに本を読んで聞かせる姿を観客は容易に想像出来ました。
あの日の夜、いつもより少しお金を持っていたイーブはクロードと食事をしようとしていました。
「レストランでも良かった。」
でもやっぱり、クロードの部屋を訪れた。
食事を用意し、テーブルをセットし、キャンドルも。
クロードの友達から出かけに誘う電話がかかって来ましたが、彼は「大事な用があるから。」と言ってその誘いを断ります。
「僕を見ながら、そう言ったんだ。」
嬉しくて感激して泣いてしまいそうなイーブの目。
「キャンドルの火も好きだけど、君を出来るだけはっきり見てたいんだ。電気はつけたまま、キャンドルに火を点けてもいい?アホみたいかな・・・?」
イーブはそう言って部屋の灯りは消しませんでした。
犯行が行われたのはそれから後のこと。
数分後か数時間後か。
イーブとクロードは恋人同士であったし、お互いを思いやっていたと思います。
しかし、彼らは自分達の中からどうしても拭い去る事の出ない「不安」に気付いてしまったのではないかと。
テーブルのそばの床の上で、イーブとクロードはそんな「不安」がお互いの間に入り込む隙を作らぬよう、激しく愛し合います。
テーブルが揺れて食器が落ちても、求め合う事をやめませんでした。
「僕達はパンケーキみたいにひっくり返ったんだ!」
面白おかしそうに話すイーブでしたが、そこには正気を失った様な空気がありました。
犯行の自供をするイーブには、激しい痛みと安らかな温もりが何度も訪れるようで、アタシは相馬さんが壊れてしまうんじゃないかと思いました。
「クソガキ」「クズ」
そんな風にイーブは人から罵声を浴びて生きて来ました。刑事だって取調べの中でそんな”呼び名”で彼を呼びます。
「あんた達が僕にどんな風に思わせたくてそう呼ぶのか、僕は知ってる。」
反抗的な眼差しはそう語り、刑事をにらみつける彼でしたがそこに強さはありません。
あるのは痛みだけでした。
イーブは社会の鬱屈した暗くて汚れた何かを一手に引き受けて来たんです。
「社会人」と称される大人達が消化しきれない汚れてたまった物を。
大人達は自分のした事を彼らをクズ呼ばわりして、なかった事にしてしまおうとする。
イーブの発するメッセージは相馬さんの魂と体を介して劇場の中を逆巻いていました。
彼は涙で頬を濡らし、声を絞り出すたびに体を震わせていました。
観客もその傷だらけのメッセージを必死に受け取ろうとし、イーブと一緒に泣きました。
イーブにとってクロードは、たった一つの「光」であったのかもしれない。
幸せな時間があればある程、失う事が恐怖になる。
お互いを奪い合う様に、お互いの存在を確かめ合う様に極限状態で愛し合う中、イーブはクロードの瞳の中に”不安”の正体を見てしまいます。
客を取るためにこの部屋を出てゆく自分。
友達の元へと帰ってゆくクロード。
ずっとこの先の未来も”クロードと一緒に”居る事など出来るはずもない。
金のためじゃないSEXの果てに、イーブは限りなく現実になってしまいそうな幻を見たんです。
失いたくないと強く思った次の瞬間、テーブルから落ちたナイフで彼は最愛の人をその手にかけてしまったのでした。
つづく。
ラスト30分間に及ぶこの独白がスタートするのと同時に、何かのスィッチが入った様に彼は話し始めました。
生々しい言葉たちは”イーブ”の元から発せられ、生きて再び”イーブ”に襲い掛かります。
街角に立つイーブの様な男娼を夜ごと金で買い、暴力的なSEXを要求して来る男達。
まるで社会の中での不満をぶつける様に、彼らの体を乱暴に奪う。
事が済むと「出て行け!」「うせろ、クズ!」と男娼達の脱いだ服や靴を投げつけ彼らを罵倒する。
そして、男を金で買う男達は、そ知らぬ顔をして家族の元に帰ってゆく。
「そんな事をお前の父親が、お前の旦那が、しゅっ中してるなんて知らなかっただろ?」
イーブの瞳がそう言っているようで彼を直視できない感覚に襲われました。
目を見開き、大きな身振り手振りで頬を紅潮させながら、イーブは自分の体が受け入れて来た事を赤裸々に告白します。
そのあまりの迫力にのまれ、観客席の女の子達は硬直していました。
相馬圭祐さんは若い俳優さんであり、若いファンの方々がいらっしゃるのでこれはかなりの衝撃であったに違いありません。
また、公演の行われた青山円形劇場は小さな劇場で最後列でも6列目なので、その臨場感は相当です。
この時の相馬さんの体全体から発せられるオーラは凄かったです。
忌まわしい数々の夜を無かった事になど出来ない事、そこには確実に自分が居た事、”イーブ”と言う青年は逃げずに全部を認めていました。
それが世間的にどう思われるかなどは関係なく、そこには完全に己があって生きていた事を泣き叫ぶように訴える姿に心が震えました。
逃げずにいる記憶の中に在って、どこかでSOSを発信している様な弱さを感じ、イーブと言う青年を痛みから守ってあげたいと思いました。
そんなイーブが、クロードとの話になるとうっとりと夢を見ている様な目で話すのがとても印象的でした。
クロードは誰かとルームシェアをしていたようですが、ある日彼はその相手を追い出したのです。
それはクロードがイーブとの時間を過ごすためにしたこと。
イーブはこの事を本当に嬉しそうに話しました。
”あの人が僕のためだけににしてくれたこと。”
イーブが”仕事”を終えて、クロードの居る部屋を訪れるのが見えて来るようでした。
「あの人は僕の胸の上に本を置いて、ページを開いた。」
仲むつまじくベッドの上に寝転び、クロードがイーブに本を読んで聞かせる姿を観客は容易に想像出来ました。
あの日の夜、いつもより少しお金を持っていたイーブはクロードと食事をしようとしていました。
「レストランでも良かった。」
でもやっぱり、クロードの部屋を訪れた。
食事を用意し、テーブルをセットし、キャンドルも。
クロードの友達から出かけに誘う電話がかかって来ましたが、彼は「大事な用があるから。」と言ってその誘いを断ります。
「僕を見ながら、そう言ったんだ。」
嬉しくて感激して泣いてしまいそうなイーブの目。
「キャンドルの火も好きだけど、君を出来るだけはっきり見てたいんだ。電気はつけたまま、キャンドルに火を点けてもいい?アホみたいかな・・・?」
イーブはそう言って部屋の灯りは消しませんでした。
犯行が行われたのはそれから後のこと。
数分後か数時間後か。
イーブとクロードは恋人同士であったし、お互いを思いやっていたと思います。
しかし、彼らは自分達の中からどうしても拭い去る事の出ない「不安」に気付いてしまったのではないかと。
テーブルのそばの床の上で、イーブとクロードはそんな「不安」がお互いの間に入り込む隙を作らぬよう、激しく愛し合います。
テーブルが揺れて食器が落ちても、求め合う事をやめませんでした。
「僕達はパンケーキみたいにひっくり返ったんだ!」
面白おかしそうに話すイーブでしたが、そこには正気を失った様な空気がありました。
犯行の自供をするイーブには、激しい痛みと安らかな温もりが何度も訪れるようで、アタシは相馬さんが壊れてしまうんじゃないかと思いました。
「クソガキ」「クズ」
そんな風にイーブは人から罵声を浴びて生きて来ました。刑事だって取調べの中でそんな”呼び名”で彼を呼びます。
「あんた達が僕にどんな風に思わせたくてそう呼ぶのか、僕は知ってる。」
反抗的な眼差しはそう語り、刑事をにらみつける彼でしたがそこに強さはありません。
あるのは痛みだけでした。
イーブは社会の鬱屈した暗くて汚れた何かを一手に引き受けて来たんです。
「社会人」と称される大人達が消化しきれない汚れてたまった物を。
大人達は自分のした事を彼らをクズ呼ばわりして、なかった事にしてしまおうとする。
イーブの発するメッセージは相馬さんの魂と体を介して劇場の中を逆巻いていました。
彼は涙で頬を濡らし、声を絞り出すたびに体を震わせていました。
観客もその傷だらけのメッセージを必死に受け取ろうとし、イーブと一緒に泣きました。
イーブにとってクロードは、たった一つの「光」であったのかもしれない。
幸せな時間があればある程、失う事が恐怖になる。
お互いを奪い合う様に、お互いの存在を確かめ合う様に極限状態で愛し合う中、イーブはクロードの瞳の中に”不安”の正体を見てしまいます。
客を取るためにこの部屋を出てゆく自分。
友達の元へと帰ってゆくクロード。
ずっとこの先の未来も”クロードと一緒に”居る事など出来るはずもない。
金のためじゃないSEXの果てに、イーブは限りなく現実になってしまいそうな幻を見たんです。
失いたくないと強く思った次の瞬間、テーブルから落ちたナイフで彼は最愛の人をその手にかけてしまったのでした。
つづく。