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この世界のどこかに居る似た者達へ。

9日間女王様だった女の子 11。

2014-04-17 22:32:48 | お芝居・テレビ
ジェーンが処刑されると舞台にはロジャーとブラックバードの居るスペースを残して、大きな黒い幕が降りて来ました。

ロジャーはブラックバードの存在を認めると、独白の様に話しかけます。

もうジェーンは居なくなってしまったから、彼女の形見を燃やして来た、と。

ロジャーは大切な友人を失いましたが、絶望に打ちひしがれる事なく、彼女の死の意味を彼なりにつむぎだし観客に話してくれます。

ジェーンの死からメアリー、エリザベスと英国は女王が納めてゆく国になります。

「彼女の死は無駄ではなかった。この国の大きな土台となり得た。」とロジャーは言いました。

大英帝国の基礎となったのは、たった9日間女王の座についた16歳の女の子だったのです。



いつの間にか黒い幕があき、舞台にはキャサリンやエドワード、ジェーン、メアリー、エリザベスが姿を現します。

そしてそこへロジャーも加わり、あの、二人が初めて言葉を交わした時の場面が再現されます。

何だか本当にテレビなどで観る回想シーンの様に、その場面はもやががって見え、会話の声が響いているようにアタシには聞こえました。

くったくなく、汚れを知らない瞳で、興味のある話を夢中になって話すジェーン。


彼女がブラックバードの元へとゆきます。

ブラックバードが奏でる音は浮遊感のあるメロディーが多く、漂っては舞台と観客を包む感じがしていました。

でも、最後のこの場面では少し違っていました。



「わたしの声が聞こえる?」


ジェーンがブラックバードにこう、話しかけます。

一幕の場面の再現ではありますが、彼女が舞台上で発する一番最後の台詞です。



次の瞬間、ブラックバードがその問いかけに答えるように、今までとは違う現実味を帯びた旋律を奏で始めました。

”9days queen”のラストテーマ。

そしてそれは、全てをそばに居て見守り続けて来た”魂の友人”との最期の会話です。

優しく揺れて、それでいて迷う者の手を引いて導いてくれる様なメロディーの中に、ジェーンが居ました。

強く強く心に響く旋律に、遠く時空を超えてジェーン・グレイの声が聞こえるようで涙が出ました。

彼女の生きた証は、紛れもなく今ここにあるんだと感じます。

ブラックバードの歌う声で「灯火のしらゆり」と言う歌詞が耳に飛び込んで来ました。


ああ、しらゆりだったんだなぁと気付きました。



彼は、白いゆりの花をその腕に抱いていたんだなぁと。



例えば吹く風にその体を倒されそうになっても、しなやかに立っている川辺のススキや麦の穂の様に強い芯のあるジェーンの魂。

十代の女の子らしく若々しくキラキラと輝いて、その「魂」が全ての客席へと舞い降りて来ました。

悲劇であるがゆえ悲しい気持ちで終わるのではなく、観客には元気になって帰ってもらいたいと言う堀北さんの言う通りに、アタシはそのキラキラした”魂”を手にする事が出来ました。


ラストテーマが流れる中、ジェーンが立ち上がってブラックバードと観客の元を去ります。

また読書をしに自分の部屋へでも戻ってゆくように、背を向けて歩いて行く白いドレスの女の子の姿が忘れられません。

彼女はあまりにも正直に生きた人だったんですね。






「助かる道があったのにも関わらず、死を選んだ彼女の行動を安易には理解出来ない。演ずるためには理解していなければ舞台には立てない。」と仰っていた堀北さん。

十分に理解せず客前に出たとしてそれはまったくもって説得力に欠けるものであり、そんな姿を観客には見せられないと言う強いプロ意識を感じる彼女の言葉でした。


共演者の方達が口々に「物語に真摯に向き合っている」「揺るがない」と言わせしめた堀北さんの姿勢は、そのままジェーン・グレイの生き様と重なって行ったんだなぁと思います。


多くの人々がレディ・ジェーン・グレイの最期は立派であったと伝えていて、9日間だけ女王様だった女の子の話は今でも生き残り、本やお芝居になって沢山の観客を魅了します。

物語の強さは何物にも変えがたい。

しかし、それ以上にジェーンの強い「魂」が今もなお生き続け、アタシ達観客の元へとこの演者の皆さんを介して届いた事に感謝したいです。




いつかのカーテンコールで、青葉市子さんが床に落ちた黒い羽を拾いあげて堀北さんに渡しました。

全員ではける時、今度はその羽を堀北さんが上川さんに渡しました。ニッコリと優しい笑顔を見せながらそれを受け取った上川さん。




いつか共演したテレビドラマでも上川さんは堀北さんにとって”先生”であり、秘密を共有する特別な相手同士でしたね。



良いチームワークで駆け抜けた”9days queen”の公演の日々、本当にお疲れ様でした。

9日間女王だった16歳の女の子の魂の物語を教えてくださり、ありがとうございました。

この物語に出会えて良かった。






ちなみにイギリスへ行った事のあるアタシですが、ロンドン塔へは行っていません。

血生臭い場所だし、なんとなく行く気にはなれなくて。

でも、今度訪れる機会があったら、是非ロンドン塔へ行きたいです。

そして、ゆっくりと汚れ無き命でこの世を去ったジェーン・グレイの事を考えてみたいと思います。





完。

























































9日間女王様だった女の子 10。

2014-04-09 23:10:58 | お芝居・テレビ
ロジャーは信愛なる友人の命を救うため、力の限りの説得を試みました。

しかし、彼女が出した答えは自ら断頭台へ上る事でした。

ロジャーの表情には「これだけ言っても駄目なのか。」と言う悔しさも見てとれましたが、「やっぱり、そうだよな・・・。」と最初から彼女が向かう答えを予想していて、それをひるがえせなかった自分への敗北感の様な物がある気がしました。

彼の中にジェーンの「生」についての言葉は残っておらず、もはや別れの言葉しか言うべき事は無いのです。


「来てくださってありがとう。」

そう言って、ジェーンは初めてロジャーと言葉を交わすきっかけとなった魂についての書”パイドン”を彼に渡します。

お互いに「さようなら。」と言い合って、二人の交わす会話は最期を迎えました。



いよいよジェーン・グレイの処刑の時がやって来ました。

ロジャーと共に、”魂の友人”であり得たブラックバードに「お前、最期まで見ていてね。」とジェーンは声をかけて断頭台へと向かいます。




自分で出した答えに納得したのか、ジェーンはとても落ち着いています。

彼女が処刑台へ立った瞬間、16世紀のジェーン・グレイの処刑される日の処刑場へと客席が瞬時に時空を超えました。


農民達が集まって来ました。

ロジャーも駆けつけます。

観客も、今まさにジェーンが処刑されるその瞬間に居合わせていました。


ジェーン・グレイは最期に英国国民に、この国を愛し、この国の繁栄を望んでいると自分の言葉で伝えます。


「ジェーン・グレイの刑を執行します。」

司祭の声が響きました。

付き添っていたローズが「司祭様、どうか、どうかっ・・・。」と震える声で懇願しますが、処刑台の空気に耐え切れず彼女は気を失ってしまいます。





同じく付き添っていたエレン。ジェーンに目隠しをするように言われ立ち上がりましたが、彼女も卒倒してしまいます。


気を失って倒れたエレンの手から目隠しのための白い布を取ると、ジェーンは司祭に自分で巻いて良いか聞きました。








何も見えなくなってしまったジェーン。両手をさまよわせ、処刑台を探します。

「処刑台はどこですか?」


さまよう彼女の手をとって、司祭が処刑台へと導きました。



何故、こんなことに。

何故、あんなに若く美しい彼女が、こんな「人生の最期」を迎えなくてはならないのか。

あまりにも惨い、胸の奥が激しく痛むような光景です。





もう泣いたり怖がったりしないジェーン。自分が信ずる神のそばへ行く事を心に決めました。

ゆっくりと首を処刑台へと預けます。

処刑人の持つ斧が無情にも振り下ろされ、9日間英国女王の座についた16歳の女の子の生涯が閉ざされました。


まるで綺麗に咲いていた花が、一瞬にして散ってしまった様に。





つづく。



























































































9日間女王様だった女の子 9。

2014-04-09 23:09:41 | お芝居・テレビ
ジェーンに会いに来たロジャーの手には、ペンと紙が握られていました。

そして命が助かる方法がある、それはカトリックへの改宗だ、とジェーンに伝えます。


「カトリックへ改宗?」


と言ってジェーンは顔を曇らせます。


「そんな顔、すると思った・・・。」

彼女の表情を見てロジャーがつぶやきました。


この場面でのロジャーの表情は2月の時点と3月の公演ではかなり違っていました。

2月の時は言いながら彼は笑顔でした。「やっぱり、そんな顔すると思ったよ!」的な、比較的明るい笑顔。

3月では、明らかに悲しそうに、落胆の色すら見える力ない笑顔でした。

でも、ロジャーは諦めません。

全力でジェーンを説得にかかります。








君ははめられたんだ、君は何も悪くない、嫌ならカトリックに今だけ改宗してまたプロテスタントへ戻ればいい。

ジェーンの命を救うため、言葉の限りを尽くして彼女がうん、と言うのを渇望するロジャー。

しかし、

「さぁ、ここに書いてしまおう。」

と紙とペンを差し出しても、ジェーンは悲しそうにロジャーの手元に視線を落とすだけで近寄ろうとしません。

ジェーンが改宗するとその紙に書かない事は、彼女の死を意味します。





ついには魂を曲げてまで生きていたくない、とジェーンは言います。






「魂と肉体は一緒だ、肉体が消えたら魂も消える。私は君に消えて欲しくない!!」



業を煮やしてロジャーがジェーンの腕を掴み、抱き寄せます。




それはまるでギリギリにならなければ言えなかった、ロジャーからジェーンへの愛の告白にも聞こえました。


そしてとうとうギルフォードの処刑が行われてしまいます。

舞台後方より処刑台が出て来ます。

木製の小さな舞台の様な物の上に、真ん中がくぼんだ断頭台が置かれていました。

ギルフォードは遠くを見つめる様にそこへ立ち、自分にもう少し知恵があったらこの国を一緒に作っていけたかもしれない、とジェーンに語りかけます。そして

「君とはもっと違う時代に出会いたかった。」と。

若い夫婦なりに寄り添ってこの過酷な運命を懸命に乗り越えようとしていた姿が思い出され、胸が締め付けられるようです。

ギルフォードが断頭台のくぼみに頭を乗せると、大きな大きな斧が振り落とされました。

息をのんで見つめていた客席の静寂を切り裂くように、ジェーンの悲鳴が響き渡ります。




恐怖に身を震わせるジェーンでしたが、ロジャーの心からの言葉の数々に、彼女は一つの考えに行き着きました。

しかし、それは残念ながらロジャーの思惑とは大きくずれた結論でありました。


自分には女王になる事を拒否する言葉があったはずだ、と。

女王になると言う事は、国の長になる事であり、国を動かす責任ある地位に自分を置く事。

そんな重大な事にも気付かずに、あまりにも簡単に女王になる事を承諾した自分はいけなかったんだと。

ジェーンのつむぎ出した思わぬ結論に

「今、気付いたじゃないか!!!」

とロジャーは声を震わせて叫びます。

しかし、ジェーンの結論は翻る事はありませんでした。

「罪だと言われるならば甘んじてそれを受け入れる。」

それが自分に嘘をつかないやり方だと彼女は結論したのです。


ついぞ首を縦に降らなかったジェーンに、がっくりと肩を落とすロジャー。

でもきっとロジャーは分かっていたんじゃないかと思うんです。

ジェーンは改宗など絶対にしないと言う事を。

分かっていたからこそ、あんなに必死にジェーンを説得したのではないかと。


もしロジャーがジェーンの立場であったとしたら?

誰かに言われて改宗するでしょうか?

親友に説得されたならなお更「君なら分かってくれるだろう。」と言う思いになりはしないでしょうか。



二人はあまりにも近しくて、あまりにも特別な存在同士だったのではと思うのです。







つづく。






























9日間女王様だった女の子 8。

2014-04-04 21:41:45 | お芝居・テレビ
メアリーが即位を宣言し英国には一瞬、ジェーンとメアリーと言う二人の女王が存在していました。

メアリー軍の兵士は戦いのさなかジェーン軍の兵士に、「無駄な血は流したくない、こちらの軍につけ!」と言います。

大衆も支持するメアリー女王の率いる軍。それに比べてジェーン女王率いる軍は明らかに劣勢であり、勝ち目がないのは目に見えていました。

こうしてその人数を増やし、メアリー軍は大きくなってゆきます。


とうとうジェーンとギルフォードの所にも、メアリー軍の兵士がやって来ました。

若い夫婦は両腕を兵士に掴まれて、離れ離れに。

思わず、「あなたっ!」と緊迫した声で叫ぶジェーン。


良い夫の条件とは。

そばに居るだけで、その存在が心の支えになる人。

小さな事でも何か危機に直面した時に、ただそこに居るだけで精神的な安らぎと力をくれる存在。

それが良い夫です。


ジェーンにとってギルフォードはそんな存在になり得たんですね。

ギルフォードにとっても、すでにジェーンはかけがえの無い存在になっていました。

父のジョンと共に兵士達に引きずられる様に連れて行かれながら、「ジェーン!ジェーン!!」と姿が見えなくなっても叫び続けていたギルフォード。

舞台の暗がりの中に消えて行こうとも、彼の妻を呼ぶ声はこの世で一番切なく強く響きわたって聞こえて来るのでした。


戦いは激化し、ジェーンの父・ヘンリーと母・フランシーズも捕らえらます。


コの字型をした舞台は兵士達、そして農民達が激しい戦いを繰り広げる戦場でありながら、動きながらその形を変えてゆき、観客達の前にかなり奥行きのある舞台を出現させました。

そこはジェーンが幽閉されているロンドン塔でした。


吹きすさむ風の音がして、ジェーンが舞台の一番奥からゆっくり歩いて来ます。

乳母のエレン、そしてギルフォードが連れて来たローズも舞台手前に開いた「穴」から出て来ます。

エレンはギルフォードが、エドワードの遺言書を見つけ、父のジョンがその内容を書き換えたと突き止めたらしいとジェーンに話します。

合点のゆくジェーンでしたが、そう分ったとしてももう何かが変わる事は無いようです。


幽閉されたジェーンの元へエリザベスが姿を現しました。

「私の母が処刑された場所はどう?」などといきなり言うエリザベス。彼女の母アン・ブーリンはロンドン塔で処刑されたのです。

ギョッとするエレン。

「思う他落ち着きます。最期が見えたからでしょうか・・・。」と返すジェーン。

なんて恐ろしい会話なんでしょう。

ゾッとします。



乳母エレン役・銀粉蝶さん。

お芝居の最初の方で、ヘンリー八世の妻達が死刑や離婚を繰り返した経緯を「死刑!離婚!死刑!離婚!!」と高い声で言うのが、面白かったですね。


そう。その妻達の中でアン・ブーリンは死刑を言い渡された妻でした。




アンの娘、エリザベス1世役・江口のりこさん。

開幕前に笑福亭鶴瓶さんの「スジナシ」と言う番組ゲストでに出ていらっしゃいましたね。

メチャメチャ面白くて、爆笑しました


エリザベスはジェーンに正面きって「あなたが嫌い。」と言います。

こんな最期に来てまで、そう言うのです。

しかしそこには、エリザベスの不器用な気持ちの表現があった様な気がします。

自分でも「何を言いに来たのか分らない。」と言う彼女でしたが、16歳の少女の処刑と言う現実はどう考えたっておかしいと思っていたのかもしれません。

「なにも処刑することは・・・」ぐらいは思っていたのかも。

だからせめて最期にジェーンと話しに来たんじゃないかと・・・アタシはそう思いたいですね。


エリザベスとジェーンがお互い生涯最後の会話をした後、エリザベスは去ってゆきました。


そして息をきらしながら、ロジャーがやって来たのです。





つづく。