あたかも番組が終了してしまったかの様な次回放送までのインターバルの長さに、ロスト症候群を発症してしまったぐるナイゴチ。
しかしながら、なんだか他にまだ言ってなかった事があった様な・・・。
そう
それはもう去年の事になってしまったから、なんとなく書くタイミングを逃してきたお話。
舞台・渇いた太陽の登場人物ホテルのボーイ、"フライ”について。
フライと言う青年は黒人です。(湖木信乃介さんと言う日本人の俳優さんが演じています。)
一幕で激しい二日酔いに見舞われている主人公チャンスに、薬と朝のコーヒーを持って来てくれます。
「ブラインドを開けてくれないか」とチャンスに言われ、最初は大きく開けてしまい「それじゃ、開けすぎだ!」と怒られちゃう。
す、すいませんな感じで、今度は小さく開けてチャンスを振り返り見ると「うん、うん。」と頷くチャンス。
フライはとても真面目で、可愛らしい笑顔を絶やしません。
チャンス自身はそのホテルに宿泊している事を人に知られたくなかったため、思いもよらずフライが自分の名を知っていた事に驚きます。何故知っているのかと尋ねると、昔チャンスがダンスパーティーで美しい女性と踊っていたのを見た事がある、と。
そんな話をしている時も、フライの背筋はピンっと伸びています。
チップをはずむから、自分がここに泊まっている事をあまり人には言うなとチャンスに言われて、フライは部屋を追い出されてしまいます。
一幕目でのフライの登場部分はここまで。
二幕目では、ホテルのバーでの登場です。最初はバーテンの"スタッフ”と椅子やテーブルをセッティングします。
フライはセッティングし終わると、バーからホテルへと続いているであろう扉の向こう側へ立って、ニッコリと笑い客席にお辞儀をして一度舞台から姿を消します。
アタシはこのシーンが好きでした。フライにお辞儀されると、自分もそのバーへ招待された気分になったからです。この「渇いた太陽」と言う舞台で客席にこんな風に直接何か働きかけをする事も意外だったし、そうされる事によって自分がお芝居の客席に居るのではなく、バーの客として店の中に足を踏み入れた様な気持ちになったのが面白かった。
お酒は呑めないクチだけれど、これから起こる出来事の目撃者としてアタシはバーの隅の椅子へと腰掛けたのです。
さて、このバーのあるホテルはチャンスとアレクサンドラが宿泊しているホテルです。
フライはアレクサンドラからの言いつけで、チャンスを探しに来ます。バーの中に
「チャンスウェイン様ぁ~~っ!チャンスウェイン様ぁ~~~っ!!!」
と何度も大きな声で叫びながら入って来ます。手には彼女からチャンスへのメッセージの書かれたメモを持って。
しかし、チャンスは何故か「その話は後だ」とかなんとか言って、まともに取り合いません。
そのうちにアレクサンドラは身なりも構わず髪もバラバラのまま、フライの手を借りてラウンジまで降りてきてしまいます。
フライにとっては本来の仕事とは関係のない「ある男女間の問題」の様な事に巻き込まれて、少々気の毒です。
きっと彼は人がいいんだろうなと観る度に思っていました。
トムジュニアとチャンスが顔を合わせ、ひと悶着の後、自分のプライドも傷つけられてアレクサンドラは部屋へと帰ってゆきます。
このバーでは本当に様々な事が起こりました。
チャンスとヘブンリーも顔を合わせました。恋人ヘブンリーがバーへ入って来た時、スポットがチャンスとヘブンリーに当たり周囲は暗くなり、音声も切れました。凍りついた様な場面で見つめ合う二人。
チャンスが「おいで・・・」と言う様にゆっくりとヘブンリーの方へ両手を差し出しますが、ヘブンリーはそれを拒んでしまいます。
それは当然の事の様に思えました。
彼女はひどい事をされたんです。
彼のせいで、返して欲しくてももう二度と自分の元へ返らない「命ほど」大きな物を失ったんです。
ヘブンリーは華奢で本当に美しい女性でした。でも瞳はどこか病的で覇気がなく哀しげで、その表情に笑顔はありませんでした。
ボス・フィンリーもチャンスを見つけます。近寄ってゆき、「はっ!!」と大きな声で”威嚇”すると、思わずチャンスが後ずさり。店内の螺旋階段を昇って演説台へと行くボスについてヘブンリーも続きます。階段の途中近寄るチャンスの手を、今度は取ろうとするヘブンリー。しかし、兄であるトムに阻止されます。
登場人物達の複雑な感情が織り成す緊張感で、舞台は張り詰めて行きます。
誰もお互いを認め合ったりしない。殺伐とした人間関係。
この町には黒人青年が虚勢されたと言うニュースが入って来たり、人種差別も明らかにはびこっているんです。
しかし、「神は我と共にあり。」と思っているのか、ボス・フィンリーの「偽善」の匂いがプンプンする演説が始まります。
そんな演説をバーの中で聞いていたフライは、悔しそうな表情を見せます。
顔をゆがませて椅子の背もたれをギュッと掴み、最後にはその椅子で床を「コンっ!」と叩きます。
千秋楽までは、その音に気付いたチャンスがフライと目を合わせると、フライはバツが悪そうに椅子をきちんと元に戻してから舞台を去っていました。
もう今日で最後と言う感情が乗るのか、千秋楽では演者の皆さんの演技も何かが突き抜けた様に、思い切りがよくなります。
千秋楽でのこのシーンで、フライは椅子を倒しました。それまでは少し感情を抑えた椅子の「コンっ!」でしたが、最後の日のフライは自分の気持ちを抑えずに我慢しないで吐き出したんです。そして倒れた椅子をそのままにしました。
そんなフライを見て、チャンスは小さく手を差し伸べました。彼を気遣う様に。
フライは哀しげな微笑みをチャンスに返しました。二人の間に小さな友情が存在した瞬間でした。
チャンスはろくでなしですが、フライに人種差別的な感情は持っていないと伝えてくれた場面です。
このお芝居の人間関係を描いた場面では、数少ない温かい物を感じたシーンでした。
アタシが最初の方に感じてた日本人の俳優なのに外国人(西洋人)を演じる違和感。
それは無くなったと言ったら嘘です。
ずっとお芝居が好きだったわけじゃないから、変だと思う事はやっぱ変。
でも、そうやって感情を荒げてはうつむいて舞台を去るフライを観る度、「もう一度あの笑顔を見せて欲しい。」と思ったと言う事は、アタシがこの物語の中に充分に入って行けていた証拠です。
違和感がぼんやりした、と言う言い方が一番近いかもしれななぁと思います。
ヘブンリーに起こり得た不幸がチャンスのせいだと判明した時の
「アンタなんてヤツなのっ取りあえず一発殴らせろぃっ」
と言う気持ちからして、もはや物語INは出来ていたんですが・・・。
バーでの暴行事件の後、再びホテルの部屋に戻ったチャンスとアレクサンドラの元に訪れるラストの場面の直前に、天井高くから白い羽が数枚ゆっくりと舞い降りて来ます。それは時間であり、「季節」だとアタシは解釈しています。
もう、終ったんです。ひとつの季節はもう過ぎた。
新たに始まる季節に向かって、準備を始めなきゃならない。
ここに居てはいけないんです。
そんな二人の所に暴行事件を起こした者達と、袋に穴を二つ開けただけの覆面をかぶった面々がやって来ます。
手には棒を持って。
これがこの舞台のラストでした。
その後、その状況がどうなったかは描かれてはいません。
二人は暴行されたかもしれない。殺されてしまったかもしれない。
バーでの自分の取った態度やアレクサンドラの事を気にして、フライが様子を伺いにこの状況のこの部屋のドアをノックしてくれたらなぁと・・・今思います。
その音がチャンスとアレクサンドラの運命を変えるかも。
フライと言う青年のピュアなオーラは、殺伐とした人間関係のこの物語の中にあって温かい救いだった気がするんです。
フライ=湖木信乃介
千秋楽のカーテンコールで号泣していた湖木さん。
そんな風に全力で向き合える仕事がある事は、とても素晴らしいと思います。
この物語に"フライ”が居てくれて良かった。
これからも役者道をぐんぐん進んで下さいね
しかしながら、なんだか他にまだ言ってなかった事があった様な・・・。
そう
それはもう去年の事になってしまったから、なんとなく書くタイミングを逃してきたお話。
舞台・渇いた太陽の登場人物ホテルのボーイ、"フライ”について。
フライと言う青年は黒人です。(湖木信乃介さんと言う日本人の俳優さんが演じています。)
一幕で激しい二日酔いに見舞われている主人公チャンスに、薬と朝のコーヒーを持って来てくれます。
「ブラインドを開けてくれないか」とチャンスに言われ、最初は大きく開けてしまい「それじゃ、開けすぎだ!」と怒られちゃう。
す、すいませんな感じで、今度は小さく開けてチャンスを振り返り見ると「うん、うん。」と頷くチャンス。
フライはとても真面目で、可愛らしい笑顔を絶やしません。
チャンス自身はそのホテルに宿泊している事を人に知られたくなかったため、思いもよらずフライが自分の名を知っていた事に驚きます。何故知っているのかと尋ねると、昔チャンスがダンスパーティーで美しい女性と踊っていたのを見た事がある、と。
そんな話をしている時も、フライの背筋はピンっと伸びています。
チップをはずむから、自分がここに泊まっている事をあまり人には言うなとチャンスに言われて、フライは部屋を追い出されてしまいます。
一幕目でのフライの登場部分はここまで。
二幕目では、ホテルのバーでの登場です。最初はバーテンの"スタッフ”と椅子やテーブルをセッティングします。
フライはセッティングし終わると、バーからホテルへと続いているであろう扉の向こう側へ立って、ニッコリと笑い客席にお辞儀をして一度舞台から姿を消します。
アタシはこのシーンが好きでした。フライにお辞儀されると、自分もそのバーへ招待された気分になったからです。この「渇いた太陽」と言う舞台で客席にこんな風に直接何か働きかけをする事も意外だったし、そうされる事によって自分がお芝居の客席に居るのではなく、バーの客として店の中に足を踏み入れた様な気持ちになったのが面白かった。
お酒は呑めないクチだけれど、これから起こる出来事の目撃者としてアタシはバーの隅の椅子へと腰掛けたのです。
さて、このバーのあるホテルはチャンスとアレクサンドラが宿泊しているホテルです。
フライはアレクサンドラからの言いつけで、チャンスを探しに来ます。バーの中に
「チャンスウェイン様ぁ~~っ!チャンスウェイン様ぁ~~~っ!!!」
と何度も大きな声で叫びながら入って来ます。手には彼女からチャンスへのメッセージの書かれたメモを持って。
しかし、チャンスは何故か「その話は後だ」とかなんとか言って、まともに取り合いません。
そのうちにアレクサンドラは身なりも構わず髪もバラバラのまま、フライの手を借りてラウンジまで降りてきてしまいます。
フライにとっては本来の仕事とは関係のない「ある男女間の問題」の様な事に巻き込まれて、少々気の毒です。
きっと彼は人がいいんだろうなと観る度に思っていました。
トムジュニアとチャンスが顔を合わせ、ひと悶着の後、自分のプライドも傷つけられてアレクサンドラは部屋へと帰ってゆきます。
このバーでは本当に様々な事が起こりました。
チャンスとヘブンリーも顔を合わせました。恋人ヘブンリーがバーへ入って来た時、スポットがチャンスとヘブンリーに当たり周囲は暗くなり、音声も切れました。凍りついた様な場面で見つめ合う二人。
チャンスが「おいで・・・」と言う様にゆっくりとヘブンリーの方へ両手を差し出しますが、ヘブンリーはそれを拒んでしまいます。
それは当然の事の様に思えました。
彼女はひどい事をされたんです。
彼のせいで、返して欲しくてももう二度と自分の元へ返らない「命ほど」大きな物を失ったんです。
ヘブンリーは華奢で本当に美しい女性でした。でも瞳はどこか病的で覇気がなく哀しげで、その表情に笑顔はありませんでした。
ボス・フィンリーもチャンスを見つけます。近寄ってゆき、「はっ!!」と大きな声で”威嚇”すると、思わずチャンスが後ずさり。店内の螺旋階段を昇って演説台へと行くボスについてヘブンリーも続きます。階段の途中近寄るチャンスの手を、今度は取ろうとするヘブンリー。しかし、兄であるトムに阻止されます。
登場人物達の複雑な感情が織り成す緊張感で、舞台は張り詰めて行きます。
誰もお互いを認め合ったりしない。殺伐とした人間関係。
この町には黒人青年が虚勢されたと言うニュースが入って来たり、人種差別も明らかにはびこっているんです。
しかし、「神は我と共にあり。」と思っているのか、ボス・フィンリーの「偽善」の匂いがプンプンする演説が始まります。
そんな演説をバーの中で聞いていたフライは、悔しそうな表情を見せます。
顔をゆがませて椅子の背もたれをギュッと掴み、最後にはその椅子で床を「コンっ!」と叩きます。
千秋楽までは、その音に気付いたチャンスがフライと目を合わせると、フライはバツが悪そうに椅子をきちんと元に戻してから舞台を去っていました。
もう今日で最後と言う感情が乗るのか、千秋楽では演者の皆さんの演技も何かが突き抜けた様に、思い切りがよくなります。
千秋楽でのこのシーンで、フライは椅子を倒しました。それまでは少し感情を抑えた椅子の「コンっ!」でしたが、最後の日のフライは自分の気持ちを抑えずに我慢しないで吐き出したんです。そして倒れた椅子をそのままにしました。
そんなフライを見て、チャンスは小さく手を差し伸べました。彼を気遣う様に。
フライは哀しげな微笑みをチャンスに返しました。二人の間に小さな友情が存在した瞬間でした。
チャンスはろくでなしですが、フライに人種差別的な感情は持っていないと伝えてくれた場面です。
このお芝居の人間関係を描いた場面では、数少ない温かい物を感じたシーンでした。
アタシが最初の方に感じてた日本人の俳優なのに外国人(西洋人)を演じる違和感。
それは無くなったと言ったら嘘です。
ずっとお芝居が好きだったわけじゃないから、変だと思う事はやっぱ変。
でも、そうやって感情を荒げてはうつむいて舞台を去るフライを観る度、「もう一度あの笑顔を見せて欲しい。」と思ったと言う事は、アタシがこの物語の中に充分に入って行けていた証拠です。
違和感がぼんやりした、と言う言い方が一番近いかもしれななぁと思います。
ヘブンリーに起こり得た不幸がチャンスのせいだと判明した時の
「アンタなんてヤツなのっ取りあえず一発殴らせろぃっ」
と言う気持ちからして、もはや物語INは出来ていたんですが・・・。
バーでの暴行事件の後、再びホテルの部屋に戻ったチャンスとアレクサンドラの元に訪れるラストの場面の直前に、天井高くから白い羽が数枚ゆっくりと舞い降りて来ます。それは時間であり、「季節」だとアタシは解釈しています。
もう、終ったんです。ひとつの季節はもう過ぎた。
新たに始まる季節に向かって、準備を始めなきゃならない。
ここに居てはいけないんです。
そんな二人の所に暴行事件を起こした者達と、袋に穴を二つ開けただけの覆面をかぶった面々がやって来ます。
手には棒を持って。
これがこの舞台のラストでした。
その後、その状況がどうなったかは描かれてはいません。
二人は暴行されたかもしれない。殺されてしまったかもしれない。
バーでの自分の取った態度やアレクサンドラの事を気にして、フライが様子を伺いにこの状況のこの部屋のドアをノックしてくれたらなぁと・・・今思います。
その音がチャンスとアレクサンドラの運命を変えるかも。
フライと言う青年のピュアなオーラは、殺伐とした人間関係のこの物語の中にあって温かい救いだった気がするんです。
フライ=湖木信乃介
千秋楽のカーテンコールで号泣していた湖木さん。
そんな風に全力で向き合える仕事がある事は、とても素晴らしいと思います。
この物語に"フライ”が居てくれて良かった。
これからも役者道をぐんぐん進んで下さいね