161205 養育費というもの 日弁連の新・算定表などを考える
日弁連ニュースは、11月29日付けで、養育費・婚姻費用の新しい新算定方式・新算定表に関する提言を発表しました。
昨日の毎日朝刊は、なぜか“養育費だけを取り上げて、現在、一般的に使われている算定表は「金額が低すぎる」と批判されており、新算定表を利用すれば養育費が約1・5倍に上がる。”と指摘しています。現行の算定表では基準となる「基礎収入」が総収入の約4割とされていますが、それを新算定表だと約6~7割にアップするように養育費が上がるように変更していると指摘しています。
毎日新聞を善解すれば、養育費の方が一般的には問題が大きいと考えられているので、婚姻費用の分担についてはあえて触れなかったともいえるかもしれません。ただ、潜在的な問題としてはそういえるかは一応、疑問を呈しておきます。
で、養育費・婚姻費用の金額は、女性が(と断定はできませんが、一般にはそういってよいでしょう)離婚する、独立して仕事をもつ、子育てをしていくといった上で、経済的・精神的に重要な要素になることは間違いないでしょう。
ところが、現在実務で採用されているのは2003年に東京・大阪養育費等研究会(メンバーは裁判官が中心か?)が判例タイムズという専門誌に「簡易迅速な養育費の算定を目指して-養育費・婚姻費用の算定方式と算定表の提案-」というタイトルで発表した一つの提案でした。それが、まるで裁判所の基準のごとくその後普及し、実務では多くがこれに依拠して決定されていると思われます。
実際、いろいろなウェブサイトで取り上げられているのはもちろんですが、裁判所のウェブサイトでもこの簡易算定表がPDFでダウンロードできるようになっています。
しかし、この提案基準は、立法・行政・司法で、また国民の間できちんと議論されてできあがったものでも、その後の実務の中でも真剣に議論されて定着されたものとはいえないと思います。
提案基準が発表される前は、調停で話合いがつけば別ですが、審判や裁判による場合、調査官調査で経緯費の実額をしっかり調査し、そのうち経緯控除として適切かを慎重に判断して決定されていたと、当時の裁判官からの報告もあります(日弁連発行「自由と正義」2013年3月号)。
私自身は、この当時も含め、当地に来るまで養育費に関わる事件はほとんど取り扱ったことがなかったのですが、当地にやってきていかに養育費にかかわる事件が多いかを実感しています。実は2000年前後頃から急速に増大し、それまでの審理の仕方だと裁判所として対応できなくなったことから、「簡易迅速な」算定法を発表したわけでしょう。
この研究会も一つの提案であって、よりよい基準の提案を期待していた節があります。また、実務の中で、修正したりすることも予定していたと思われます。ところが、いつの間にか、簡易算定表が一目瞭然で素人でも、調停委員も一般の方の場合はその根拠や算定方法の基礎を学ぶ機会が少ないので、おおむねこれによる判断に傾いていったと思われます。
私自身の体験の中でも、簡易算定表にない、たとえば夫が二人の子を、妻が一人の子を、それぞれ養育する場合、単純に収入の多い夫を義務者として、子どもの年齢と人数を当てはめて算定するという誤った判断をしそうになったケースがあります。また国立大学の進学について夫婦間で合意がある場合、簡易算定表の基準にその学費自体を別途加算したケースがあり、これは後に変更決定を得て事なきを得ました。このように現行の簡易算定表自体、誤解を招きかねない問題を含んでいます。
それ以上に重要なのは、日弁連が12年3月に、その算定方法自体の問題を指摘し新たな算定方式を提案する意見書を発表して、是正を求めたように、多くは義務者となる夫側の収入から控除される経費が不合理に高くなっているため(つまりその分基礎収入が低くなる)現行基準では養育費や婚姻費用分担費が極めて低額に抑えられていて、離婚しても(別居しても)女性一人では子どもを養育するのが困難な状態を招いていることでした。これはもう一つのガラス・ウォールでしょうか。
その意味で、今回の日弁連提言は、従前の意見書を一歩実現に向かって進めたものかと期待したいところです。まだホームページにアップされていないので、従前意見書と一緒なのかどう違うのかはいつか書いてみたいと思います。
ところで、養育費の問題はその金額だけに止まらず、まだまだ深刻な状況にあると思われます。とりわけその支払いの確保です(養育費受給の実態こそ問題でしょう)。中には逃げてしまって居所すら分からないという場合もあります。むろん調査会社を雇える場合は高額の費用を払って探しますが、なんらかの手がかかりもないと、結局、無駄になります。
公正証書や調停調書、審判書など強制執行可能な、いわゆる「債務名義」といわれる履行確保文書があっても安心できません。もちろん少なくない人はきちんと養育費の支払いを履行するでしょう。それはこのような債務名義がある場合とくに担保されていると思われます。
それでも養育費の支払は、長い場合20年以上にわたる場合もあるでしょう。義務者の勤め先が倒産したとか、不景気で給料がカットされたとか、いろいろ起こりえます。そのような場合義務者側からは養育費変更の調停申立がなされ、減額する(逆もあり得ますが)こともあります。給料の差押えも手続き的には少し大変ですが、ボーナスも含め毎月必ず確保できるので安心ですが、それも勤務先が変わると再び手続きをとらないといけません。新たな勤務先が分かればいいのですが、現在の制度では新たな勤務先を捕捉するシステムがありません。勤務先変更などは義務づける約束をしますが、守らない人もいますので、絶対ではありません。
差押え金額についても、義務者側に合理的な理由があれば、減額申立が認められているので、減額決定されることもあります。そういう意味で、養育費の金額を上げても履行確保の制度を拡充しないと、絵に描いた餅になりかねません。
アメリカの養育費制度のように、親を探索するシステムや給与天引きなど、福祉制度の一環とする方式や、フランスの直接支払制度(義務者や雇用主の銀行に取り立て)や徴税制度など各国でさまざまな工夫をこらしているのを参考にして(2004年3月日弁連「養育費確保のための意見書」より)、わが国でも本気で取り組まないと、少子化への流れを押しとどめることが困難ではないかと思うのです。
むろんこのような制度論だけでなく、意識の問題でもあり、文化の問題でもあることから、そのような面での取り組みも検討する必要があると思うのです。
170317 補充
最近、ある担当した事件で、新基準を使って調停申立をしようと思い、日弁連の提案した新基準を探したのですが、すぐに見つからず、このブログでも分からず、PCにも保存されていなかったので、これは不親切なブログだなと思いまして、とりあえず簡単にアクセスできるよう、以下の通り補充します。
1 提言全文
2 新算定表のみ
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