たそかれの散策

都会から田舎に移って4年経ち、周りの農地、寺、古代の雰囲気に興味を持つようになり、ランダムに書いてみようかと思う。

心安まる・まちづくりとは <風知草 日中、四川省の場合=山田孝男>などを読みながら

2017-12-18 | 心のやすらぎ・豊かさ

171218 心安まる・まちづくりとは <風知草日中、四川省の場合=山田孝男>などを読みながら

 

歴史的遺産を公的に認定したり顕彰することはそれ自体、先祖が行ってきた郷土形成への意義を再評価し、その歴史的価値や人の努力を蘇らせるなど意義があることと思うのです。ただ、現代的な意義を考えれば、その遺産が単に登録されたり、顕彰されたりすることだけにとどまるのでは、その価値を本当に見いだすことにはならないように思うのです。

 

『論語』の温故知新という言葉が長く人の心に響いてきたのは、過去のそういった偉業の歴史的価値・思想的価値などから、新たな知見をくみ取り、現代に活かす

 

その中国といえば、一昔前の日本のように、この20年あまりはスクラップアンドビルドに邁進し、日本と違うのはある種強制的立ち退きという強権的手段で、伝統的なまちなみ景観をも破壊する暴挙も行われてきたように思われます。近代的なビル群、マンション群で外観的には美しいですが、そのために失ったものも大きいでしょう。

 

遺産となるべきものが、どこかに保存され、生活と切り離された途端、生活の歴史的系譜がある基盤を失い、より所への喪失感をずっと引きずるように思うのです。それがわが国の開発という名で、そこに住み続けてきた人にとっての歴史的価値・心の自然史的価値を失わせてきたように思うのです。

 

ところが、最近は新たな動きもあるようです。上記の山田氏のエッセイは、その一端を活写しています。

 

まず一般的な新しい流れを指摘しています。<日中関係は改善基調で推移しているようだが、環境デザイナー、石川幹子・中央大理工学部教授(69)の最近の経験も、新しい流れを感じさせる。>

 

<2008年、石川は、中国四川大地震の復興グランドデザイン国際コンペで入選したが、なぜか入選作がお蔵入りになった。

 ところが--

 最近、中国側から「あらためて説明を」と要請があり、石川は今月25日、訪中する。招聘(しょうへい)元によれば、今年3月、習近平国家主席が四川省農村保全を指示。7月、同省が石川案での復興を決めたという。>

 

四川大地震のときは、耐震構造が確保されていないと思われるビルが跡形もなく倒れ、多くの犠牲者を出したことが思い出されます。

 

で、コンペの対象となった都市、すごい歴史的遺産があるところだったのです。

<震災復興計画を国際公募したのは被災都市の一つ、都江堰(とこうえん)だった。省都・成都の西に位置する市で人口およそ60万人。

 チベットへ続く山々に発した岷江(みんこう)の急流が四川盆地へ注ぎ込む扇状地。紀元前3世紀に整備された堰(せき)(今も使われている治水・利水施設。世界遺産)が市の名前になっている。>

 

わが国の灌漑事業は、いつから本格的になったのか、江戸時代からなのかよくわかりませんが、中国は紀元前3世紀にすでに大河に大きな堰を設けているのですね。技術力・創造力が違いますね。

 

たしか以前、NHKで<都江堰>の灌漑事業については、放映されたことがあり、見た記憶があります。わが国では7世紀後半、斉明天皇が大きな石造りの運河的なものを作ったということが指摘されていたと思いますが、これは灌漑用水路ではないと私は思っています。その前後、わが国では、中国のような巨大な運河や灌漑用水路は、江戸時代まで生まれなかったのではないかと思っていますが、勉強不足ですので、教えていただければ幸です。

 

ここから石川氏の案が登場します。それは歴史的に形成されてきた土地利用を保全しつつ、現代的なまちづくりを行うもので、スクラップアンドビルドとは異なる内容です。

 

<同僚と都江堰の農村を調査した石川は、この地方独特の、「林盤(りんぱん)」と呼ばれる集落の形態保全--を構想の核に据えた。

 「林盤」は、扇状地の網の目状の水路の間に無数に散らばる。ひとかたまりの林ごとに伝統的な家屋と田畑、家畜が溶け合う共同体で、一つの「林盤」の人口は50人から100人。大地震で家屋は崩れたが、水路と林は無事だった。石川はそこに着目した。>

 

099月に石川案は報告書としてまとめられたのですが、そこから動きがとまり、新規開発の波が農村にも及んできた影響ではないかと言うのです。

 

ところが事態が再び動き出したというのです。

<再開発の波がとうとう農村へ迫ったこの秋、流れが変わった。習近平の中国は農村復興を国策の柱に据えている。習は10月、第19回中国共産党大会の活動報告で「農業・農村の優先的発展」「20年までに農村の貧困脱却」「環境、生態系の保全」を強調した。>

 

習近平氏は、経済成長一本槍だった中国を、パリ協定に合意したり、大気汚染対策に積極的に対応するなど、70年代日本政府のように大きく舵を切ったようにもみえますね。

 

さてこの石川氏のキャリアも興味深いです。

<石川は宮城県出身。東大農学部、米ハーバード大大学院で造園、環境デザインを学んだ。専業主婦だった42歳の時、東大に戻って博士号取得。工学院大、慶応大、東大大学院の教授を務め、13年、中央大へ。

 この間、東日本大震災や熊本地震の復興支援に関わる一方、独創的な環境デザインで内外の設計コンペを連覇している。>

 

専業主婦の力、侮るべきではない見本でしょうか。専業主婦が十分に力を発揮できるように環境整備すれば、彼女たちは専業の終身雇用男性以上に創造的な仕事をする可能性を秘めているように思うのです。

 

その石川氏の言葉が光ります。

<「それぞれの場所に歴史があり、蓄積がある。土地そのものに答えが埋め込まれています。土地に刻まれた歴史、人の思いを読み込む努力ですね。長い歴史から見れば、私たちの存在はほんの一瞬です。その瞬間に何をなすべきか、過去を見て未来を思えば自然に決まる。無理はしません」>

 

「土地に刻まれた歴史、人の思いを読み込む努力」とはいい言葉ですね。林盤という生活拠点を活かすことで、そこに住んできた人はその存在価値を古代からの歴史的系譜を改めて感じながら、存在意義を見いだし、それだからこそ、心も安らぐのではないかと思うのです。

 

この言葉から、ついあの映画「柳川堀割物語」を思い出しました。監督高畑勲氏は、土着の精神、その堀割の成り立ちや機能を見事に活写しつつ、その再生にかけて一市役所の職員の殻を抜け出した広松伝氏に光を当てたといえるでしょう。東京弁護士会時代、たしか30年くらい前、この映画を上映しました。古い東弁会館に200人以上が詰めかけ、皆さん感動を分け合った思い出があります。

 

そのような感動を、中国の中で、1000年を超える歴史遺産を活かすまちづくりを通して、きっと中国人と分かち合えることを期待したいです。

 

歴史遺産はただ、見て鑑賞するだけではその真価を見いだすことができないでしょう。現代に活かす価値を見いだしてこそ、意味があると思うのです。

 

石川氏の成功を祈りたいと思います。


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