171111 不適切と不正の狭間 <神戸製鋼所 データ不正 全容解明道半ば・・>などを読みながら
深夜に突然の豪雨が襲ってきました。穏やかなこの地方では珍しいです。そんな異常気象?が起こるとは予想だにせず雨戸を閉めていませんでしたが、ま、大丈夫だろうと横になっていました。案の定、うとうとした後寝入ってしまって目が覚めると、外は静かでした。明け方の曙光はないものの、空は明るく天候が回復する兆しです。
天気という自然現象は、悪天候でも、地震・雷・台風もまた、ある種繰り返されてもいつまでも続くものではないですね。でも人間の行いは正さないとなかなか直らないのを過去の歴史に限らず日々のニュースでも体験します。という私自身も日々体験していますが。
さて、今朝の毎日記事<神戸製鋼所データ不正 全容解明道半ば 外部調査、経営陣の関与焦点>は、川口雅浩記者が報告書と記者会見について、古屋敷尚子、和田憲二両記者は神鋼の経営悪化と取引先のとくに中小企業への影響を取り上げています。
毎日は、神鋼のこれでまでの品質検査に関わる問題を「不正」として追求し、他方で神鋼は今回の報告書でも、また社長の発言もあくまで「不適切」としています。不正と不適切は根本的に異なる性格です。どちらの表現が正しいのでしょうか。
過去の多くの企業不祥事でも、企業側は当初、不適切という表現を使っていましたが、かなりの案件で、その後不正と認めています。最近では東芝の不正会計などが良い例でしょうか。
で、この問題を取り上げたのは、この不正と不適切の分水嶺を企業側なりがどうとらえているのかという点と、なぜ今回の報告書では十分でなく、外部委員会を設置することになったのかという点について、疑問を感じたからです。
まず、記事をフォローしてみます。<神戸製鋼所のデータ不正 >との小見出しで、<・・・国内鉄鋼業界3位の神戸製鋼所が、自動車や航空機などに使われるアルミや鉄などの製品について、顧客企業に納入する際の品質データを改ざん。出荷前の検査を勝手に省略したり、顧客から仕様書で求められている品質に足りていないのに満たしているように検査証明書のデータを書き換えたりして出荷していた。>
つまり、品質検査が必要なのに検査しなかったり、検査証明書のデータを書き換えたりしたことが問題となっていて、神鋼はこれを不適切と呼び、毎日は不正と糾弾しているのです。
法令遵守など法規範的な基準に違反する行為であれば、不正ないし違法と指摘することが妥当でしょう。これに対し、本件では法令違反とか客観的な基準違反ということではないようです。問題の検査実施や検査証明書は、顧客との間の契約事項にとどまるのではないかと思います。その意味では契約違反であることは言えると思われますが、それが直ちに不正とまでいえるかは検討されてよいと思います。
ただ、コンプライアンスという視点に立てば、通常はこれだけの大企業ですから、こういった契約事項について遵守はコンプライアンスの対象となっているのではないかと思うのです。こういった検査にかかわる事項がコンプライアンスとして確立していなかった可能性がありますが、ざっと報告書<当社グループにおける不適切行為に係る原因究明と再発防止策に関する報告書>を読んだ限りでは、判然としませんでした。
顧客との間で取り決めている検査を実施しないことや、試験結果の書き換え(まさにねつ造)は、コンプライアンス違反と言うべきではないでしょうか。「不正」と評価することが正鵠を射ていると思うのです。
たしかに安全性に影響する検査そのものを怠ったり、あるいはデータをねつ造したのであれば、不正と言ってよいと思うのですが、間接的には検査はすべて安全性に影響する可能性があるのですから、コンプライアンスに反する行為ではないでしょうあ。
ただ、報告書では、神鋼では社内規格が高めに設定してあるため、過度に検査やデータが求められすぎであるとの意識が従業員の中にあったことも指摘されていますが、それは不正を不適切とする理由としてはお粗末ではないでしょうか。
ところで、次の報告書の意義・評価についてです。
この報告書では、調査主体の委員会は昨年6月に、同年に発覚した<神鋼鋼線ステンレス株式会社の事案を契機に、当社及び関係会社等の製品について、品質に関する法令及び各種の品質規格等が求める内容の遵守状況を確認するとともに、問題が確認された場合には、発生原因の究明と再発防止策を立案することを目的として、社長の独立諮問機関として品質問題調査委員会を設置>された経緯からみて、品質問題に特化した調査が行われてきたように思います。
その組織は役員を中心に内部組織で構成されつつ、外部有識者の支援を得たとしていますが、後者は名前すら挙がっていませんので、あくまで内部組織による調査にとどまっています。
その後神鋼が自認する「不適切な事案」がどんどん拡大したため、本年9月12日に4つのタックスフォースを設置して、自主点検及び緊急監査を継続して約1ヶ月後の10月25日で完了し、11月10日付けで原因分析と再発防止策を内容とする本報告書を発表しています。
私が気にするのは、この報告書では、第三者的には不適切の内容が抽象化されていて、単に検査未実施とか、試験結果の書き換えということに整理されているため、その実体が明確になっていない点です。むろん顧客先名と製品を記載しているので、詳細は企業秘密に関わったり、顧客先のノウハウなどにも関係するかもしれないので、どこまで開示すべきかは問題のあるところです。しかし、いずれも人が行った不正です。どのような不正が具体的に行われたかは、企業秘密に類する部分を非開示にしても指摘すべき事項ではないでしょうか。
たしかにこの報告書では、各事業部門ごとに、不適切行為を行ったのが個人か、複数かとか、長期間に及ぶかどうかなど、整理されていますが、それでは実体解明としては不十分ですし、再発防止策も適切なものかどうか、疑念が残ります。
だいたい、報告書で指摘されている遵守事項は、もっぱら(社)日本鉄鋼連盟作成の<品質保証体制強化に向けたガイドライン>ではないでしょうか。たしかにこのGLを各現場で具体化し、各従業員が理解して遵守すれば起こりえないことです。それがなぜ起こったのかについては、この報告書を読む限り、現場担当者の意識が現実なものとして迫ってこないのです。
この報告書では、10月26日付けで外部調査委員会の設置が記載され、その目的も次の4項目となっています。
<① これまで実施してきた自主点検・緊急監査及び一連の不適切行為に関する事実関係の調査の適正性、妥当性の再検証
② 公表済みの案件に対する調査の適正性、妥当性の再検証
③ 不適切行為の直接的な原因に加え、企業風土、コンプライアンス及び組織運営体制といった背景となる要因の究明並びに再発防止のための改善策の提案
④ その他外部調査委員会が必要と認めた事項>
なぜこの委員会が必要になったのかについては、言及していません。川口雅浩記者は<神戸製鋼所が10日に発表した品質データ不正に関する報告書は、本社や経営陣がどの程度関与したのかなどが解明できていない不十分な内容で、最終的な調査は外部調査委員会に委ねられる格好となった。>と指摘しています。
たしかに上記③あたりをしっかりと調査検討してもらえば、霧が晴れる可能性もあります。しかし、現経営陣のスタンスからは、調査への協力が得られるか心配です。
また、委員が元高検検事長、元高裁長官と元検事(いずれも現在弁護士)の3名で、たしかに多くのスタッフの協力を得られるでしょうけど、年内に報告というのですから、そのような短い期間で、これまで経営体制や経営陣個人の責任問題にまで十分調査検討する余裕があるか心配です。
外部調査委員会と呼び、第三者委員会と呼称していない点はまだ誠実かもしれません。なにせ経営陣が選定し、短期間に結論をだせというのですから、はたして日弁連ガイドラインが求めるような調査が可能か、注視していきたいと思います。
今日はこれにておしまい。
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