「沖縄通」という病理
11月29日に更迭された田中聡沖縄防衛局長の暴言の根は深い。この背景を究明するためには、更迭の原因となった「犯す前に犯しますと言いますか」という発言以外に同月28日夜の懇談会で田中氏が述べた事柄にも目を向けなくてはならない。
1995年の米兵暴行事件で当時のリチャード・マッキー米太平洋軍司令官の「犯行に使用した車を借りる金があれば女を買えた」との発言について、田中氏は「その通りだと思う」と答えた。また田中氏は、「(400年前に)薩摩に侵攻されたときは(琉球に)軍隊がいなかったから攻められた。基地のない平和な島はあり得ない」との認識を示した。
これらの暴言を田中氏の個人的資質に還元してはならない。防衛省という組織に沖縄に対する差別意識が構造として染みついていると見るべきだ。
田中氏は若いころに防衛施設局職員として沖縄で働いたことがある。沖縄における米軍の性犯罪についても熟知している。それなのに「犯す」という言葉をどうして用いたのだろうか。それは田中氏が被害者側になることは絶対ないという認識を無意識のうちに持っているからだ。
また琉球・沖縄史に関しても、田中氏は一定の知識を持っている。しかし、その知識は沖縄に対する理解にはつながらず、沖縄の米軍基地過重負担の正当化にその知識を用いる。
戦前、戦中の日本軍に「支那通」と呼ばれる人々がいた。中国語を巧みに操り、中国の歴史や政治情勢に関する知識もある。この人々は中国を植民地支配の対象とみなし傀儡政権樹立やアヘン販売などの謀略活動に従事した。「支那通」は日本軍の利益に反する中国人を躊躇なく暗殺した。
田中氏の沖縄に対する視座は旧陸軍の「支那通」に通じる。県民を同朋と考えるならば、オフレコ懇談でこのような暴言を吐くことはできないはずだ。田中氏のように沖縄を支配の対象と見なす「沖縄通」という病理を抱えた防衛官僚が何人いても、東京の中央政府と沖縄の関係は改善しない。
「沖縄通」の論理は、防衛事務次官を務めた守屋武昌氏の回想録『「普天間」交渉秘録』(新潮社)に端的に示されている。守屋氏は、「協力するから国も譲ってほしいというのは、沖縄の常套の戦法です。これまで何度政府はこれに引っ張られてきたか。国の担当者は2年ごとに代わるので沖縄のこの手法に気がつかないのです。妥協すればこれで終わらなくなる。次から次へと後退を余儀なくされます」と主張する。沖縄に妥協せず辺野古移設を強行すべきとの信念を守屋氏は持っていた。
「沖縄通」の守屋氏は収賄罪で2年6カ月の懲役が確定し社会から隔離されているが、構造的差別のイデオロギーである守屋主義は田中氏をはじめとする防衛省の「沖縄通」に継承されている。
田中暴言事件を契機に防衛省が取り組まなくてはならないのは、組織に染みついた沖縄に対する差別意識を脱構築することだ。
(以上、沖縄タイムス佐藤優のコラムより)
こlれは興味深いコラム。
田中局長の暴言はオフレコ発言が記事になったことが問題になったが、それは本質ではない。
佐藤優は暴言の背景に防衛省に染みついた沖縄に対する構造的な差別意識があることを指摘している。
沖縄の基地問題は防衛省に差別意識があるかぎり解決しないだろう。ではまた。