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(弋工の思い出 3)………今度はレッカーのオペレーター(運転手)が蒼い顔をして来た。 鉄骨を吊り上げていたら、左右の弋の合図が違っていたそうだ。
80㌧レッカーは重量を吊り揚げる力はあっても、揚重する速度は少し
遅い。
全速旋廻でもゆっくり動くようにしか見えないので、弋がイラ起った
ようである。
弋の一人は早く巻き上げ(上移動)と言い、一人は廻せ(旋廻)とオ
ペに合図したのだが、オペは安全上、自分の判断で一旦動きを停止した
ら、二人からボルト(リポビタンD程度)が運転席に向かって
投げつけられたのだ。
「で、被害は?」
「重機(レッカー)に傷が少し付いたのはイイが、もうこの弋さんとは
やってられない!」
「弋はどうしてる?」
「鉄骨から(地面に)降りてどこか行った、鉄骨は吊ったままですよ」
少々の風では動かない鉄骨梁だが、宙ぶらりんは危険な状態だ。
「とにかく梁は地面に一旦降ろしてから、話をしよう…よね」
相当、オペさんは頭に来ているが、なだめる言葉も見当たらない。
最初から弋とオペさんの連携は上手くいっていなかったらしい。
そこまでの配慮が出来なかった私のミスでもある。
「まだ先は長いし、ちょっと弋の社長を呼ぶから、皆で話し合いをしよ
うよな?」
「弋を代えるか、私が出て行くしかないでしょうよ…」
「そうかも知れないが、所長に相談もしなければ、俺は何も言えないよ…」
「オペやって20年以上なるが、こんな弋さんグループは初めてだ、私は
もう出来ません!」
「交替するにしても、事情をはっきりさせておかないと、次ぎのオペさ
んが困るから」
「・・・(次ぎの人には悪いことを、押し付けたけど…)・・・」
とにかく、私もはっきり言ってここから去って行きたいので、一触即発
でケツをまくる腹づもりは出来ていた。
鉄骨工事がかなりの工事量を占める現場であって、鉄骨建方にマゴつい
ていたのでは話にならない。
どうやってこの状態を乗り切るか・・・
(内輪話から得るものは何もない…のでここでの話は省略しますが、弋職
人は交替メンバーがいなくて、オペさんを交替させるしか無かった)
竣工まで鉄骨建方のみならず突貫状態は続いたが、重大事故がなかった
のは幸いである。
工事全般に於いて苦心した割に儲けも出ず、イイ思い出もなく、教訓に
なるものもなかった。
高層ビル・マンション・体育館・大劇場など色々な鉄骨造の建物を経験
したが、鉄骨建方の度にこの現場を思い出して複雑な心境になり、
同じ轍は踏まないように反省もしている。
底辺を経験しただけにその後の鉄骨工事は気合が入っていて、現場は
順調に進んでも気持ちは悪い方向ばかり憂慮して、鉄骨建方にはどうも
笑顔を忘れているようだ。
《続く》・・・コメント待ってるからね~
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