建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

ピラミッドからの発信

2017-04-21 08:33:07 | 建設現場

…………………………(ピラミッドからの発信)…………

 

 シンプル・イズ・ベスト。

これが基本であればどんなに建設現場が楽になるかと、何時もながら思う。

新しい現場の設計図面を開いた時に、円の部分、しかも楕円が使用されてい
れば施工方法の煩わしさが即、頭に浮かび、
「ゲッ?真っ直ぐにしろよ、ナンの為に曲げているンだ」
と誰しも設計者のいない所で口にする。

「いいデザインですね?」
ナンて口が裂けても、言わないしゴマをするまねさえも出来ないものだ。

墨壷と墨糸を使って線を引けば、必ず直線である。
AB二点を結べば直線であるという数学の基本を離れて、直径が1㍍の円になる公式を
まだ覚えていますか?5㍍の円になる式は?

ついでに楕円の公式を覚えていますか?
建築稼業に足を入れているので、構造力学の解析にはサイン・コサイン等の
三角
関数に触れる機会は多くあるものの、2次曲線は願い下げて
もらいたいものだ。

ラグビーのボールをイメージした総合体育館、楕円形の結婚式場も経験したが、
自信を持って創ったものとは言えず、楽しい思い出よりも苦しかった
思い出の方が
多く残っている。

学生時代でも数学は好きな分野ではなく悪戦苦闘していたのに、この歳になっても
まだ数学から抜けきれない仕事をしているのは、悲しい運命とあきらめるしかないのだ。

運動会などで半径10㍍の円を白線(粉石灰)で描いた経験はありますね。
でも建築現場はそれより大きな円で、幅1㍉の太さで正確な円形が
必要なのです。
しかも、中心点が隣の敷地にあり建物の中という場合が多いのである。

どうやって円・楕円を正確に地上に描くのかと考えるだけで嫌になり、
ここで
説明するのも面倒であるが、現場作業はその何十倍も
クソ面倒である。


 建物として使用していく上で機能最優先を願っても、設計者は世界に一つ
の建物に
なると言う大義名分からデザインに心血を注ぐのが悪いとは
言えないがUFO
でも連れて来て、地上に巨大なコンパスがなくても
「大きな円形が描ける」とでも信じているのでしょうね。

シンプル・イズ・ベストの代表的建築物『ピラミッド』について、
ふと話をしたく
なった。

98年にエジプトに観光に行って実物のピラミッドを眺めて以来、シンプルに
せられたの如く《さりげなさ》というものに敏感になったのかも知れない。

単純な四角錘のどこに魅力があるかと言えば、単なる建築物観光旅行の気分
から
外れて、建築屋として眺めれば、これほど興味をそそるものはないのだ。

これが王様の墓であろうと、財宝が眠っていようと私には一滴の興味もない。

 先ずは147㍍の高さ、これをどうやって建造したかが興味の第一歩目である。
今から4500年も前(日本は縄文時代)に創られたそうだが、現代の
建設機械を総動員しても簡単に
創れるものではないのは検討するまでもなか
ろう。

これを建設現場の所長の目から見て、話をすれば……。

一辺が230㍍もある正方形を、測量機械が無い時代にどうやって測定したのか
ある。

正方形の四辺の最長と最短の誤差を測量すると20㌢しかないという。
野球場のホームベースから最深外野フェンスまでが110㍍としてもその倍以上
ある長さであっても、正方形(誤差0.08%)である事に驚きを持つ。

底面積が53,300㎡あるところに石を積むのであるが、石の数が230万個
以上になり、その重量が600万㌧になり、杭のない地盤にそびえているの
である。

外装が盗掘されているが、外装化粧石も15,000千個あり、一個10㌧程度
あったそうだ。

そこで147㍍もの高さ迄、なおかつ建設中の中心点の115㍍まで届く長さの
レッカーの先端で吊り上げるとして、一個15㌧以上の石が何万個もある。

標準的な一個3㌧の石さえ数百万個もあれば現代でも吊り上げられるクレーン
無いだろうし、レッカー形式で作業したとの仮説は成り立たない。

エジプトの政府公表資料が間違っているのか、私が夢を砕いているのか……。

さらに加えて、20年間(20万人)で創ったという事を工程的に見てみる
と……。(ここからは電卓用意してから続きを読んでネ)

20年間休まず働いて完成させたとしても、一日に310個設置する事になり、
一日10時間働くとすれば一時間に31個、なんと2分間に1個の速さで、
3㌧~
15㌧もある石を、毎日積み上げた事になるのである。

発想を変えて、一日に310個設置の為に310箇所で作業をすれば、各所で
一つの石を一日かけて一個設置との計算式は成立する。

しかし、20万人で創ったのならば年間1万人であり、一日当27人となるし、
310箇所
で作業していれば(310÷11)一人が11箇所同時に立っている事に
なり、計算式は成立しない。

仮に3㌧の石を人間が地上から5㌢持ち上げるとしても何人必要であろうか。
冷蔵庫一個を私一人の力では持ち上げられない事から換算しても、
(ピラミッドの石は冷蔵庫より大きいのが80%以上ある)
3㌧の石を持ち上げるのに一人が100㎏負担しても30人が必要である。

30人が310箇所で作業すれば9300人になり、20年(7,300日)を掛けると6,780万人となり
20万人とは桁が違う……私の計算は間違っているのだろうか?

採掘する人とか運搬人は計算に入れてないが、エジプト学会発表の《20年間
20万人》とは、偉大な数値であるが、違っているような気がする。

(ピラミッド 2) へ続く

 

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一発十万(2)

2017-04-06 10:45:18 | 建設現場

…………………………(一発十万 2)…………

足場の解体中は弋職人も神経を使うものだ。
組み上がった足場はビクともしないように控えが取り付けてあるが、少しでも
解体すれば不安定この上なく揺れ始めるし、歩くのも怖いものだ。

手摺と養生ネットを撤去するのに時間はかからず、弋さんは控えから順次解体
を始めた。

一番上で照明器具を取り付けている人は、足場の揺れを感じながら作業出来るものではない。

「もう少し待ってください」
「約束時間だ、待てないぜもう」

と言ったか言わないか定かでない。
若い弋職人から右ストレートが2発、左フック1発が電気屋さんの顔面に入た。

電気屋さんは倒れたがそこにも2発入ったという。

電気屋さんと弋さんの取っ組み合いになったと聞かされて、私が現場に駆けつ
けた時は騒動の後だったので、詳しい事は分からないまま、先ず足場の解体は
ストップさせた。

(徹夜でもして、朝までには解体させねばならない)
時間も迫っているが、この業者の始末をせねば先に進まない。

電気屋さんは、
「もう二度とここには来ない、照明も他のメーカーに変更して取り付けて
ください。俺達は今から引き上げる。殴られて仕事なんかやってられない」

お互いに、いままでの鬱積が爆発したのも事実であろう。

しかし、今は、明日出直して…と言う時ではないのである。

所長は、
「福本、話つけて来い!」
といつものように丸投げして、またもや私の出番である。

別途業者の電気屋さんは当然施主直轄の会社であり、こちらが先に手を出した
のであるから、全く申し訳が立たないし、しかも施主に頭を下げに行くのが
私とはね……。

それよりも、足場を解体せねばならないし、照明器具も吊り下げが終わって
いないし、話を付ける時間さえ、今はないのである。
「とにかく、話は明日、俺が取り持つから、ケガ人は病院に連れて行く、
電気屋
さんはすまないが仕事を終わらせてください。足場は揺れないように
復旧させ
ますから……。弋は全員待機して残業の増員応援を手配しろ!」

一気に喋った私も興奮していたのであろうが、周囲もゴソゴソと手を動かし
始めた。

病院に行った人は鼻血を出した程度で、
「三日間は打撲あざが残るでしょう」
となったのは幸いであった。

翌日は電気屋さんと弋の親方の両方を現場打ち合わせ室へ召集した。

「今日は誰もここに来させていません。明日以降も白紙です!」
まだ怒りが収まっていないのも分かる。

「手を出したのは全面、謝り致します。治療費も全額負担します…」
「ケガをしにここに来ているのではありません。引き上げさせて下さい」

「それでは施主にも申し訳が立たないから、仕事は継続してくださいま
せんか……?」
と電気屋さんがいかなる条件を出しても、継続を頼むしかない。

「結局、顔を殴られた人のメンツもあるし、お詫び料で話に乗って
くださいませんか?」
としかこの際、決着はなかろうと私は提案した。

しばし沈黙・・・。

「5発頂いたので50万頂けますか?」
「はい」
と即、答えたのは、決着の丸投げを命ぜられた私だった。

電気の仕事も弋工事もまだこの先に山と残っているのに、引き上げるとか、
一発が高いとかゴタクを聞きたくもない。

一日仕事が延びれば50万どころの損失金額じゃあ済まないからだ。
(7人グループが3日間の休業補償もあるンだし……)

その晩、両方の社長と居酒屋に行って酒を飲み、握手をさせたが、
気まずさは……残った。

所長抜きで決着をしたのも問題であるが、職人さん同士の空気の重たさが
漂っているのがどうも気になるところである。

一発10万円が高いか安いかの話ではなくて、現場の雰囲気が暗くなって
いけば、
小さなきっかけで大事故になるのである。

仲良く仕事をしていれば、電気屋さんが終わるまで待っていただろうし…の
タラレバ話はしたくないが、チームワークよく仕事をさせていない現場監督が、
今回の原因の火種である。    (一発十万円 終)

 

これは事故なのか事件なのか、血気盛んな人が大勢いる中で、おこりうる
問題であり、対処する仕方も、どこかで学んでおこう・・・

次回はシンプル イズ ベストーーピラミッドにまつわる話をしよう。 

 



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