建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

左官工事を応援しよう

2024-05-27 08:28:02 | 建設現場 安全

 十一月  七日(火) 雨        

 昨夜の雨がまだ降り続いている。通勤途中から、
(また開店休業かなあ)
 と、根性が薄れていく頼り無い出勤だったが、8時半頃に左官工が8名も集合して来た。

「何事だ皆んなで?ヒヤカシか?」
「雨で予定していた所がダメ(作業中止)になったので、Kビルへ来たヨ」
と言う。
と言うのは3人位でコンスタントに毎日仕事をしてくれれば、全体の工程の流れもよくなるの
に、
思い出したかの如くに(気まぐれ的に)現れては手際良く(?)職人を集中し、2~3日仕事をし
てはまた
御無沙汰(他の現場が主要な手持ち工事)のメンバーだからだ。

今日も全く電話一つもなく、予定のない打ち合わせ場所に突如と『殴り込み仕事』だ。
今日は全
員で階段室を徹底的に完成させる事を約束した。
 雨には関係なくて、たまたま今日はKビルに職人の数
が少ないので、この際階段室の左官
工事と吹付タイル下地を一気に終わらせる事にした。

 今までのKビルでの左官工事としては、階段防水モルタル塗りとバルコニーの床防水モル
タル
塗りが主工事で、後は「直押さえ」と「打ち放しの補修」だ。
 コンクリート直押さえという仕事は作業時間から考えると、単価の安い部類に入るだろう。
やはりモルタルを練って鏝(こて)で仕上げるのが左官屋さんの工事としては、仕事らしい仕事
だろうと私は思う。

 ―――余談―――(左官工事について)―――――

   建築工事の中で器用さを一番持っているのは、左官ではないかと私は思う。
       左官工事とはモルタル(セメントに砂と水)を練って壁を塗る、床を塗る位
       しか思えないが、躯体(コンクリート)の補修迄面倒見ているのも左官工だ。

    左官工といえども、鋸(のこ)も持っているし、トンカチも、コンクリート釘も
       水糸も、下げ振り・差しガネ・墨壺までもが必需品だ。

    ここで一枚の壁、柱にモルタルを塗るとしよう。
   コンクリートをチェックすると7㍉中央が膨らんでいたり、上下で5㍉ズレ
      ていたりもする。
       通り(一直線の部分)が『斜めにまっすぐ』の場合もある。

      これらの表面を垂直・水平にするには―――と計算すると頭がハゲる。
     左官の世話役が下げ振りを降ろして「ここは20㍉塗ろう」と決める。
     モルタルの厚さで調整するしか方法はない。

    コンクリート面にジャンカ(す、豆板)があって、そこを斫り取って、補修
     ンクリートを注入する為の型枠を作ってくれるのも左官工だ。

   躯体コンクリートは仕上げラインより幾分控えて作り、後からモルタル
   で詰めて仕上げ面を調整してくれるのも左官工だ。

   タイルを貼り付ける下地調整(コンクリート面からタイル仕上げ寸法を
   引いた(除いた)所迄塗りつける)、直押さえ後の傷穴の補修、大工が 
   型枠材搬出用に開けた 穴の処理………等、実際にどうしてこれが
   左官仕事なのか、左官工に補修させ るのかが、全く分からないまま
   に左官工に頼んでいる。
   
   当然こんなモノは左官工事契約内には含まれていない。
   見積りのやり様がないし、どれだけ手間がかかるものか想像も予想も
       出来ない。

     『常傭』といって一日一人当たりの賃金を決めて、かかった出面分を
      支払う。

      だが常傭仕事は遠慮させてくれと言う。
   他にいくらでも本業の仕事が有るのだ。

    クロスを貼る、あるいは直接ペンキを塗ったり、タイルを貼ったりす
     ると言 っても、その仕上の精度が指摘されると、下地調整の不備の
     せいにされる。
        ペンキの場合は左官のコテの波が横からの光線で見える場合も
     ある。
   モルタルが収縮してクラックが入り、モルタルが浮いた状況になって、
    叩くと ポコンポコンと軽やかな音(実際は聞きたくない音)
がする場合には、
  薬液を注入してくっつける。

   これが全て左官工の責任だと言う人もいるけれど、決めつける訳にも
   いかない。
 
   コンクリートからシャレた(?)出っ張りを作っていても、最終的に大き
  さ
と通りを揃えるのは左官工だ。
      水平器とか下げ振りを使い、時には部分的に斫(はつ)
り取ってでも
  仕上げよう と努力するのだ。
       
    また左官工の一番の腕の見せ所は、階段室のボーダーだろう。
    階段は角度
があり各段は同じ高さを保ち、角にはRが付いている。
    手すりがそこから
立っているし、ステンレスの手すり柱とか階段溝
      などがあると、もう最悪パニック突入だ。

   ボーダーのみならず、左官工事そのものを肉体的に換算すると安い。
      モルタルをネコ車一杯分作ってみると体力消耗の度合いが良くわかる。
   そして
運搬して、ネコ車一杯でどれだけの仕事が出来るかという事
   を考えても、この
肉体労働+器用さを要求されている左官工は、
   大変な作業といえる ものだ。
     

   おまけに、おまけにこの左官工事は造作材とかサッシュを汚す。
      ネコ車で運
搬中に仕上がった所を傷つけるとか、車輪の跡とかモル
   タルが付着(つい)たとか、壁
を塗る時に落ちたモルタルが床材に
   シミをもたらす事は昔の「泥土壁塗り時代」の常識そのままである。
       だからキラワレ者
の一番手にあげられているのも事実だ。

         だから、左官工事を無くそう、減らそうと『乾式工法』を取り入れる
   設計事
 務所も多くなって来た。
         しかしこれは表面しか見ていない人の発想で、現場は左官工に
   よって躯体か
 ら仕上げへの《橋渡し》がなされているのを、忘れない
   で欲しいものだ。

    私だって、豪華住宅の設計または監督を任されたら、汚れる作業
    としての品
物は極力避けると断言出来る。
     私、別に左官工の息子でも親類縁者に左官工がいる訳では決して
    ない。

        「左官に頼むと金がかかるので、お前が直しとけ」
     と先輩所長さんの《いいつけ》を守っていた頃から、左官工に色々
    と助けて
もらっている(今もって)私の完全な『偏見』なのかも知れない。――――――

とにかくKビルは今日の左官工の集中工事で、階段室の吹付工事の予定が、来週には今日
塗っている下地の乾燥次第で可能
というメドがたった。
早速吹き付け工(S塗工店)の水野君に打ち合わせの電話を入れた。

「昨日見た時は何もされていなかったので、まだ段取りしていませんが・・・」
「なにボヤッと見てるの、もう明日で吹付下地補修終わりだよ」最後には、
「来週の終わりには、吹付タイルは完了だからね……いいね」

今日は「雨降り日」の作業としては成果のあった一日でもあった。

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命綱の使命・役割(Ⅱ)

2024-05-13 08:08:12 | 建設現場 安全

命綱の使命・役割    ――― つづき―――

鉄骨工事、これには絶対必要だ。
親綱が無いと柱に直接巻き付けても墜落防止を心掛けるのは、危険性を肌で感じられ
るからだ。
だからと言う訳ではないけれども、弋(とび)さんが墜落したというのは滅多にしか聞かない。

鉄骨の上でボルトを締める時、安全ネットが張ってあっても危険を感じられるの
で、鉄骨
の上では誰もが用心して(気を引き締めて)作業する。

命綱の着装・使用の問題ではないのだ。
《気持ちの問題》が大きいと私は思う。

この鉄骨の上にスレートとか折版(せっぱん=トタン板の様なもの)で屋根を葺(ふ)
業種の職人さんは比較的、墜落事故に遇いやすい条件は揃っている。
でも、屋根の上には命綱を固定し引っ掛けておけるモノ(親綱類)は何も無い。

それでも万一事故が発生すると、
「命綱を着装してなかった、使用していなかった」
を理由のトップに掲げている。

だから今後の対策として
「命綱を着用しよう」
と結論を書く。
これで墜落事故が無くなれば、万々歳だ。
空を飛べない限り『猿も木から落ちる』と言うではないか。
(この場合意味が違ったが、落ちると言う事をいいたいのだ)

命綱に頼るよりも、落ちる穴を落ちない様にフサグ事が先決なのは、皆承知
なのだ。
屋根の上ならここを通りなさいという専用通路を作る。
マンホールの蓋(ふた)は鎖付きとして、必ず蓋を閉めておく。
人が落ちそうな所はネットを張る、
スキマは塞(ふさ)ぐ、手すりは必ず取り付ける―――。

全て結構な事で重要項目だ。
安全勉強会ではイイ答えを出して、合格点をも
らっているのに、現実は危険が・・・。

建築現場を知ってか知らずか、5Kの中の一つ(危険のK)が言われているのが、
気に掛かる所なのだ。

安全、安全と常に言っているのは、裏を返せば危
険がいっぱいに思える様だ。
だが、やる事をきっちりやり、不安全行動を各々
が自覚すれば、事故はかなり
防ぐ事が出来ると、皆も思っている事だ。

とにかく、現場内の安全監理は終わりがない位に、やるべき事が多い。
これを、
『統括安全衛生責任者』
という腕章を巻いた、現場最高責任者は
「全
て毎日、最大もらさずチェックしなさい、事故が起きると全てあなたの責任ですよ」
と含みを持った任命書(現場辞令書)を、所長は頂く。

時には業務上過失致死の容疑で、警察に手錠出頭になる場合(出頭の責任アリアリ)は
『社長代行してる所長なんだよ』
と言う意味の任命書なんぞ、私は欲しくない。

《落ちる》から対策を考えるのか《落とさない様に》対策を考えるのかの、
発点によって、安全に対してのチェックも変化して来るのではないだろうか。

「命綱を着用させていたが本人が使用しなかったので墜落したのだ」
と責任の一端を逃れる様な監理、命綱着用、墜落防止注意の指導、看板の掲
では意味は無く、安全監理だとはとても言えない。
事の本質は、
『危険な所を作らない・放っては置かない事だ』と言ってみた。

いとも簡単な結論だが、墜落事故だけは首から縄をかけて(この場合命綱を
付けてが正解かな)でも、起こしたくない。

何も高い所からの危険だけでなく、たったの1メートルでも、後方へ倒れる
と(プロレスのバックドロップ)になって、
『1メートルで《イチメイ(一命)》取る』
事にもなりかねない。

特に脚立とか梯子を使って、簡単な作業でしかも比較的低い所こそ、思いも
よらない重大災害が待ち受けている。

ここでも、ひとたび事故をおこすと『命綱』が論ぜられるものだ。

実際、脚立の上で命綱をどの様に・・・しろと・・・だ。
『命綱の有効活用』が決めてなのだが、結論は出ない。

有効に使おうと前向きに考えれば、現場では常に命綱を先ず着装し、重くて
も腰に巻いて仕事をする。
(最近は両肩にタスキ掛け(命綱2組)するように指導もしているよね)
イザという時に身を守る事が出来る感覚を持ちたい。

命綱の重さを感じれば、墜落の怖さを予知できると思える筈だ。
重いから、低いから、引っ掛ける所が無いから、あれば仕事にならないから
等の言い分を聞いていたら、結局は
「着装したくない」
という事を前提にして、安全
を語っているとしか、私には思えない。

私自身、命綱を付けて設計図を脇に挟んで現場内を巡察するのは『矛盾』を
感じるし、正直言っ
て嫌いだ。

現場の決まり、会社の決まりなのだから―――という押し着せのも
のだからか、
命綱に対する恩恵を受けていないからかで、考えの別れ道だね。

鉄骨工事の現場なら、擦り切れる位まで使うほどの命綱だから、本来の使用
目的に合った安全教育でいいと私は言いたい。
我身を守ってくれる『綱』だもの、行動に於いて『命綱』に感謝しよう。

―――命綱を『語る道具』にして欲しくない……これが私の結論だ――――

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