建設現場の卵

建設現場からのエッセイ。「建設現場の子守唄」「建設現場の風来坊」に続く《建設現場の玉手箱》現場マンへ応援歌。

外壁クリーニング

2024-03-18 08:18:51 | 建設現場 安全

十月二十八日(土) 晴れ  

外壁のタイルクリーニングを行っている。
この洗い工事が終わるといよいよ足代(あしば)の解体だ。

タイル、ガラス面に遠慮なく水道ホースから水をかけてピカピカに洗っている。
下の階で窓でも開いていたら大変だ。
クリーニングをしながらもう外壁仕事で忘れ物がないかの最終チェックを足代上で巡回する。
ベンドキャップ(換気孔のガラリ)や換気扇の周辺のシーリングは終わっているか、完全かを
一つ一つマークしていく。

 仮に養生のガムテープ等が残ったまま壁に付いていたりしたら、再び足代を組立てて、取り
除きに行く事になるので、最終チェックは入念に行った。

タイルも専用のハンマーで抜き打ちに叩いてみる。
しっかりくっついていないと、剥離(はくり)落下する事もある。
目地が十分詰まってないと、漏水の原因にもなる。
一応タイル貼り工事完了の時、チェックを
しているが、クリーニングを行って総てがキレイに
なった時は、感じが全く違う。


これで世間の目に触れるのだ、私達の《創ったもの》を見せるんだ《生き甲斐》も見せるんだ
というこの気持ちを若者に伝えたいなあ―――この喜びを。

体にシビレる位にジンジン来るこの心臓へのビートは何なんだ。
まさに、幕が切って降ろされたと言うべくこの快感を味あえば、もうこの仕事はやめられない。

タイルを専門に洗う職業があるなんて、全く知らなかった時代が懐(なつか)しい。
タイル工が外壁を貼り上げていっても、一向に目地が詰まっていかない。
(おかしいなあ、目地だけどうやってモルタルを入れるのか、詰める方法は何かあるのだろう
か?タイルは汚れないのかなア・・・)

今はそういうものだと思う事でも、学校を出た時には全くの素人だったのだから、見る物全
てに興味津々(しんしん)だった。
今もって、この「首を突っ込みたがり屋」「目立ちたがり屋」は直っていない。
『昔のままだネ』と旧知の友から、先日も笑って言われてしまった。

 それはさておき、このタイルの目地の詰め方は、目地用モルタルと言って着色材料と共にセ
メントモルタルを作り、壁面一面にベッタリ塗り付ける。

まるでタイルの《顔面パック》だ。
そして目地が大きい時は目地ゴテでスジを付けて目地を表すけれど、5㍉以下の目地の場合は
パック
の拭き取りを兼ねて、押し込むだけだ。

折角のタイルの色もこのパックの御陰で台無しだ。
タイル面を拭き取りして行けば、自然に目地が埋まって行く理屈による作業であるものの、
タイル表面まできれいに拭き取りが出来ず、乾いた頃にはパック後が現れる。

だから、どうしても最終的にはプロのクリーニング工がタイル面を洗う(仕上げる)事になる。
何だか無駄な事をしていると当初は思っていたが、いまだにこれは進歩していない。

このタイルクリーニングと同時にガラスもクリーニングを行って仕上がりだ。
ガラス工事には『クリーニング費』が工事予算見積り書の項目の中に必ずある。
タイル工事にも有る。
業者からゼネコンへ提出の時にキッチリ明記してある。
これは不思議な見積り(内訳項目)だと私はいつも思うし、指摘する。

「自分の持分の仕事を(出来る、出来ないかどうかは別にして)自分で目地モルタルパック
汚して、何でクリー
ニング代を求めるのか」と言う疑問だ。

 請負仕事なのだから仕上がっていくらの世界だと思うけれども、クリーニング代も工事費に
含んでいるとは、景
気のいい時代に誰かが決めたのだろうね。
あくまで、タイル貼り工事に含む単価で勝負して頂きたいものだ。
(汚した物は汚した人が片付ける、これ常識)
これが国の会計監査に引っかからないのは、私には納得しかねる問題だ。

それにガラスのクリーニング代もタイルと同じく見積り計上してある事だ。
ガラス屋さんの取り付けたガラスは汚れてはいない。
『ガラスに注意』という紙の札をべタベタ貼って透明ガラスへの接触防止をするくらいキレイで、
工場から出たままをカットして嵌(はめ)ているものが、何でクリーニング代を計上するのか、自分達
でベタベタ貼った注意用《はり紙》のノリの後をクリーニングなのだろうか。

「竣工時のガラスのクリーニングはガラス屋さんの責任ではない」
と思えるのだが、誰も追究しない。
ゼネコンがクリーニング職人の手配を心配しなくても、
『ガラス工がいつも何とかする(手配をしている)ので黙っていればイイ』
という考えなのだろうか。

見積りを業務としてるプロの方は『慣例に従っているだけだ』と答えるのだろうか。
私の考えどこか変ですか?教えていただければ幸いです。

ともあれ、クリーニング工事は東面の外壁と窓ガラスも一通り完了した。
明日の日曜日に雨でも降ると、足代からの跳ね返り水で汚れるけれど、天気予報は晴れだ。
足代の解体準備は整った。

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防水押えコン打設の思い出

2024-03-05 08:02:55 | 建設現場 安全

十月 十七日(火) 晴れ

屋上アスファルト防水層の上に保護コンクリートを打設した。
水張り検査迄して完璧な防水層の上にコンクリートを打設するのは、アスファルトは熱に弱
いし、屋上を歩くにも防水層のままだとすぐに傷が付いて、補修どころの話ではなくなって
しまう。
この保護コンクリートの打設仕事は昔から業者泣かせの作業である。

と言うのは保護コンクリートとは、伸縮によるための目地を設けて、鉄筋の変わりにはメッ
シュ筋を入れてのコンクリートとなるからだ。

保護コンクリートには目地が入っていないと、コンクリート表面がクラック(ヒビ割れ)だら
けになってしまう事がある。
原因は温度によってコンクリートが考えられない位に伸縮するからだ。

 アスファルトの上に8㌢程度の厚さでコンクリートを打設しても、アスファルトとコンク
リートの境目は縁が切れている(完全にくっついていない状態)の上、太陽熱による伸縮を
コンクリートはもろにうける。

 線路のレールの継ぎ目と同じ考えで、コンクリートでも20㍉前後の切れ目(目地)を、3m
角(約9㎡)以内で仕切れる位に取り付けるのが、普通だ。

この目地で昔、事件があった事を思い出した。

―――昔、昔のお話、(1)―――――
        目地に既製品がなくて、ヌキ板をコンクリートに打ち込んで、板を取り除
       いた部分に、杓(しゃく)で再びアスファルトを流し込んでいた時代。
        真夏にはコンクリートが延びてこの目地アスファルトを押し出すのだ。
        逆に真冬は縮んで目地が開いてしまう。
       押し出されたアスファルトは戻っては来ない。その年の冬の間では隙間も
      大き くなってしまっている。


       そして春から夏までには目地には雑草が生えて来る。
       防水工事に手を抜いた、抜かないの論争のあと、
    「たった一年間でコンクリートに草が生えるものか、支店長を呼べ」と来た。

  結果として言い訳を言っても始まらないので、再びアスファルトをオーナー
  の指揮(目の前)で納得行くまでたっぷりと注入をした。
  それでも2年後は想像通りとなってしまった。

       今は伸縮目地も研究されて、屋上も見栄えが良くなった。
      この既製品の伸縮目地が世間に出始めた頃、事件があった。

   ―――昔、昔のお話、(2)―――――

        伸縮目地の名称(商標)の後ろにSが付いていた。
  《○○○○S》とだけ設計図に書いてあって、私はソフトのSと考え、監理者は
         スーパーのSだと思い違いをしてしまった。
       (設計事務所はストロングのSだなんて言ったりしてね・・・)

       官庁発注の大型施設であり、延メートルで800mは越えていたと思う。
      単価が1000円違っても80万円の差が出て来る。
        実に各自が自分の都合のいい判断をしてしまい、現場はストップしてしまった。

  材料は私の手配でソフトがもう入荷済である。
    「取り替えろ
    と監理者は迫る。
    「どこにスーパーと書いてあるの?」
     私も若さで突っぱねる。
    「ソフト承認した覚えはない
    「願い出る迄もないでしょ、設計図通りの《○○○○》が入っている、梱包
      のダンボールにも設計図通り記入してある実物ですヨ」

  この件で一週間は決着がつかなかった。
  官庁の建物であるし、竣工検査はいいとしても、来期には会計院監査がある
      と いうので、ハッキリさせておくという事になった。
      これに引っかかると説明が付かないので、ソフトかスーパーかあるいはスト
      ロングか結論を出す迄『待ってろ!』の一声だった。

      たかが押さえコンクリートの伸縮目地で一週間も待っていられるものか。
     それでも監理者(お役所)としては「待て!」と言うものだから、ついつい
    「工期も延ばして頂きたい!」
      とイヤミを言って「プッツン」と切れてしまった。

  本庁としては、アスファルト注入に替わるモノとして、新規に取り入れた物
    件で別に(S)にはこだわってはいなかった。
   
      「最低限度の単価見積りしか値入れしていなかった」
       と後日、違う方面から知らせて頂いた。
        当然だヨ全く―――。

         しかし、ここでの一週間の経験で必ず『ウラ付けを事前に取る事』の重要性
        を思い知らされたものだった。

   請負業者。
         『請けたら負けた者』とは読んで字の如しだヨ。ホント。
        「待て」と言われれば待つしかないのだ。
          当時は何かとあればすぐに、
         「配属係員(私)を変えろ!」
          と騒ぎ出す『監理監督官』も多数いらっしゃった。

         25歳で一級建築士を取得してた私には、特に風当たりは強かったものだ。
         役所の仕事には今でも、会社は弱い立場の様だ。(オカミには逆らわない)
        その当時に言い返したので私の首もかなり危ない所だった事だろうが、未だに
        くっついている。

        押さえコンクリートを打設しつつ、防水層や目地が徐々にコンクリートで隠れ
       て行くのを、足代の最上部から見下ろしながら、
      (この仕事をするといつも必ず想い出すなあ―――)
       と一人、昔を偲(しの)んでいた。
      いまだに首は繋(つな)がっているし、年も食ったんだと・・・。


         十月二十六日(木) 晴れ

 現場事務所の引っ越しだ。
  午前中に一気にKビル内の3階へ移る事にしている。
  N子もGパン姿でやって来て充分その気になっている。

  ここまでやってくれる女性事務補助員は今までいなかった。
 本人も私の影響(?)でかなり現場の仕事を理解してきたと思える様になった。

この機転の良さから早く嫁いだ(成人式には長男がいた)理由も分かる気がするし、可愛いい
ママさんだけに、現場が明るい雰囲気になっているのも確かだ。

本設のエレベーターがまだ完成していないのは計算外だった。
重たい荷物は土工さんに運んでもらった。
現場事務所の2階から降りて、Kビルの3階へ上るのは、階段の往復だけで疲れてしまう。

どうせ明日、明後日で解体のハウスなら2階の窓を外し取って、そこから3階へ手渡しだ。
こうすると階段の昇り降りが随分少なくて済んだ。
 不思議なもので、皆が階段を集中して使っている時に限って、左官工が階段を補修していて、
通行し難いものだ。

昼迄に引っ越しは完了した。
ロッカー内へはまた以前と同じ位置に書類を並べて置いた。
机の中も同じ状態だ。(場所が変わっても探す手間が省ける球)。
カタログ類が処分されて、必要なものだけが、段ボールのままラックの上に載っている。
願わくば、もうそのまま次の現場へ移動したいものだ。

 今までは無造作に壁に画鋲で打ち付けていた掲示ポスター類がここでは出来ない。
壁はもうクロスを貼るだけになっている。
床は我々の足元だけカーペットを残して貼ってあるのは、汚したらまずいので、ここから引き
揚げ後に事務所部分を貼る様にしている為だ。

電話線も勝手に移動して、足場を経由して配線し、一応は使える様にしておいた。
明日、NTTがきちっと配線を直すけれど、取り合えず電話も使える状態だし、3階のトイレ
使用もOKだ。
仮事務所として使う部屋の照明も明日には完成し、コンセントもOKだ。

湯沸かし器・クーラーの撤去・移設も行ったし、給排水、電気と順次とり除いて現場事務所は
ただの箱(箱番とはうまい表現だ)に戻ってしまった。

それでも、棚とか時計とかが、まだ壁に残っていた。
4月にプレファブ事務所を建てて床に廃油を塗って、机を入れたのが、つい先日に思える。
廃油の真っ黒い所とよく歩いて剥(はげ)かかっている所のコントラストに時の流れが偲(しの)
ばれる。

「足元が滑るよ、書類を落とすと廃油が着いて(吸い込んで)すぐに真っ黒になるヨ」
とワイワイ言っていた春の頃が、懐かしく思える。
切れた電線をまとめたり、ポスターを外したりして、解体を明日の朝から始めても全く支障の
ない様になったのを確認して、午後から『所長会議』に出席した。

今までパトロールの事は書いていたが、所長会議の事は一度も書いてないと気が付いたので
今月は書いてみよう。

毎月最終の木曜午後は『所長会議を行う』と取り決めてある。
以前は支店の都合で「今月は○日に行います」と連絡が来ると、出席したくない場合にはそ
の日を定例打ち合わせに合わせる人もいたと聞く。
なんと姑息(こそく)な考えで現場を預かって、何を監理していたのかと私には理解しかねる。

これをなくす為、支店が当月の最終週の木曜日と指定したのは正解だ。

私はこの会議だけは必ず出席する様にしている。
今日も引っ越し完了後には出向くし、コンクリート打ちが有っても昼からなので出向いている。
竣工検査も官庁検査でない限り日をズラしているつもりだ。
現場の意見を言う絶好のチャンスではないか。
陰で支店の事をブツブツ言うより
「正面切って言え」
ってものだ。

支店からの通達も沢山ある中で、また新しい書類が出来て、
「来月からこれを提出する事になったので・・・」なんてのが一番頭に来る議題だ。

土建屋の会社であっても「店内が現場より強い権力執行を持つ」かの如くに物事を取決めて
いて、現場所長に通達すれば、事務職対技術屋の軋轢(あつれき)が―――。

その時はもう決定後であって、我々は黙って持ち帰るだけの事だ。
こんな事なら出席拒否してそんな書類見たことない!と言う方が賢いやりかたかも知れない。
だから『所長会議』と言えども、その日をあえて打ち合わせ日に重ねていた人の方が、ポリ
シーを持っている分、立派だったのかも知れないと思う時も……ある。

会議の後、I建築部長が、
「君の所のF君、十二月になったら支店へ帰してくれ、次の現場が・・・」と言って来た。
「工期は1月10日ですよ、12月の終わり頃、せめて竣工検査終了後にして下さいヨ」
と答えていたけれど、早く創って後で楽をしようと努力していたのは、何だったのか、次の
現場へ早く送り出す為ではない筈だ……。

年末年始は海外にでも行こうと夢ふくらませ、日曜出勤も時々して頑張っているのに、今日
からは土休もきっちり休んで、工期一杯迄使ってみたくなる様な気持ちを持ってしまった。

工事配属員3人の予定を2人でやり通しているのに、さらに一人抜くなんて発想は・・・。
私がイヤな命令を受けて、やる気を無くしてしまうものだと言う事に気が付かない事はある
まいが、これもさらに上司からの指示だろうと思うと、怒る気力も失せてしまった。

M店舗で腹の内を一度見たではないか―――。もうマイペースで行く。
「ノー」と言いたい時は「ノー」と言う。
私に欠けているモノは「ノー!」と言える言葉だと、この頃気が付いた。
とにかく年末迄はKビルからF君を「さよなら」はさせないからネ。

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